積極的にAI人材を引き抜くMeta Platformsが組織を再構築し、AI開発へいよいよ本腰を入れる。どのような狙いがあるのか。課題は。
2025年8月20日(現地時間)、Meta Platforms(以下、Meta)が、人間の知性を超えるAIシステム、“超知能”(Superintelligence)の実現を目指し、AI部門の大規模な再編に着手すると複数のメディアが報じた。
これは、人工知能(AI)技術ベンダーScale AIの元CEOで、2025年8月にMetaの最高AI責任者(CAIO)に就任したアレクサンダー・ワン氏が8月19日(現地時間)に社内向けに送ったメールの流出によるものだ。
2025年6月30日(現地時間)、Metaは「Meta Superintelligence Labs」(MSL)という新しい部門の設立を発表していた。今回明らかになったのは、MSLを構成する以下の4つのチームだ。
同社はここ数カ月、OpenAIやAnthropic、Googleなどのライバル企業からトップクラスのAI研究者を引き抜くなど、積極的な人材獲得を進めている。
調査会社Constellation Researchの創設者R・レイ・ウォン氏によると、再編の狙いは部門の効率化にあるという。「今回の再編が社内で好意的に受け止められているとの情報がある。これまではAIプロジェクトがチームごとにばらばらに進められていたが、今後は全体の目標がはっきりし、業務に集中できるようになると従業員が評価しているようだ」と同氏は語る。
別の狙いとしてウォン氏は、株主に対し、AIへの本気度をアピールする意図があると指摘する。「これが最も重要なポイントだ。MetaはAIに極めて集中しており、競争に取り残されることはないという強いメッセージだ」。同氏はそう語る。
事実、MetaのCEOマーク・ザッカーバーグ氏も、同年7月に行われた第2四半期(2025年4〜6月)決算説明会で、次のように投資家に語っていた。「Metaの目標は、超知能を全ての人が利用できるようにすることだ。これは人類の能力強化における、わくわくするような新しい時代の幕開けになると信じている」
一方、米国Informa TechTarget傘下の調査部門Omdiaのアナリストであるマーク・ベキュー氏は、今回の再編について、消費者向けだけではなく、企業向けのAIにさらに注力する狙いがあると指摘する。「潤沢なリソースを持つMetaが、AIから利益を生み出すためにそれを利用するのは当然のことだ」と語る。
ベキュー氏によると、MetaのLLM「Llama」は無料ユーザーは多いものの、企業用途では十分に浸透していない。そのため、今回の組織再編は、Llamaの方針の再考を含む、最適なAI戦略の方向性を定めるものだろうと同氏は分析する。
「Metaは収益をより生み出す方向へとかじを切ったようだ。では、Llamaはどうなるのか。Metaによるサポートが続くのか、それとも非営利団体Linux Foundationに寄贈されるのかといった懸念が生じた」とベキュー氏は語る。
商用モデルや超知能を目指すというMetaの目標を考えれば、今回の再編は理にかなっているものの、当然ながら課題も存在する。ワシントン大学(University of Washington)の情報学部教授のチラーグ・シャー氏は、「豊富な人材と資金を抱えるMetaであっても、超知能の達成は簡単ではない」と語る。
同氏によると、現在商用AIモデルを開発するベンダーに対し、モデルのトレーニングを制限する企業の動きが見られるという。掲示板型ソーシャルニュースサイトを運営するRedditは、2025年6月、ユーザーが書き込んだ膨大なコンテンツをAIモデルのトレーニングに勝手に使用しているとしてAnthropicを提訴した。
「Metaや他のAI技術ベンダーが、今後もより優れたモデルを開発し続けるためには、データに依存するのをやめ、別の方法を見つけなければならないだろう」とシャー氏は指摘する。
もう一つの課題として、シャー氏は、現在のAIは超知能にはほど遠いという現実を指摘する。「超知能は定義上、人間の知能よりも優れているはずだ。だが、実際のところ現在のAIは人間の知能レベルに遠く及ばない。『GPT-5』でさえ、人間がしないような基本的なミスを犯す。記憶力など人間を上回る点もあるが、推論、指示、説明、行動といった基本的なタスクにおいて、人間よりまだ劣っている」(シャー氏)
翻訳・編集協力:雨輝ITラボ(リーフレイン)
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