AIエージェントの導入が進む一方で、期待した効果を得られない企業もある。成果を引き出すには、既存業務への後付けではなく、人とAIの協働を前提に業務プロセスの再設計が欠かせない。
企業での活用が期待される「AIエージェント」は、自律的にタスクを実行し、必要に応じて人の指示や外部ツールと連携して業務を進めるツールだ。生産性向上の切り札として注目を集める。
しかし実際の現場では、「AIエージェントを導入したが期待した効果が出ない」という声もある。コンサルティング会社McKinsey & Companyの調査によれば、自社のAI活用が成熟していると考える組織はわずか1%にとどまり、多くの企業が依然としてパイロット(試験的)段階にとどまっている。
この背景にあるのは、技術の未熟さではなく、既存の業務プロセスの設計や準備が不十分であるという根本的な問題である。では、真に成果を引き出すには何が必要なのか。
課題の一つは、古い業務プロセスにそのままAIを組み込もうとすることだ。もともと欠陥のある仕組みを自動化すれば、かえって非効率が拡大してしまう。真の成果を得るには、ワークフローを一から再設計する必要がある。
その際に重要なのは、AIが担う範囲と人が介入する基準、入出力の標準化、成果物の受け渡しや監査のルールを明確に定めることだ。今後成功するのは、新技術をただ導入する企業ではなく、人とAIの協働を前提に効率的に事業を拡大できる企業だ。
AIエージェントは状況を理解し、目的に沿って計画を立て、外部ツールの活用や人へのエスカレーションを組み合わせながら、仕事を完了まで実行できる。すでにリサーチ支援や定型業務の実行、キャンペーンの初稿作成、営業支援、大規模データの分析や予測といった分野で活用が進んでいる。
ここで起きているのは、単なる効率化ではなく、仕事の構造そのものの変化だ。役割分担や評価の基準を見直す必要が生じ、AIは役割や責任、人の才能が組織にもたらす価値を再定義しつつある。
MIT集合知研究センターのトーマス・マローン氏は「人間とAIは、それぞれが相手より得意なことを担うときに最も効果を発揮する」と述べている。これは単にタスクを分けるという話ではなく、両者が力を発揮できるように業務プロセスを設計し直すことを意味している。
具体的な分担の例としては、次のようなケースがある。
AIエージェントが膨大な定型業務を処理するほど、組織は人材を創造性や戦略判断、対人スキルが求められる領域に振り向けられるようになる。人が担うべき領域は、信頼関係の構築や複雑な交渉、チームを鼓舞するリーダーシップ、不確実な状況での戦略的意思決定といった、人間ならではの強みが発揮される場面だ。
AIエージェントの導入は、すでに数値で確認できる成果を生んでいる。AIエージェントとともに働いた2300人以上を対象にした研究では、チーム内のコミュニケーションが137%増加し、従業員がアイデア創出に費やす時間は23%増加、反復的な編集作業にかける時間は20%減少した。その結果、個人の生産性は60%向上し、創造性の質も高まった。
ここで重要なのは、AIが人を置き換えたのではなく、人がより良い仕事をできるようにしたという点だ。AIは待ち時間を減らし、顧客満足度の向上を同時に実現する。反復的な作業はAIが担い、人は差別化につながる領域に注力する。これにより、日々の問題対応に追われる体制から、仕組みを強化し成長を促す体制へとシフトできる。
リーダーは役割と責任や業績指標、ガードレールを定義し、さらにガバナンス、透明性、倫理をAI導入に関するあらゆる意思決定に組み込むべきだ。これはITの課題にとどまらず、まさにリーダーシップの課題となる。
CEOには、人とデジタル人材が共に活躍し成長できる組織を築く責任がある。そのためにはパイロット段階を超え、信頼を醸成し、学習し続け、進化できる文化の形成が不可欠だ。
変革を受け入れ、AIエージェントを中核に据えて業務を再設計する組織は、生産性を高めるだけでなく、競争優位そのものを再定義する存在となるだろう。リーダーは常に次の問いを自らに投げ掛けるべきだ。もし今日、AIエージェントを前提に自社のプロセスを設計し直すとしたら、どのような姿になるのか――。
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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