「LangChain」入門──プロンプト、ツール、チェーンで始めるLLMアプリ開発LangChainで始めるLLMアプリ開発【前編】

生成AIを活用したアプリケーション開発が本格化する中で、LLMと外部システムをどう連携させるかが重要な課題となっている。この課題を解決する有力なフレームワークとして注目されているのが「LangChain」だ。

2025年08月08日 07時00分 公開
[Kerry DoyleTechTarget]

 生成AIをベースにした高度なAIアプリケーションを開発するには、多様なデータセットと大規模言語モデル(LLM)を連携させることが不可欠だ。とはいえ、標準化された方法でLLMから各ツールやデータにアクセスするよう制御する機能を実現するのは簡単ではない。

 生成AIを活用したアプリケーションの開発を支援するオープンソースのフレームワーク「LangChain」を使えば、生成AIを外部のツールやデータソース、API(アプリケーションプログラミングインタフェース)と連携させ、より高機能かつ動的なAIアプリケーションを構築することが可能になる。LangChainは、LLMの操作やAPIとの統合のデファクトスタンダードとなっている。対象のLLMが従来のソフトウェアとやりとりするための重要な仲介役を担う。

 2022年に登場して以来、LangChainは急速に進化してきた。本稿では、LangChainの主要な機能と特徴を踏まえながら、このツールを使ってAIアプリケーションをどのように開発できるのかを紹介する。

LangChain理解の肝:プロンプト、ツール、チェーン

 LangChainを使えば、AIモデルを外部のソフトウェアやAPI、データベースなどに接続できる。これによって情報を取得したり外部システムに指示を出したりすることで、AIアプリケーションはより実用的な処理を担えるようになる。LangChainには、「プロンプト」「ツール」「チェーン」という3つの構成要素がある。

プロンプト

 LangChainのあらゆる処理は「プロンプト」を中心に展開される。プロンプトとは、生成AIがタスクを実行する際の“指示文”や“問い”であり、AIアプリケーションの起点となる要素だ。

 シンプルなLLMの活用であれば、基本的なプロンプトだけでも実装できる。だが、過去のやりとりやコンテキスト(文脈)を記憶する「メモリ」の追加、プロンプト内容の動的な変化への対応といった高度なユースケースでは、プロンプト設計が複雑になる。

 LangChainはこうした複雑さに対応するため、「プロンプトテンプレート」と呼ばれる仕組みを用意している。これは、開発者が動的な入力を埋め込める再利用可能なテキスト構造であり、プロンプトの柔軟なカスタマイズや再利用を可能にする。

ツール

 LangChainにおける「ツール」とは、LLMのタスクを構成する個々のモジュールのことだ。これらのツールを組み合わせて接続することで、より複雑で実用的なAIアプリケーションを構築できる。ツールは、後述する「チェーン」の構成要素としても使われる。

 LangChainは、あらかじめ利用可能なさまざまな組み込みツールを提供しており、これらを使ってLLMの処理能力を拡張できる。代表的なツールには以下のようなものがある。

  • Tavily Search API
    • LLM用に設計されたリアルタイム検索エンジン。外部情報を即座に取得して活用できる。
  • Python REPL(Read-Eval-Print Loop)
    • Pythonコードを1行ずつ入力してその場で実行できる標準機能。計算処理やロジック検証に活用される。
  • SerpAPI
    • Googleなどの検索エンジン結果をAIアプリケーションに統合できる。
  • Wolfram Alphaプラグイン
    • Wolfram Researchが提供する計算知識エンジン「Wolfram Alpha」と連携し、数学的な推論や高度な情報処理を実行できる。

チェーン

 LangChainにおける「チェーン」とは、複数の処理ステップ(リンク)を連結したワークフローのことを指す。それぞれのリンクには「ツール」や「プロンプト」などが割り当てられ、あるリンクの出力が次のリンクの入力として渡されていく。つまり、直列的な処理の流れを構築できるのが特徴だ。

 最も基本的なチェーンは、プロンプトテンプレートとLLMインスタンスを結び付けたシンプルな構成となる。一方、より複雑なチェーンでは、複数のユーティリティーツールや外部APIを組み合わせて、段階的に情報処理を行いながら目的の結果を導き出すような高度な制御が可能になる。

 LangChainでは、以下の3種類のチェーンが提供されている。

  • 汎用(はんよう)チェーン
    • 他のチェーンを構築するための基本構成を担う。再利用性が高く、柔軟な設計が可能。
  • ユーティリティーチェーン
    • 複数のツールを組み合わせて一連の処理を自動化するために使用される。
  • 非同期チェーン
    • 複数の処理を並行して実行し、効率的なパフォーマンスを実現する。

高度なチェーン活用とRAGの実現

 汎用チェーンでは、プロンプトテンプレートが入力データをフォーマット(整形)し、LLMに渡す役割を担う。その派生であるトランスフォームチェーンは、入力に変換処理を加えた上で、別のチェーンやLLMに受け渡すことで、より精緻な出力を導く。

 「APIChain」のようなモジュールを使えば、開発者はLLMが外部データとやりとりするためのAPIを柔軟に設計できる。これにより、LLMを“外部連携可能なインテリジェントエージェント”として機能させることが可能になる。

 ユーティリティーチェーンは、AIアプリケーションの機能拡張やタスクの自動化、動的コンテンツの生成に貢献する。これはLangChainの活発な開発コミュニティーに支えられ、進化し続けている。代表的なコンポーネントには以下がある。

  • PAL(Program-Aided Language model)
    • コードベースのリーズニング(推論)支援ツール。
  • SQLチェーン
    • データベースと連携し、自然言語によるデータ照会を可能にする。
  • Bashチェーン
    • シェルコマンドによるOS操作を統合する。
  • API/リクエストチェーン
    • 外部APIとの接続やデータ取得を担う。

 開発者は、複数のLLMや外部データソースを組み合わせたマルチステップのワークフローをLangChainで構築できる。例えば、新製品リリースの準備に必要な文書作成や、複雑な問い合わせに対応するチャットbotなど、高度なアウトプットを目指すケースでは、さまざまなツールやエージェントが連携して処理を実行する。LangChainはその中核機能として、RAG(検索拡張生成)にも対応している。RAGは、外部データベースなどから取得した文脈情報をLLMに提供することで、いわゆる「ハルシネーション」(事実と異なる回答)の発生を抑制し、出力の信頼性を高める手法だ。


 次回の後編では、LangChainを実際の開発環境に組み込む際の具体的な方法やベストプラクティスを紹介する。

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