“人の意図を読めるAI”に不可欠な「NLU」とは? 役割と活用例を基礎から学ぶNLP、NLGとの違いは?

AIエージェントやAIチャットbotの開発を進める上で理解が必要なのが、人の話し言葉を理解するための技術「自然言語理解」(NLU)だ。本稿を通じて、NLUの仕組みと具体的な活用例を学ぼう。

2025年05月22日 06時00分 公開
[Alexander S. GillisTechTarget]

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 自然言語理解(NLU:Natural Language Understanding)は人工知能(AI)技術の一分野で、人間の話し言葉や書き言葉の意味をコンピュータが理解するための技術だ。本稿は、NLUの定義や構成要素、具体的な活用例を紹介する。

NLUの基本を理解しよう

 コンピュータはNLUによって、英語やフランス語、中国語など、人間が使用する自然言語で表現された意味を、コンピュータが解釈するための特定の形式を使わずに理解できる。

 NLUを構成する要素の一つに「構文解析」(Parsing)がある。これは自然言語のテキストを、コンピュータが理解しやすい形に変換する処理だ。構文解析によって、コンピュータは自然言語で書かれたテキストを理解して応答できるようになる。

どのようにNLUは機能するのか

 NLUは、アルゴリズムを使用して人間の話し言葉や書き言葉を解析し、その意味を構造化されたオントロジーに変換する。オントロジーとは、意味論(言葉が持つ意味)と語用論(言葉がコミュニケーションでどう使われ、どのような意図を伝えるのか)の定義をまとめたデータモデルだ。言葉や概念を分類して、それらの関係性を体系的に整理した枠組みだと言える。

 NLUには、「意図認識」と「エンティティ認識」という2つの基本的なプロセスがある。

1.意図認識

 人間が入力したテキストから、その背景にある感情を識別し、その目的を判断するプロセスだ。テキストの意味を確立する、NLUの最も重要な部分になる。

2.エンティティ認識

 テキストにある特定の要素(エンティティ)を識別し、その中から重要な情報を抽出するプロセスだ。エンティティには、固有エンティティと数値エンティティの2種類がある。固有エンティティには人名、企業名、場所などが、数値エンティティには数量、日付、通貨、パーセンテージなどがある。

 NLUに自然言語テキストが与えられると、NLUは入力内容をトークン(単語や句読点などの記号)に分割する。これらのトークンを辞書と照合し、単語や品詞を識別する。その後、文法構造、単語の役割、意味の多義性などの観点からトークンを分析するという流れだ。

 あるエンドユーザーが、“island camping trip on Vancouver Island Aug. 18”(バンクーバー島で8月18日にキャンプ旅行)と検索エンジンに入力したとする。このとき、検索エンジン内のNLUプログラムは入力内容を以下のように分解する。

  • フェリーのチケット[意図]/必要:
  • キャンプ場の予約[意図]
  • バンクーバー島[場所]
  • 8月18日[日付]

 この例では「バンクーバー島」が固有エンティティ、「8月18日」が数値エンティティだ。入力内容から推測できるエンドユーザーの意図は「チケットを購入すること」になる。目的地であるキャンプ場は島にあるため、フェリーが最も有力な移動手段となるからだ。この分析に基づいて、検索エンジンはフェリーのスケジュールとチケット購入のリンクを検索結果として提示する可能性が高くなる。これは入力内容が必要、場所、意図、時間に分解されて、NLUが入力内容を理解できるようになったためだ。

NLU、NLP、NLGの違い

 自然言語処理(NLP:Natural Language Processing)は、自然言語をコンピュータが理解、分析し、人間とコンピュータが対話できるようにするための技術の総称を指す。NLUはNLPの一分野であり、人間が与えたテキストの意味を分析したり理解したりするための技術だ。

 NLUは、自然言語処理の専門的な訓練を受けていないエンドユーザーとコミュニケーションを取り、その意図を理解することに重点を置く。人間の言葉を理解しその意味を解釈するだけではなく、発音の誤り、文字や単語の入れ替わりといった誤りがあっても、言葉の意味を理解できるように設計されている。

