“AI暴走”は対岸の火事ではない 事業を脅かす5つのリスクと対策AI活用の8大リスクと対策【前編】

事業の成長においてAI技術が不可欠になりつつある現代、企業はAI技術のリスクを把握し、適切に対処することが求められている。経営や法規則、倫理といった、事業に影響を与えるAI技術のリスクと対策を考察する。

2025年05月25日 05時00分 公開
[Damon GarnTechTarget]

 人工知能(AI)技術によって世界はますます変化しており、業務プロセスやアプリケーションにAI技術を取り入れることが一大トレンドになっている。ただしAI技術がもたらす恩恵の裏には、新たなリスクも潜んでいる。

 絶えず進化するAI技術のリスクを早期かつ正確に理解することは、現代の企業がイノベーションを実現する上で欠かせない。本連載は企業が考慮すべき主要な8つのリスクを取り上げ、その問題と実践的な対策を紹介する。

企業の経営にも影響しかねないAIのリスクとは?

 AI技術は事業の運営に影響するさまざまな利益をもたらし得る一方で、幾つかのリスクを生み出す可能性もある。主に経営層やガバナンス担当者が主導して対処すべきリスクは以下の通りだ。

リスク1.経済的リスク

 現代において、AI技術は小規模な事業から世界経済まで、経済に甚大な影響を与えている。経済的なAI技術のリスクとして挙げられるのは以下の2つだ。

雇用の喪失に対する懸念

 AI技術は新たな雇用を創出し得る一方で、労働者はAI技術による失業に対して不安を抱いている。AI技術が労働者にもたらす脅威について、世間が抱くイメージと実態が一致していなくても、この不安感は人々に以下の影響を及ぼす可能性がある。

  • 労働意欲の低下
  • 生産性の低下
  • AI技術の影響を受ける業界からの人材流出
  • 実情にそぐわない政策や規制の策定
  • 誤った教育方針の策定
  • 投資控えの広がり

 企業はこれらの懸念にどう対処すればよいのか。まずは、AI技術が人のスキルや雇用の安定、役割の変化に与える影響を明確に伝えることから始めよう。その上で、従業員にスキルアップの機会や新たなキャリアパスを提供することが重要だ。AI技術の導入による変化に対して、従業員に主体的な関与を促し、自ら意見を出せるような体制を整えることも欠かせない。責任あるAI技術の活用を全社的に実践し、示すことが求められる。

資源と権力の集中

 企業が経済的、社会的な競争で優位に立つには情報の的確な管理と活用が不可欠だ。特に、膨大なデータを学習する必要があるAI分野は、情報の有無が事業の成否に大きく関わるそのため、AIモデルの学習用のデータセットを管理することは極めて重要だ。Google、Meta Platforms、Microsoft、Amazon.comといった大手ITベンダーは、AIモデルの開発や稼働に必要なコンピューティングリソース、最先端技術の開発力、学習用データといった資源を、既に他社が容易には追随できないレベルで独占している。一部企業への資源、ひいては権力の集中は、技術革新の阻害、消費者搾取、富の集中といった独占に関する経済問題に直結する。

 権力の集中を軽減するには、独占禁止法の制定と施行、労働者と消費者の法的保護などが有効だ。特定企業の管理外にある、公的なAI関連タスク用のインフラを構築することも選択肢になる。

リスク2.プライバシー侵害リスク

 AI技術に関する大きな懸念事項の一つは、個人のプライバシーだ。この懸念に対処するには、AI技術の慎重かつ思慮深い利用が求められる。

プライバシーの侵害

 AIモデルは膨大な量のデータから学習する。これらのデータに個人情報が含まれているかどうかを管理したり、把握したりすることが困難な場合がある。懸念対象は、健康診断の結果などの直接的な健康記録が漏れることだけではない。AIモデルは行動パターンや購買履歴などの健康とは一見関係のない領域のデータを分析することで、個人の健康状態を推測できる場合がある。この推測がプライバシー基準に違反したり、不正確な結果を出力したりする恐れがある。AIモデル用の学習データに含まれ得る政治的見解、個人的習慣、経済状況などの個人情報でも、同様の問題が生じかねない。

 プライバシーリスクを軽減するには、法的な保護措置を講じたり、AI技術の利用に関する倫理規範を確立したりすることが考えられる。AIモデル用の学習データとして、個人情報が混入していない、信頼できるデータソースを用意することも重要だ。

個人の自由の制約

 交差点や建物、通路などにカメラが設置されている現代において、人々は至る所で監視下に置かれている。警備アルゴリズム、顔認証、行動分析などにAI技術を活用することで、監視を強化可能だ。

