Windows 11移行で苦しみたくない人が「インプレースアップグレード」を選ぶ訳カスタムイメージ展開との違いを整理

「Windows 11」への移行手段のうち、有力な選択肢の一つとなるのが「インプレースアップグレード」だ。インプレースアップグレードには作業面で明確なメリットがあるものの、見落としてはいけない注意点もある。

2025年09月12日 08時00分 公開
[Brien PoseyTechTarget]

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 MicrosoftのクライアントOS「Windows」を、新しいバージョンに移行させることは容易ではない。Windowsユーザーは、新バージョンへの移行プロセスを簡素化する手段を模索している。

 複数のPCのWindowsを一斉に新バージョンに移行させる手段として、OSやアプリケーションなどを含む独自のイメージファイル(カスタムイメージ)を作成して、各PCに展開する方法がある。この方法を効率的に実行するには、Microsoftの「Configuration Manager」など、移行対象の全PCにカスタムイメージを展開可能なIT管理ツールの導入が必要になることがある。進め方によっては、Windows関連のセットアップを自動化するXMLファイル「応答ファイル」を作成するなど、細かい作業が発生することも珍しくない。

 Windowsの新バージョンへの移行作業を、できる限り複雑化させたくない――。そうした要望がある場合は、カスタムイメージ展開の代わりに「インプレースアップグレード」を実行する選択肢もある。「Windows 11」への移行を例に、インプレースアップグレードの内容を詳しく見ていこう。

「インプレースアップグレード」が選ばれる理由と、選ぶための条件

 インプレースアップグレードは、可能な限り現状を維持したままWindowsを新バージョンへと上書きする移行方法だ。インプレースアップグレードを選択することによる最大の利点は、ユーザー環境を可能な限り維持したまま、比較的短時間で新バージョンへの移行ができる点にある。準備作業もカスタムイメージ展開と比べると簡潔になりやすい。

 管理者はインプレースアップグレードを実行する前に、対象PCがWindows 11に移行するための要件を満たしているのかどうかを確認する必要がある。特に欠かせないのが、対象PCがWindows 11のハードウェア要件を満たしているかどうかの検証だ。

 Windows 11のハードウェア要件は、前バージョンの「Windows 10」とは大きく異なる。特徴的なのは、標準規格「TPM 2.0」(TPM=Trusted Platform Module)に準拠したセキュリティチップの搭載および有効化を必須にしていることだ。特に古いPCの場合、TPM 2.0の要件を満たさないことがあることから、インプレースアップグレード前に必ず確認した方がよい。

 移行先となるWindows 11のエディションは、使用中かつライセンスを保持しているWindows 10のエディションと対応させることが、基本的な方針となる。対応エディションであれば、追加のライセンスの購入なしで移行が可能だ。例えばビジネス向けエディションの「Windows 10 Pro」は一般的には、それに対応するエディションである「Windows 11 Pro」に移行することになる。

カスタムイメージ展開とインプレースアップグレードの違い

 Windowsの新バージョンへの移行における、カスタムイメージ展開とインプレースアップグレードの違いは、手順の複雑さだけではない。最も重要な違いは、カスタムイメージ展開が一般的には「クリーンインストール」、つまり初期化を伴う点にある。カスタムイメージ展開では、管理者はPC内にある既存のWindowsやアプリケーション、それらの関連データを削除した後に、新バージョンのWindowsを展開し、必要に応じてアプリケーションを再配布する。

 インプレースアップグレードは、既存のWindowsにそのまま新バージョンを上書きする方式だ。旧バージョンでの設定やカスタマイズ、アプリケーション、ユーザーデータなどを可能な限り保持する。ただし互換性の問題で、アプリケーションやデバイスドライバなどの一部は正しく動作しないことがあり、移行後の検証が必要になる可能性がある。念のため、事前にバックアップを取得することが重要だ。

 PCに潜在する問題が、新バージョンへの移行後も残存、あるいは悪化する可能性がある点が、インプレースアップグレードの注意点となる。一方でカスタムイメージ展開は、基本的にはPCの初期化を伴うため、ハードウェアに起因しない不具合については、かなり解消できる可能性がある。

スクリプトによるWindows 11インプレースアップグレード

 Windows 10マシンが、MicrosoftのディレクトリおよびID・アクセス管理システム「Active Directory」(AD)のドメイン(リソース管理単位)に参加している場合、スクリプトを利用してWindows 11へのインプレースアップグレードができる。スクリプトには通常、Windows 11のインストールメディアへのパスを指定する必要があるため、内容は組織ごとに多少異なる。

 PCにスクリプトを配布する方法は、検討が必要だ。一般的には管理者がスクリプトを作成した後、Configuration ManagerなどのPC管理ツールを使って配布する。ADにおける設定の一括適用機能「グループポリシー」を使って、スクリプトを配布することもできる。

Microsoft IntuneによるWindows 11インプレースアップグレード

 Windows 10からWindows 11へのインプレースアップグレードには、MicrosoftのUEM(統合エンドポイント管理)ツール「Microsoft Intune」を利用することも有効だ。移行対象PCがWindows 10のサポート対象バージョン(バージョン2004以降)を実行していること、Microsoft Intuneに登録済みであること、Windows 11のハードウェア要件を満たしていることが、この方法でのインプレースアップグレードに必要になる。

 Microsoft Intuneを使ったインプレースアップグレードでは、設定によってアップグレード開始のタイミングや再起動の有無などを細かく制御できる。Windows 11へのインプレースアップグレード対象を指定することもでき、例えば全てのPCを対象とするだけではなく、特定グループのPCに限定することも可能だ。

 組織内に、Windows 11の要求仕様を満たさないPCが混在する場合、全てのPCを移行対象に設定することは避けた方がよい。代わりにWindows 11への移行専用のPCグループを作成し、そのグループに属するPCだけにインプレースアップグレードを適用する方法がある。

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