米国の研究チームが、せん妄の高リスク患者を早期に特定するAIモデルを開発した。患者に関するさまざまな情報を解析する「マルチモーダルAI」を開発した研究の内容と成果を紹介する。
米国の非営利医療機関グループMount Sinai Health System配下の医学研究機関、マウントサイナイアイカーン医科大学(Icahn School of Medicine at Mount Sinai)の研究者は、AI(人工知能)モデルを使って入院患者のせん妄リスクを正確に層別化(リスクの評価と分類)できるかどうかを検証した。今回採用されたAIモデルは、テキストや画像など複数のデータ形式を扱うことができる「マルチモーダルAI」だ。データによる学習を繰り返すことで、その性能を向上させることができるという機械学習の特性を有する。研究者はどのようにしてAIモデルによる検出精度の向上を実現したのか。
「せん妄」は医学的、外科的、薬理学的、環境など、さまざまな要因に起因する精神の混乱状態で、入院患者によく見られる症状だ。死亡率を高める可能性があるにもかかわらず、診断が見逃されたり治療が遅れたりする傾向にあるという指摘がある。
マウントサイナイアイカーン医科大学の研究者は、AIモデルを使って、集中治療室(ICU)を除く病棟での患者のせん妄リスクを層別化した。このAIモデルの学習には、2016年1月から2020年1月までの期間に、同大学の付属病院Mount Sinai HospitalでICU以外の病棟に入院した60歳以上の患者3万2284人分の電子カルテ(EMR:Electronic Medical Records)の患者データと、自然言語処理(NLP)を使って処理した臨床記録を活用した。診断の基準として用いたのはせん妄評価法(CAM:Confusion Assessment Method)だ。AIモデルの学習後、研究者は2023年3月から2024年3月にかけて、臨床現場でその性能を検証した。
AIモデルの導入前、CAMを用いたせん妄評価による月間検出率の中央値は4.4%だったが、導入後は17.2%に上昇した。これは、せん妄の検出率が約4倍に増加したことを意味する。
研究者は、AIモデルが実際の臨床現場で利用可能な性能を示したことから、臨床的な意思決定と、人員や物品などのリソース配分の改善に役立つ可能性があると結論付けた。
「私たちが開発したAIモデルは医師に取って代わるものではなく、医師の業務を効率化するための強力なツールだ」。Mount Sinai Health Systemのせん妄部門の創設者兼ディレクターで、医師のジョセフ・フリードマン氏はこう述べる。「膨大な患者データの分析という重労働をAIモデルが担うことで、医療従事者はより効果的かつ精密に患者の診断と治療に専門知識を集中させることができる」
この研究の結果は、2025年5月発行の医学雑誌『The Journal of the American Medical Association』の姉妹誌「JAMA Network Open」に掲載された論文「Machine Learning Multimodal Model for Delirium Risk Stratification」で明らかになった。
2023年2月、ジョンズホプキンス大学(Johns Hopkins University)の研究者は、ICU滞在中の患者の中でせん妄を発症する確率が高い患者を早期に特定できるAIモデルを開発したと発表した。
研究者は、全米の病院のうち208カ所から収集した約20万件のデータを含む公開データセットにアルゴリズムを適用して解析した。このデータを使用して、せん妄リスクを予測するための静的モデルと動的モデルの2つのAIモデルを開発した。静的モデルは患者の入院直後の情報に基づいてせん妄リスクを予測するモデル、動的モデルは入院後の患者の健康状態を継続的に監視して予測するモデルだ。
開発したAIモデルの検証には、ある地域の病院の提供による10万件以上のICU滞在データを用いた。その結果、静的モデルは78.5%の確率でせん妄の発症を予測し、動的モデルは次の12時間以内にせん妄を発症する可能性がある患者を最大90.0%の精度で予測した。
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