NVIDIA「H20」輸出規制で“GPUの覇者”と半導体市場はどう動くのか?米中AI覇権争いへの影響は

米国政府による対中輸出規制の制限対象に、NVIDIAの中国向けGPU「H20」が加えられた。規制強化がもたらした影響と、NVIDIAおよび競合ベンダーの動きを解説する。

2025年05月23日 05時00分 公開
[Cliff SaranTechTarget]

関連キーワード

人工知能 | GPU


 米国政府はNVIDIAのGPU(グラフィックス処理装置)「NVIDIA H20」に対して中国向けの輸出規制を課した。これはAI(人工知能)向け半導体および先進的なAIモデルの利用を、中国に対して制限するというジョー・バイデン政権の方針を踏襲したものだ。米中間で激化するAI覇権競争の一環とも位置付けられる。この規制強化によってNVIDIAは深刻な打撃を受ける可能性があるが、具体的には同社と半導体市場にどのような影響があると見込まれるのか。

NVIDIA「H20」の対中輸出規制 “GPUの覇者”に逆風?

 米国商務省産業安全保障局(BIS)が2025年1月に発表した「AIの拡散に関する枠組み」(Framework for Artificial Intelligence Diffusion)では、高度な半導体に対する輸出管理規則を導入している。BISは、先端的な計算用集積回路の輸出、再輸出、および国内移転を、特定の地域およびエンドユーザーに限定することで、悪意のある国家や独立系グループが高度なAIモデルにアクセスするリスクを低減できるとしている。

 同じタイミングで、NVIDIAの政府対応担当バイスプレジデントを務めるネッド・フィンクル氏は、バイデン政権による半導体輸出の抑制策を非難するブログ記事を投稿した。フィンクル氏はその中で、次のように指摘した。「バイデン政権は退任間際に、200ページを超える規制案を秘密裏に、適切な立法手続きを経ることなく発表し、米国のリーダーシップを弱体化させようとしている。これは米国の先端半導体、コンピュータ、システム、さらにはソフトウェアの設計と世界市場への展開に対して、官僚的な支配を課そうとする権限の乱用だ」

 フィンクル氏はバイデン政権の対応を「市場の結果を操作し、競争を抑圧しようとする試み」と表現し、「この新たな規制は、米国が苦労して築き上げた技術的優位性を無駄にする恐れがあり、米国の安全保障の強化にもつながらない」とも批判した。

 今回の規制は既に施行されており、トランプ政権がバイデン政権で導入された輸出規制を撤回しなかったことが明らかになった。公共放送局BBCの報道によれば、NVIDIAは2025年4月15日、トランプ政権から「H20チップを中国へ輸出するにはライセンスが必要」と通達されたという。NVIDIAは輸出規制を順守しつつ、ユーザー企業への供給を継続すると表明したが、規制発効を受けて株価は下落した。

 NVIDIAの2025年度第4四半期(2024年11〜2025年1月期)の決算説明会では、同社の最高財務責任者(CFO)コレット・クレス氏が次のように説明した。「データセンター事業の収益に占める中国市場の割合は、輸出規制が導入された時期に比べて依然として低い水準にとどまっている」。中国のデータセンター市場は非常に競争が激しく、規制に変更がない限り、中国向けの出荷比率は今後も現状とほぼ同じ水準にとどまると予測しているという。

 H20は性能を抑えたAIアクセラレーター(AI関連処理を高速化するために特別に設計されたハードウェア)向けのGPUとして、NVIDIAが中国市場向けに設計したものだ。シンクタンクMercator Institute for China Studiesでシニアアナリストを務めるアントニア・フマイディ氏によれば、2024年にNVIDIAは中国企業向けに100万個のH20を販売したという。

 2025年2月、経済紙『Financial Times』は、中国の通信機器ベンダーHuawei Technologies(以下、Huawei)が自社開発のAI向け半導体「Ascend」の生産を拡大していると報じた。それに対してフマイディ氏は、Huaweiの2024年の出荷数は20万個にとどまる状況を指摘し、「中国の半導体産業が構造的な課題を抱えていることを示している」と言及している。

 「半導体を動かすためのHuaweiのソフトウェアはNVIDIAと比べてまだ成熟しておらず、ツールや開発環境が十分に整っていない。中国の開発者はAIモデルの学習に同社製半導体を採用することをためらっている」。フマイディ氏はそう付け加える。

 NVIDIAは、TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)、Foxconn Technology Group、Wistron、Amkor Technology、Siliconware Precision Industries(SPIL)などの半導体受託製造関連事業者との提携を通じて、2029年までに最大5000億ドル(約71兆円)規模のAI向けインフラ製品を米国内で生産する計画を発表している。

 NVIDIAは既に、TSMCのアリゾナ州フェニックスにある工場で「Blackwell」アーキテクチャに基づくGPUの製造を開始している。テキサス州ヒューストンではFoxconnと共同で、ダラスではWistronと共同でスーパーコンピュータの製造拠点を建設しており、両拠点での生産は1年程度で本格化する見通しだという。

(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国Informa TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...