「デジタルツイン」導入の“7つの壁”と未来 生成AIで広がる可能性とはデジタルツインとは何か【後編】

デジタルツインの導入が進む一方で、データ管理やシステム連携などのさまざまな課題も浮き彫りになっている。本稿では、現場で直面する具体的な壁と、その乗り越え方を探る。

2025年05月16日 06時00分 公開
[Mary E. ShacklettTechTarget]

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 現実世界の物体やプロセスをデジタル空間で表現した「デジタルツイン」。前編はデジタルツインの本質とビジネスにおける価値を取り上げた。後編は導入を阻む7大課題と解決策について解説する。

技術だけじゃない、デジタルツインの7つの課題

 デジタルツインを開発しようとする組織は、幾つかの障壁に直面することになる。以下では、そうした代表的な7つの課題について説明する。

課題1.データ管理

 デジタルツインには、「CAD」(コンピュータ支援設計)モデルや「IoT」(モノのインターネット)センサーから得たデータが欠かせない。だが、それらのデータを使える状態にするにはデータの前処理が必要な場合がある。デジタルツインに関連するデータを管理し、分析するために「データレイク」の構築が必要になる場合もある。データの正確性を維持するための定期的な更新や、データの所有権と管理権限を社内で明確にすることも課題だ。

課題2.データセキュリティ

 デジタルツインのデータはタイムリーかつミッションクリティカル(業務に不可欠)だ。一方で複数のネットワーク、ソフトウェア、クラウドサービスを経由させなければならないため、各段階でのセキュリティ確保が課題となる。

課題3.IoTセンサーの導入

 IoTセンサーは、物理的な実体またはプロセスに関する、リアルタイムおよび過去データの主要な収集、配信手段であり、デジタルツインに不可欠だ。だがIoTセンサーの導入には、ネットワークインフラやストレージ容量、デバイスとデータのセキュリティ、デバイス管理などに関する課題が伴う。

課題4.システム統合

 デジタルツインは初めにCADソフトウェアで作成するのが一般的だが、実際の運用では「PLM」(製品ライフサイクル管理)ソフトウェアで用い、性能監視や保守などのアフターサービスに活用する。主要なCAD/PLMソフトウェアベンダーは、CAD/PLMソフトウェア同士の連携機能を提供しているが、それでは不十分なことがしばしばだ。特に中小規模ベンダーは、CAD/PLMソフトウェアでデジタルツインを活用する機能を提供していないことがある。

課題5.サプライヤーとの連携

 サプライチェーンを構成する関係者が、それぞれの生産プロセスに関する情報を積極的に共有しなければ、デジタルツインの情報は正確かつ完全なものにはならない。そのため、関係者との情報連携体制の構築が課題になる。

課題6.複雑性

 製造業者やサプライヤーが使用するさまざまなソフトウェアの収集データは膨大で、かつ頻繁に更新される。製造直前に設計が変更された場合でも、その内容をデジタルツインに反映させ、顧客と製造者が最新の情報を共有できるようにしなければならない。

課題7.持続可能性

 デジタルツイン、「人工知能」(AI)、「ブロックチェーン」などの技術は、それらを実行する強力なデータセンターを支えるために膨大なエネルギーとコンピューティングリソースを必要とする。こうした消費は、持続可能性に悪影響を及ぼす可能性がある。

組織がデジタルツインを始めるには

 経営コンサルティング企業McKinsey & Companyは、デジタルツインを導入する前にデータ基盤を整備することを組織に推奨している。これは、信頼性の高いデータを提供できる高品質なデータ基盤を構築、維持する必要があるということだ。

 McKinsey & Companyによると、デジタルツインを開発し、活用を拡大するための主なステップは以下の3つだ。

  1. 設計図の作成
    • 構築するデジタルツインの種類、機能の発展計画、価値と再利用性を最大化するための構築順序を定義する
    • デジタルツインに関する所有権とガバナンス体制を明確にする
  2. ベースとなるデジタルツインの構築
    • 収集したデータの可視化や、デジタルツインの初期段階における利用事例を作成するための土台になる、中核的なデータセットを整備する
  3. デジタルツインの拡張と改善
    • データ、分析機能、AI技術、シミュレーション機能を追加する

 組織は、最初に構築した再利用可能なデータセットとデジタルツインをベースに、利用事例を拡大可能だ。デジタルツインは現実世界からのフィードバックに基づいて進化し、より高度な予測能力を獲得する。デジタルツイン同士を接続して、業務フローやプロセスを仮想空間で再現した「プロセスツイン」を形成すれば、実体間の関係をシミュレートできるようになる。顧客のデジタルツインを小売店、EC(電子商取引)サイト、サプライチェーンを支えるインフラのデジタルツインと連携させることで、企業はビジネス戦略を分析、シミュレートし、最終的には「企業メタバース」の構築につなげることも可能だ。

デジタルツインの未来

 近い将来、開発者はデジタルツインの適用範囲を、さらに広げていくとみられる。人体の部位から個人、スマートシティー、グローバルサプライチェーンにまで対象が拡大する見込みだ。

 デジタルツインのコストが低下するにつれ、企業はその使用を最も高価で重要な機器だけに限定せず、より広範な用途に活用するようになる。デジタルツインの開発手段やIoT、メタバースなどの関連技術の継続的な成長によって、デジタルツインは一層普及し、企業が導入しやすくなると予測される。

 今後デジタルツインそのものが大きく進化することも考えられる。研究者は、画像やテキストを自動生成するAI技術「生成AI」機能を備え、物理的な実体と連動して知的なパートナーとして機能する「認知型デジタルツイン」についての議論を進めている。ソフトウェア開発者は、デジタルツインに供給される多様なデータソースを統一し、生成AIのトレーニングに適した形にするため、「セマンティックネットワーク」などの新しい構造を持つデータベースの開発にも取り組んでいる。セマンティックネットワークとは、個々のデータや情報が持つ意味の関連性を表すネットワーク構造だ。

 デジタルツインの可能性を楽観視する人々は、家庭用品から地球環境に至るまで、あらゆる複雑さにおいて知的なデジタルツインが普遍的に存在する未来を思い描いている。このようなデジタルトランスフォーメーションが現実的かどうか、そもそも望ましいかどうかは議論の余地があるが、デジタルツインがその未来で重要な役割を果たすことは間違いない。

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