“中国製だから問題”とは限らない? DeepSeekに見る生成AIの根本的な課題米国の議員が「禁止」法案を提出

米議会で、中国のDeepSeekが開発したAIチャットbotサービスを政府機関の端末で利用できないようにする法案が提出された。議員らは安全保障上のリスクを強調するが、別の専門家は根本的な課題を指摘する。

2025年02月14日 06時00分 公開
[Alex ScroxtonTechTarget]

関連キーワード

人工知能 |機械学習


 米議会で、中国のAI(人工知能)技術ベンダーDeepSeekが開発したAIチャットbotサービスの利用を禁止する措置が議論されている。2025年2月6日(現地時間)、米民主党のジョシュ・ゴットハイマー下院議員と共和党のダリン・ラフード下院議員は「政府機関の端末でDeepSeekの使用を禁止する法案」(No DeepSeek on Government Devices Act)を提出した。

 ラフード氏は、「DeepSeekが米国のエンドユーザーのデータを取得し、中国共産党が不明確な用途のために保存している」と指摘する。米国以外にオーストラリア、台湾、イタリア政府も同様の措置を進めている。一方、ある専門家は、DeepSeekが「中国のベンダーである」という点に批判が集中していることを憂慮する。

“中国のベンダーだから問題”ではない?

 「DeepSeekが米国に及ぼす国家安全保障上の脅威は憂慮すべきものだ」とラフード氏は主張する。「いかなる状況でも、中国政府の関連企業が機密性の高い政府データや個人データを入手することは許されない」(同氏)

 「中国政府は、米国の安全保障を損なうため、有害な偽情報を広めるため、米国民のデータを収集するために、さまざまな手段を利用している」とゴットハイマー氏も懸念を示す。

 ミズーリ州選出の共和党のジョシュ・ホーリー上院議員も2025年1月、「アメリカのAI機能を中国から切り離す法案」(Decoupling America’s Artificial Intelligence Capabilities from China Act)を提出した。同法案は、中国で開発されたAI技術の利用を規制し、国家安全保障上のリスク軽減を目的としている。違反者には最大20年の懲役刑と1億ドルまでの罰金を科すことを想定する。ただし、法案はDeepSeekには言及していない。

 AI検索エンジンベンダーCorpora.aiのCEO、メル・モリス氏は、「政府や軍事分野における非同盟国の技術使用については、長年にわたって懸念が存在してきた」と述べる。例えば、米国商務省は2019年、輸出管理法に基づき安保上懸念がある企業を列挙した「エンティティリスト」に中国の通信機器ベンダーHuawei Technologiesを追加した。

 一方、「政治家たちは木を見て森を見ていない可能性がある」と、セキュリティベンダーImmuniwebのCEOで英国コンピュータ協会(BCS:British Computer Society)フェローのイリア・コロチェンコ氏は指摘する。同氏は「DeepSeekの使用に伴うリスクは理解できる」と述べる一方、「DeepSeekがもたらす利益がリスクを上回るのであれば、リスクを冒してでも利用するだけの価値はある」と言う。

 コロチェンコ氏は、DeepSeekが中国のベンダーであるという点から離れるべきだと指摘する。「中国以外のさまざまな国の生成AIベンダーやSaaS(Software as a Service)ベンダーも、DeepSeekと同様の、あるいはそれ以上の問題を抱えている」と同氏は言う。

 DeepSeekのリスクを軽視したり過小評価したりすべきではないが、他の生成AIベンダーが抱えるリスクや課題も忘れてはならない。「一部の生成AIベンダーは、コンテンツの制作者や著作権者に許可を求めることなく、インターネットからコンテンツを無断で収集し、大規模言語モデル(LLM)の学習に使用している」(コロチェンコ氏)

 「DeepSeekを巡る騒動は、他の生成AIベンダーの重大な違反やリスクを忘れ去るための『都合の良い』理由にはならない」とコロチェンコ氏は警鐘を鳴らす。

TechTarget.AIとは

TechTarget.AI編集部は生成AIなどのサービスを利用し、米国Informa TechTargetの記事を翻訳して国内向けにお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news093.jpg

TikTokのトレンドに変化 なぜ「1分超え」動画が見られている?
Bufferのデータによると、TikTokでは最近、長めの動画が人気を集めている。

news136.png

アドビが「10種類のAIエージェント」を発表 顧客体験はどう変わる?
アドビの年次イベント「Adobe Summit 2025」が開催された。初日の基調講演では、アドビの...

news064.jpg

「ブランドは叩かれて強くなる」 ジャガーのCMOが語った炎上の乗り越え方
SXSWで開催された「Female Quotient」のイベントにおいて、Jaguar Land Roverの米国CMOは...