VMware買収から1年半、始動した「VCF 9.0」に揺れるユーザーの本音VMware仮想化基盤の新たな転換点【後編】

BroadcomによるVMware買収から約1年半、VCF 9.0が提供開始になった。バンドル型サブスクリプションの影響、ユーザーの反応、競合の動きに迫る。

2025年08月08日 07時15分 公開
[Tim McCarthyTechTarget]

 BroadcomによるVMware買収から約1年半が経過し、プライベートクラウド構築用プラットフォーム「VMware Cloud Foundation 9.0」(以下、VCF 9.0)の一般提供が2025年6月に開始した。前編「“メインフレーム化”と評されるVMware、『VCF 9.0』で何が変わったのか?」では、VCF 9.0の新アーキテクチャや統合管理機能、セキュリティ、ストレージ強化など、技術的な進化を中心に紹介した。

 機能強化が図られる一方で、バンドル型サブスクリプションの導入や、クラウド運用に伴うコスト管理の課題に対しては、既存ユーザーの間で評価が分かれている。後編では、アナリストの見解を交えながら、Broadcomの戦略に対する企業の反応や、VMwareが直面する競合の動き、そして将来的な選択肢について探る。

アナリストが見るバンドル戦略とユーザーへの影響

 米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)に所属するアナリスト、スコット・シンクレア氏は、VMwareのバンドル型サブスクリプションについて次のように指摘している。「バンドル型サブスクリプションは利便性が高い一方で、企業がすでに導入しているFinOpsやロギング(ログ管理)用の専用ツールと機能が重複する可能性がある。こうした体験を統合しようとすると、既存ツールを手放すという“トレードオフ”を伴う転換点が生じる」

 VCF 9.0でVMwareが提供する機能の多くは、もともとパブリッククラウドで利用可能だったものだ。ただし、BroadcomのCEOであるホック・タン氏が2024年の基調講演で述べた「クラウドコストに対する“PTSD(心的外傷後ストレス障害)”のような反応」に関しては、一定の説得力があると、DCIGのウェント氏は評価している。

 クラウドの利用においては、設定ミスや予期せぬリソース使用など想定外の事情により、コストが膨れ上がるリスクがある。そのため、必要なときだけハイパースケーラー(大規模クラウド事業者)を活用し、平常時はプライベートクラウドを自社内で運用する方が、コストの予測と管理がしやすいとウェント氏は指摘する。「多くの企業ではIT環境の管理体制が不十分で、パブリッククラウドへの移行時に全てを正確に把握し、厳格にコントロールしなければ、思わぬ課金が発生する恐れがある。これに対して、プライベートクラウドであれば少なくとも年間のITコストを見積もることは可能だ」。同氏はそう語る。

「バンドル化」による不満と競合の動き

 VMwareは従来のソフトウェアやサービスを個別にライセンス購入する方式から、少数のバンドル型サブスクリプションパッケージに移行することで、価格体系と購入方法を大きく転換した。この変更により、一部の既存ユーザーの間では不満や先行きへの不確実性が広がっている。

 このような混乱を、Nutanixのような競合仮想化ベンダーやオープンソースベースの仮想化ツール「Proxmox」を扱うベンダーは、商機と捉えているとウェント氏は指摘する。ただし、VMwareは依然として、ストレージのFibre Channel接続や、SDN(ソフトウェア定義ネットワーク)といった分野で優位性を保っている。「VMwareと最も機能が近い競合との間にも、依然として大きな差がある。もしProxmoxへの移行を本気で検討しているのであれば、そもそもVMwareを選ぶ理由がなかったということになる」。同氏はそう語る。

 一方で、すでにサブスクリプションで提供されている機能に満足している顧客にとっては、VCF 9.0で追加された新機能がそれほど大きな価値を持たない可能性もあると、調査会社Forrester Researchのアナリストであるナビーン・チャブラ氏は指摘する。

 「VMwareのスタックをフルに活用しようとすれば、これまで併用してきた他社製品を廃止するか、利用範囲を縮小する必要がある。確かにVMwareはデータセンターにおいて広く採用されているが、その採用理由が“製品群が本当にベストだから”なのか、“経済的な理由で選ばざるを得なかったのか”は慎重に見極めるべきだ。VCFが企業のすべての要件を本当に満たせるのか、それが今問われている」(チャブラ氏)

 BroadcomがVCF向けに提供する追加機能Advanced Servicesは、VMwareユーザーの間で新たな争点となる可能性があると、ウェント氏は指摘する。Broadcomは、既存の標準機能に加えてさらなる価値を提供するとしているが、すでに最上位のサブスクリプションプランに高額な料金を支払っている顧客にとっては、「自分だけ機能を取りこぼすのではないか」といった不公平感につながりかねない。

追加機能がもたらす期待と懸念

 同氏はさらに、Broadcomが今後価格を引き下げる可能性は低く、Advanced Servicesの位置付けは、契約更新時の顧客との交渉カードとして活用されるだろうと分析する。「これは企業にとって交渉材料になる。プライベートクラウドを提供するのであれば、細かい追加料金で顧客を煩わせるべきではない」(ウェント氏)

 ESGのスコット・シンクレア氏は、2023年のBroadcomによるVMware買収以降、ほとんどのVMwareユーザー企業は、同プラットフォームに“とどまる”か“離脱する”かを、自社の中核業務との適合性という観点から既に判断済みである可能性が高いと分析している。そのため、今後VCFの機能がどれほど強化されたとしても、多くの企業の判断が大きく変わることはないという見方を示している。

 さらにシンクレア氏は、BroadcomのタンCEOが掲げる「パブリッククラウドより柔軟かつ低コスト」という主張にもかかわらず、VMwareユーザーは今、新たな形の“ロックイン(囲い込み)”に直面しているとも警鐘を鳴らす。「多くの組織は代替案を真剣に調査し、自社がどれだけVMwareに依存しているかを痛感している。良し悪しは別として、今後VMwareからの離脱はこれまで以上に困難になるだろう」。シンクレア氏はそう語る。

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