コードはもう書かない――急速に浸透する「バイブコーディング」の現実AIで変わりゆく開発者の仕事【前編】

AI活用によるコード生成は、数行のものからアプリケーション全体の構築へ進化しつつある。雰囲気に委ねて結果を受け入れる「バイブコーディング」とは、具体的にはどのような手法なのか。

2025年08月14日 05時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

 AIエージェントが出てきたことで、生成AIでできることは「数行のコード生成」から「アプリケーション全体の構築」へと広がりつつある。AIチャットbot「ChatGPT」の登場とともに始まった“開発者の仕事の変化”に関する議論は、さらに熱を帯びている。

 「バイブコーディング」(Vibe Coding)という用語が広く使われるようになったのは、2025年2月に短文投稿サイト「X」(旧Twitter)に投稿されたあるポストがきっかけだった。書き込んだのはAI教育企業Eureka Labsの創業者であり、Teslaの元AIディレクターにして、OpenAIの創業チームの一員でもあったアンドレイ・カーパシー氏だ。

 そのポストでカーパシー氏は、バイブコーディングについて「雰囲気(Vibe)に身を委ね、想定外のものを受け入れ、コードの存在さえ忘れる」アプローチだと説明する。使用するツールの出力をコードのレベルで確認することはめったになく、「コードは自分の理解の範囲を超えて成長していく」ものだという。

“雰囲気に委ねる”新しいコーディング手法

 カーパシー氏がバイブコーディングに使ったのは、AI支援機能を搭載したコードエディタ「Cursor」のAIコード生成機能「Composer」だ。もともとあったAIによる統合開発環境(IDE)を拡張して、複数ファイルにわたるコードの生成と修正に対応させたのだ。2025年4月には「JetBrains」や「GitHub Copilot」など、他のコーディングツールにも「コーディングエージェント」が導入された。同年5月にはAI搭載のアプリケーション生成ツール「Windsurf」がOpenAIによって30億ドル(約4400億円)で買収されるという報道があった(その後、交渉は破談)。

 カーパシー氏はもともとのポストで、バイブコーディングについて「週末の遊びのプロジェクトに使う分には悪くない」と語っていた。とはいえテクノロジー業界、特にスタートアップかいわいの一部では、より真剣に受け止められており、「開発者という職業はもうすぐ不要になる」という言葉が繰り返し発せられているのだ。

 新しいタイプのコーディングを、私は「バイブコーディング」と呼んでいる。雰囲気に身を委ね、想定外の結果を受け入れ、コードを書いていることさえ忘れてしまう、というスタイルだ。こうした作業が可能になったのは、大規模言語モデル(LLM)の活用方法が進化してきたからだ。

 筆者はComposerに、音声をテキストに変換するツール「SuperWhisper」で話しかけ、キーボードに触れる機会はほとんどない。例えば「サイドバーのパディング(余白)を半分にして」といった小さな要望も、自分で探して修正するより依頼した方が手っ取り早い。依頼は基本的に「全て承認」で進め、コードの差分はもう読まない。

 エラーメッセージが出たら、コメントを付けずにそのままコピー&ペーストして修正依頼を出す。それだけでたいていは直る。コードは自分の理解を超えるスピードで成長していくので、本気で理解しようとするなら時間をかけてじっくり読む必要がある。LLMがうまくバグを直せないときは、その部分を回避するか、適当に変更を依頼しているうちに問題が消えることも多い。

 こうしたやり方は、週末の趣味プロジェクトには悪くない。そして今進めているプロジェクトやWebアプリケーションの構築も、従来の“コードを書く”感覚とはまったく違う。画面を見て、話して、実行して、必要なものをコピー&ペーストするだけで、たいていうまくいくのだ。


 次回は、特にスタートアップで広がりつつあるバイブコーディングの実態と、その課題を掘り下げる。

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