2030年にネットワークが“限界”を迎える 通信事業者の切実な悩み迫るネットワークの「破綻」

AIツールやストリーミングの普及が、ネットワークを限界に追い込んでいる。ネットワークインフラの増強や運用強化に向けて通信事業者は動き出しているものの、対策は進んでいない。なぜ変革は遅れているのか。

2025年10月21日 05時00分 公開
[Joe O’HalloranTechTarget]

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 通信事業者向けのルーティングソフトウェアを手掛けるRtBrickは、ある調査結果を基に警鐘を鳴らしている。2030年までに、人工知能(AI)技術やストリーミングサービスによる帯域幅(通信路容量)の需要が急増し、通信事業者のネットワークがその増加に応え切れなくなるというのだ。

ネットワーク変革の“真のボトルネック”はどこにある?

 この調査「State of Disaggregation」は、RtBrickの依頼を受けた調査会社Vanson Bourneが、2025年1〜2月にかけて実施した。ネットワークのディスアグリゲーション(ハードウェアとソフトウェアを分離して、多様な構成を可能にする手法)を推進する要因と障壁を特定することを目的としている。調査対象は米国、英国、オーストラリアの通信事業者で、従業員100〜5000人規模の企業に所属し、運用、技術、戦略に携わる上級意思決定者200人だ。

 今回の調査では、技術だけではなく、人材やプロセスに関する問題も浮き彫りになった。顧客の期待が、ネットワークの進化の速度を上回るペースで高まっている。

 調査によると、調査対象者の87%が、2030年までに顧客はより高速なブロードバンドを求めるようになると予測しており、79%は、顧客がそのための追加料金を支払うと考えている。一方で調査対象者の49%は、採算の取れる料金でサービスを提供できる自信がないことを認めている。加えて、84%が「現時点で顧客の期待に自社のネットワークが応えられていない」と回答し、81%は現在のシステム構成が次世代のAIツールやストリーミングがもたらす膨大な通信量を処理し切れないことを認めた。

 RtBrickは、この調査結果が「何をすべきかを理解し、そのための予算を確保しているにもかかわらず、実行段階で苦戦している」という通信業界の実態を浮き彫りにしたと指摘する。計画を実行に移す上での課題として、調査対象者の93%が、リーダーシップにおける支援や変革に対する意欲の欠如を挙げた。それに続いて、システム構成やワークフローの再設計、ネットワークの監視、自動化の刷新といった運用の変革に伴う「致命的な」複雑さを挙げた人が42%、次世代ネットワークの設計、導入、運用を担う専門人材の不足を挙げた人が38%だった。

 調査対象者全員が、自社でネットワークの計画や最適化、障害対処といったネットワーク運用にAI技術を導入している、または導入を計画していると答えた。AI技術の導入に合わせて、自社インフラの強化やリアルタイム分析の導入を必要だと感じる人がいる一方で、調査対象者の93%が、より詳細で高品質なリアルタイムのネットワークデータがなければ、AI技術の価値を最大限に引き出すことはできないと考えている。そのためには、ディスアグリゲーションを通じて、ネットワークをよりオープンかつシンプルな構成に変える必要がある。

 「ディスアグリゲーションに何を期待するか」という質問に対し、回答者は経営層の優先事項に直結する成果を挙げた。自動化の強化とサプライチェーンの耐性向上を望む声は、共に54%に上った。この他に51%が消費電力効率の向上を、48%が設備投資(CAPEX)と運用コスト(OPEX)の削減を期待している。33%は、特定ベンダーの製品やサービスに縛られる「ベンダーロックイン」からの脱却を望んだ。変革における優先事項もこれらの目標と一致しており、自動化と俊敏性(57%)と答えた人の割合が最も高く、次いでベンダーの選択の自由(55%)、電力消費量と持続可能性(47%)、費用対効果(46%)と並んだ。

 通信事業者が近代化に対する圧倒的な意欲を示していることも明らかになった。調査対象の91%が、ディスアグリゲーションによるシンプルなネットワーク構成への投資に前向きであり、95%が2030年までの導入を計画、90%が計画よりも迅速にディスアグリゲーションの導入を進める必要があると回答した。

 しかし、その意欲に対して実行が追い付いていないのが現状だ。回答時点で、ディスアグリゲーションを導入段階にあると答えた回答者はわずか5%であり、49%が初期の検討段階、38%が依然として計画段階にとどまっている。

 AT&T、Deutsche Telekom、Comcastといった通信事業者は、すでに大規模なディスアグリゲーションを積極的に進めており、より迅速な展開、高度な運用管理、自由なベンダーの選択を実現している。この動きは、ディスアグリゲーションの導入をためらっている通信事業者との差をますます広げている。RtBrickは、こうした先進企業のリードが、それ以外の事業者に対し、「今すぐディスアグリゲーションを導入しなければ、需要がネットワークの限界を超えたときに取り残される危険性がある」という、市場への明確な警告になっていると分析する。

 RtBrickの創業者兼CEOであるプラビン・S・バンダーカー氏は、通信事業者の経営層から現場のエンジニアまでが、「ボトルネックは帯域幅ではなく意思決定にある」ということを感じていると指摘する。「ネットワークのディスアグリゲーションは、もはや実験的な取り組みではない。AI技術が主導し、ストリーミングが主流となる未来で通信事業者が成功するために不可欠な、俊敏性、拡張性、透明性の基礎になる」と同氏は述べる。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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