コードを書かなくなる“バイブコーディング”時代の「開発者」の役割とは?AIで変わりゆく開発者の仕事【第4回】

コーディングをAIに任せる「バイブコーディング」は、開発の現場にさまざまな変化をもたらす可能性がある。長期的な視点で考えた場合に、AIが担う仕事と、人間が継続する仕事はどのようにすみ分けられるのか。

2025年09月03日 05時00分 公開
[Beth PariseauTechTarget]

 AI(人工知能)技術はソフトウェア開発の領域にも深く浸透し、開発者の仕事を大きく変える可能性がある。“雰囲気”(Vibe)に身を委ね、自らがソースコードを書くことはしない「バイブコーディング」という手法が台頭している。

 バイブコーディングがもたらす影響については、その手法の長所と短所を含め、さまざまな観点から検討する必要がある。開発者の負担が増える可能性を示唆した第3回「コードはもう書かない、残る仕事は……『バイブコーディング』の暗い代償」に続き、本稿は長期的な視点で考えた場合に、最終的にAIが担うようになる仕事と、人間が継続しなければならない仕事を考える。

AIが書き、AIが検証する時代の「開発者」とは

 AI技術は、年単位の期間を経て開発者の仕事を奪っていくという見方がある。例えば、AIが生成するソースコードにはセキュリティの脆弱(ぜいじゃく)性が、人間が追い付けないペースで入り込む可能性がある。そうなれば、解決策はさらにAIを駆使し、AIにソースコードを検証させることになる。

 AIでAIを管理するこの循環によって、長期的にはエージェント型AIによる完全な自律化が実現し、人間のエンジニアの大半が不要になると考えているベンダーもある。

 Fetch.aiは、暗号資産(仮想通貨)領域での経験を基に、エージェント型AIのPaaS(Platform as a Service)を開発しており、エージェントの出力の正確性を検証する手段として、ブロックチェーンの仕組みを活用することを計画している。創業者でCEOのフマユン・シェイク氏は、量子コンピューティングなどの技術革新で、自律的なエージェント型AIシステムが急成長するとも予測している。

 シェイク氏は2025年2月のインタビューで、「この新しいエージェント型Webのインフラは人間が整備しなければならない」と述べた上で、こう指摘した。「それが完成すれば、ソースコードを何度も書く必要はなくなる。人間によるソフトウェア開発はやがて過去のものになる」

 とはいえ、テクノロジーのさまざまな変化を考えてみてほしい。メインフレームから分散システムへの移行、オンプレミスのデータセンターからクラウドコンピューティングへの移行を含めて、完全な移行になることはまれだ。開発と運用の体制を融合する「DevOps」の台頭でIT運用担当者がいなくなるという話も、実現はしていない。実際には、プラットフォームエンジニアリングやサイト信頼性エンジニアリング(SRE)へと、IT運用担当者の役割が進化した。

 AIを使ったコーディングが浸透する時代において、開発者という職業も同様の道筋をたどると、現時点ではほとんどの業界専門家が予測している。「どのような人を『開発者』と呼ぶかが変わり始めている」と指摘するのは、サンディエゴにあるヘルスケア企業Stellarus Groupでリードイノベーションエンジニア兼リードAIプロダクト開発者を務めるニック・キャシディー氏だ。同氏は2025年5月に開催されたRed Hat Summitにおけるインタビューで、「開発者になるのに必要だった深いスキルは今では必ずしも必要なくなり、市民開発者でもAI駆動のアプリケーションを構築したり、モデルを微調整したりできるようになった」と語った。

ビジネス現場でも広がる「バイブコーディング」と人間の役割

 ビジネス部門のリーダーがバイブコーディングを活用し、エンジニアリングチームへの引き継ぎをスピードアップさせている企業もある。Web運営のサービスを提供するPantheon.ioでCTO(最高技術責任者)を務めるデイビッド・ストラウス氏は、「私自身、エンジニアに渡すプロトタイプを作るのにAIツールを活用している」とした上で、「達成したいことを自然言語で説明するよりも、間違いが含まれているとしても、プロトタイプを共有する方がはるかに容易だ」と述べる。

 生成AIは、プロンプトエンジニアリングのような新しい分野も生み出しており、ソフトウェア開発の未来はむしろそうした分野にこそあると考えることもできる。「日々の開発業務の内容が変化しても、人間による問題解決が不可欠なのは変わらないだろう」。そう予測するのは、ヘルスケア分野のAI企業Cortiで共同創業者兼CTOを務めるラース・マロー氏だ。

 マロー氏は「AIモデルには平均回帰の傾向がある」とし、「AIはよく知られたものを作るのが得意だ」と語る。例えばWebサイトの作成を依頼すれば、AIは見慣れた構成でWebサイトを作る。だがゼロから何かを生み出す人間のような創造性を発揮するのは苦手で、それは今後も変わらないと同氏は指摘する。

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