AIを使った「バイブコーディング」の普及は、開発者の役割にも大きく影響しつつある。開発者のスキル格差が拡大し、AIが出力したコードのレビューに追われて負担は深刻化する。
AIに“雰囲気で”コードを書かせる「バイブコーディング」は、もはや一部のスタートアップにとって常識になりつつある。その実態を第2回「『コードを書く時代は終わった』 “バイブコーディング”で変わる開発作法」で紹介した。
バイブコーディングの余波は、開発者の役割そのものにも変化を与えつつある。AIがコードの大部分を担う一方で、人間の開発者にはより高度で責任ある判断が求められるようになっているのだが、その影響は必ずしもいいことばかりではない。第3回となる本稿は、バイブコーディングによって「開発者の役割」がどう変わりつつあるのかを取り上げる。
バイブコーディングによって、すでに多くの組織で、開発者の役割に変化が生じている。だがその方向性は必ずしも望ましいものとは限らない。
「必要な専門知識が、バイブコーディングやAIツールを使うジュニアエンジニアではなく、安定性やセキュリティ、拡張性、標準化といったビジネス要件を担保すべきシニア層にシフトしている」。そう語るのは、ヘルスケアテクノロジー企業Veradigmでプリンシパルソフトウェアエンジニアを務めるカイラー・ミドルトン氏だ。「私自身、昨年に比べて10倍の量のコードをレビューしているが、AIが生成するコードが全て基準に従っているかどうかを10倍速で精査するのは現実的ではない」と同氏は指摘する。
やがてジュニアレベルの開発者は、自らコードを書くスキルが低下し、バイブコーディング用のAIツールにますます依存するようになる可能性が高い。その結果、ジュニアとシニアのスキル格差が一層広がるだろうと、調査会社theCUBE Researchのアナリスト、ロブ・ストレチェイ氏は指摘する。「若手の開発者が受ける打撃は深刻で、企業の“開発者育成”の在り方にも影響が出るだろう」
ストレチェイ氏によると、終わりが見えない不安定で不確実なマクロ経済が、状況をさらに悪化させている。「チームは想定していたような人材を採用できず、代わりにAIを使って生産性を上げるように要求されている」としつつ、「それでいて、AIの活用は知的財産権(IP)の懸念などの問題に足を引っ張られる」と同氏は指摘する。
AIは大学卒業者と同等と見なされることもあるが、実際に使ってみると「コードの修正」に多くの時間を取られ、最初から自分で書く2倍の時間がかかることもあるという。
GoogleのDORA(DevOps Research and Assessment)チームは、この停滞を過去1年の調査ですでに確認しているという。DORAの2025年4月のレポートは、AIを利用したコーディングは他の点でも開発者の期待に応えられていないと指摘。「人々が価値を見いだす作業について、AIによって、楽に速くこなせるようになる一方で、人々が好まない作業については、AIがあまり役に立っていない」と皮肉の現状を説明している。
例えば人々が価値を見いだすクリエイティブな作業はAIによって効率化できるが、誰もが面倒だと感じるような煩雑な手続きについては効果を出しにくいということだ。AIの導入が進んでも、面倒な作業がなくなるわけではなく、人々が燃え尽きてしまう原因は依然として残っている。
「会議や官僚的手続きといった多くの面倒な作業から私たちを解放するためのコードを、AIがまだ解読できていないのは明白だ」と同レポートは結論付けている。
次回は、バイブコーディングが広がる一方で、現場で新たに求められるようになるスキルに焦点を当てる。
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