 一方で、特定のコミュニティーが集中的に監視される恐れがある。このような監視は人々の行動を制限し、「個人の自由が損なわれるのではないか」という懸念につながる。個人の自由に対する潜在的な脅威には、監視や法執行機関による取り締まり、パターン認識に基づく行動分析などがあり、これらは言論、集会、報道の自由といった基本的な人権や、その他の社会批判の手段を脅かしかねない。AI技術はこのような監視が強化された社会を構築し、広め、強制するために利用される危険性をはらむ。

 これらの問題に対処するために、企業は監視や個人の自由の制約に関する従業員と顧客の意見に耳を傾けなければならない。自社が利用するAIモデルを徹底的に調査、理解するとともに、AI技術の活用を通じて収集されたデータの用途を明確にする必要がある。

リスク3.広報リスク

 企業のAI技術活用は、その企業に対する外部からの評価に影響を及ぼす。AI技術は比較的新しい技術であるため、人々はAI技術に対してさまざまなレベルの信頼感あるいは不信感を抱いている。AI技術が生み出す情報の正確性や活用における倫理観は、これらの評価を左右する。

誤作動や不具合

 AI技術を活用した製品やサービスが、AI技術に関する技術的エラーや誤表示などの不具合に見舞われた場合、企業のイメージに悪い影響を与える可能性がある。現代の人々がAI技術に抱いている警戒心を考慮すると、このリスクには特に注意すべきだ。製品やサービスの公開前に、全ての資料に人が目を通すといった、従来の検証手法でAI技術が生成した情報を検証することは、こうしたリスクを軽減する助けになる。

倫理的な活用

 正確性に加えて、AI技術の倫理的な活用が自社の社会的評価にどう影響するのかを考慮することも重要だ。企業がAI技術を倫理や法律を無視して活用しているという認識だけで、製品やサービスに否定的な注目が集まる恐れがある。このリスクを低減するためには、AI技術の倫理的な活用方針を公表し、それを順守することが重要だ。透明性の確保は、AI技術が抱えるリスクに対する強力な防御策になる。

リスク4.法的リスク

 世論だけではなく法規制の観点も重要だ。企業はAI技術に関する法的違反や業界コンプライアンス違反のリスクを認識し、それらを未然に防ぐ責任がある。

知的財産および著作権の保護

 AIモデルの学習には膨大なデータが必要だ。これらのデータに著作権で保護された素材や機密情報が含まれる場合、その情報を含む結果をAIモデルが生成して公開すれば、法的問題につながる可能性がある。AI技術が生成した結果の所有権も論点だ。

 対策として、AIモデルが学習に用いるデータセットを慎重に監視、管理することが重要になる。AIモデルを提供する企業は、モデル利用者がこうしたリスクを管理できるようにするために、学習データに関する透明性を確保する責任を負う。

コンプライアンス

 AI技術の活用における法令順守(コンプライアンス)、特にデータプライバシーに関する懸念、知的財産権の侵害、透明性の確保、不適切あるいは時代遅れなコンプライアンスについては、慎重に監視すべきだ。AI技術に関する法規制は整備が進んでいるさなかであり、データ管理や個人のプライバシーに関する法規制もその保護範囲が拡大しつつある。このような法規制が急速に変化する中で、企業の既存のコンプライアンス体制では新たな技術や法的要請に十分に対処できない問題が浮上している。AI技術を活用する企業は、法規制に関する情報を的確に収集し、AIモデルの学習データや生成情報などの関連データを慎重に管理することが欠かせない。

リスク5.透明性リスク

 事業運営にAI技術を広く活用している企業は、AI技術を活用した意思決定および情報収集のプロセスを把握し、それらがどのように実施されるのかを明確に説明できる必要がある。同時に、そうしたプロセスを踏んで下された意思決定に関して起こり得る法的および倫理的な問題にも、誠実に向き合うことが不可欠だ。

意思決定と情報収集

 AI技術を用いた意思決定は、そのプロセスの不透明さから、信頼性、一貫性に関する問題を引き起こす可能性がある。AI技術が特定の結論や行動方針を提案した経緯が常に明確だとは限らない。人の管理者が経緯を理解せずにAIモデルの提案を受け入れることは、責任を伴わない行動であり、さまざまな問題が生じかねない。AI技術を利用する企業は、こうした「AI主導の意思決定」に関する法的または倫理的な問題を考慮する必要がある。

 情報収集活動に関しても同様の懸念が存在する。出典を明示したり、データの出どころを明確に示したりするAIモデルは一部であり、AIモデルが提示する「事実」が本当に事実かどうかを検証することは簡単ではない。企業はこのような懸念を隠さずに、関係者に積極的に開示して認識を共有することが望ましい。隠れた欠陥や信頼性の欠如が後になって発覚した場合、企業の評判や市場での競争力に深刻な影響をもたらす問題に発展する可能性がある。


 次回は、6〜8つ目のリスクを紹介する。

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