少量の学習データでAIモデルをトレーニングする「フューショット学習」が注目を集めている。具体的にどのような場面で活用されているのか。
AIモデルの学習には、一般的に教師あり学習が用いられるが、必ずしも実用的とは限らない。大量の学習データや、データを処理するためのコンピューティングリソースを常に確保できるわけではないからだ。こうした課題を解決する手段の一つに、少ないデータでAIモデルを訓練する「フューショット学習」(Few-shot Learning)がある。フューショット学習が適用される代表的なケースを紹介する。
まず、フューショット学習は以下のような場合に適するとされる。
大半の企業は、AIモデルの学習に十分なデータを保有しておらず、外部データの購入やライセンス契約を検討することになる。そのコストが高過ぎる場合、フューショット学習を活用することで、限られたデータから学習を実施するという選択肢を持つことができる。
AIモデルの学習には、正確にラベル付けされたデータが不可欠だが、ラベル付けが不完全なことは珍しくない。特に、専門知識を持たない人がラベル付けを実施する場合、誤った分類が発生しやすい。フューショット学習により、少ないデータでも有用な知識を獲得できる。
全てのトピックに十分な学習データが存在するわけではない。例えば、希少疾病の診断や、新種の生物の識別、特殊サンプルの解析においては、学習データの不足が大きな課題となる。フューショット学習を活用すれば、限られたデータでAIモデルの精度向上ができる。
教師あり学習には、大量のデータとコンピューティングリソースを必要とするため、全ての企業がこれらを賄えるとは限らない。フューショット学習では、最小限のリソースを活用して、一定の精度を持つAIモデルを構築できる。
それでは、フューショット学習は実際にどのような場面で採用されているのか。
フューショット学習は、文字認識、画像分類、物体追跡、ラベル付けといったタスクを支援する。例えば、鳥を認識するAIモデルに新種の鳥を追加学習させる場合、少数のサンプルのみで知識を拡張できる。
ロボットが人間の動作を模倣してタスクを学習する際に、フューショット学習が有効だ。例えば、移動経路や、部品の組み立て手順など、限られたサンプルから新しい動作を学ぶことで、より柔軟な自律動作が可能になる。
音声認識や翻訳などのタスクにもフューショット学習が有効だ。例えば、音声認識システムが、わずかな音声サンプルを基に話者を識別し、正確な文字起こしをできるようになる。
フューショット学習は、翻訳、文章の補完、感情分析、構文解析などの自然言語処理(NLP)タスクにも活用される。例えば、翻訳システムがある単語を誤って翻訳した場合、フューショット学習を用いることで、文脈や発音の修正、新しい語彙の追加が可能となる。
特に画像診断の分野で、フューショット学習は有効だ。例えば、医療用画像解析システムが、正常細胞とがん細胞の違いを少数のデータセットから学習し、診断精度を向上させることができる。
フューショット学習は、データが少ない状況や、既存の学習データでは対処できない特殊な問題に適用できる。例えば、限られたデータから数式の法則を見つけ出したり、新しい数学的推論モデルを構築したりといった用途に活用できる。
次回は、フューショット学習のメリットとデメリットを解説する。
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