 NLPを構成するもう一つの要素が自然言語生成(NLG:Natural Language Generation)だ。NLGは人間のコミュニケーションを模倣してテキストを自動で生成する。

 一般的に、コンピュータが生成したテキストは、人間が書くテキストのような流ちょうさ、感情、個性といった要素に欠けやすい。NLGとNLPを組み合わせることで、人間が書いたように自然なテキストを生成できるようになる。この処理では、まずテキストの主題を特定し、次にNLPを使用してエンドユーザーの母語でその主題を表現する最適な方法を決定してから、それに基づくテキストを生成する。

 NLGの用例としては、コンピュータが特定のイベントに関するデータセットを基にニュース記事を自動で生成したり、特定の製品に関する一連の属性に基づいて販売用の文書を作成したりすることがある。

 NLUの用例としては、AIチャットbotや音声アシスタントといったAIサービスの開発がある。Amazon.com、Apple、Google、Microsoftといった大手IT企業やさまざまなスタートアップ(新興企業)が、NLUプロジェクトや言語モデルの開発に取り組んでいる。

 人間の言語は複雑で、微妙なニュアンスを含んでいたり、話し言葉や書き言葉の中で単語の意味が揺らいだりする場合があり、その内容をコンピュータが理解することは簡単ではない。NLUによって、企業は人間の言葉を理解し、その意味を解釈できる製品やツールを開発できるようになる。以下に具体的なNLUの活用例を6つ挙げる。

NLUの活用例6選

活用例1.電話の自動応答音声への活用

 IVR(Interactive Voice Response:自動音声応答)は、エンドユーザーが通話を使って問い合せる際に、エンドユーザー自身がプッシュボタンを押すことで対応方法を選択したり通話先を振り分けたりする仕組みだ。NLPやNLUといったAI技術を組み込むことで、IVRシステムはエンドユーザーの音声を処理してテキストに変換し、文法構造を解析することで通話内容の意図を推測する。

活用例2.FAQ用チャットbotの実装

 テキストや音声を通じて自然言語で人間と会話するチャットbotの基盤技術として、NLUを活用できる。チャットbotを使ってカスタマーサービスのFAQを処理するためには、NLUにおける特徴抽出や分類、エンティティと関連情報の連携、ナレッジマネジメントなど、さまざまなプロセスが必要になる。

活用例3.エンドユーザーの感情や意図の分析

 NLUを使って特定の企業や商品に対するソーシャルメディアのコメントを分析し、その内容にひも付いているのはポジティブな感情なのか、ネガティブな感情なのかを分析できる。Webサイトの検索バーに入力された単語やテキストを収集、分析し、エンドユーザーがWebサイトを閲覧した意図を理解することも可能だ。

活用例4.機械翻訳の精度向上

 機械学習のアルゴリズムは、自然言語を使ったテキストを一から生成するためにも使われる。翻訳分野では、アルゴリズムが契約書や財務文書など膨大な量のテキストを分析し、別の言語に翻訳する方法を学習する。分析する文書が増えるほど、翻訳の精度は向上する傾向にある。エンドユーザーが辞書を使って翻訳する場合は、単語単位で置き換えることが一般的だ。一方で機械翻訳を使えば、単語が置かれた文脈を考慮して単語を検索するため、より正確な翻訳が期待できる。

活用例5.音声によるデータキャプチャーの実現

 特定の人物や物体、イベントに関する情報を収集、記録するプロセスがデータキャプチャーだ。NLUを使うことで、エンドユーザーの発話など自然言語の入力からもデータを取得できるようになった。Eコマース(EC:電子商取引)サイトにNLUを導入すれば、エンドユーザーが配送先や請求先の情報を口頭で入力し、その音声からエンドユーザーの意図を理解してデータを自動で入力可能になる。

活用例6.音声操作デバイスに対する発話の処理

 Amazon.comの仮想アシスタント「Alexa」やGoogleのスマートスピーカー「Google Home」をはじめとした音声操作デバイスに話し掛けた内容の処理は、NLUが実施している。発話に含まれる単語やテキストを分割して文法を認識し、構造化データや単語や文脈の解釈に使用する「意味的知識」を使用することで意図を推測する。

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