DeepSeekが台頭したことで脚光を浴びるモデルの蒸留。成熟期に入った手法の系譜、コスト構造、投資の焦点、2030年ごろまでの注目領域を整理する。
生成AI市場での関心は、巨大な基盤モデルをそのまま運用することから、限られたコンピューティング資源で十分な性能を引き出す「蒸留」へと移りつつある。特に中国のDeepSeekが、蒸留によってOpenAIのモデルに匹敵する性能のLLM(大規模言語モデル)を訓練できることを示したことが追い風となった。
蒸留そのものは新たな発明ではない。調査会社Gartnerのシニアディレクターアナリストのハリサ・カンダバットゥ氏は、自身も2017年にモデル蒸留を研究していたと述べ、技術自体は新規ではないと指摘する。研究コミュニティーには次のような長年の蓄積がある。
企業は「コストを10%に抑えつつ、性能の80%を引き出す」ための現実解を模索している。蒸留という技術は、最適なコストパフォーマンスを実現するための有力なアプローチであり、AI活用における新たなスタンダードとなる可能性がある。
カンダバットゥ氏は企業のCIO(最高情報責任者)に対して、単価だけを追わず、学習と推論のコストが継続的に低下する前提でユースケースを設計し、優先順位を付けるべきだと助言する。大手AIベンダーも、導入や調整、ガバナンスを容易にする手段として蒸留の有用性を認識し、商業的なけん引力が生まれている。
そもそも蒸留は、大規模なAIモデルから、より小型のモデルに知識を抽出する手法だ。推論精度をできるだけ維持したままモデルを軽量化できるため、AIの実用化を進める上で重要な技術として注目されている。これはAIのイノベーションとスケーラビリティ(拡張性)の橋渡し役となり得る。モデルの小型化によって推論時の演算コストやインフラの運用コストを抑えやすく、結果として総コストの圧縮につながるからだ。
投資の焦点は、生成AIそのものから、継続運用のしやすさやリアルタイム意思決定の実現へ移りつつある。Gartnerは、AIモデルの学習や実行で使えるように、生データを調整したデータ基盤「AI-Readyデータ」など、継続的な提供を支える基盤要素への重心移動を指摘する。成功の鍵は、以下の3点にある。
Gartnerは、2030年ごろまでに主流として採用が進むと予測されるAI関連のイノベーションとして、次の2つを挙げている。
これらを組み合わせることで、信頼性が高く、責任あるAIアプリケーションの構築が可能になり、企業の業務変革を後押しすると期待されている。
一方で、AIエージェント(タスクを自律的に遂行するAI)が主流になるには、少なくとも今後2〜5年はかかる見込みだ。その効果を最大化するには、自社の業務や業界に即したユースケースを見極め、段階的に適用する戦略が欠かせない。
AIエージェントは万能ではない。環境や要件との適合度に大きく左右されるため、導入の可否は、目の前の業務要件、リスク許容度、既存システムとの統合難易度など、具体的かつ実務的な条件に基づいて慎重に判断する必要がある。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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