NVIDIAが量子プロセッサとGPUをつなぐ「NVQLink」発表 量子分野でも天下を狙う量子と古典の「橋渡し役」

GPU市場を席巻するNVIDIAが、GPUとQPU(量子プロセッサ)を接続する新規格「NVQLink」を発表し、量子コンピューティング分野でも標準化に動いた。31の企業と機関が参画する「オープン戦略」は何を意味するのか。

2025年11月07日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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 量子力学を計算に応用する「量子コンピュータ」は、情報(計算)の最小単位である「量子ビット」が不安定であるという課題を抱えている。量子ビットは繊細でエラーが発生しやすいため、その動作を正確に制御し、発生したエラーを即座に訂正する複雑な制御アルゴリズムが必要だ。

 この制御アルゴリズムを実行するには、量子コンピュータの演算を実施する「QPU」(量子プロセッサ)と、GPU(グラフィックス処理装置)を搭載する従来のスーパーコンピュータの間で、低遅延かつ大容量のデータ通信が必要になる。これまで、両者を効率的に接続する標準的な手段が不足しており、ハイブリッドシステムの構築は困難だった。

 そうした課題に対してNVIDIAは2025年10月28日(米国東部時間)、GPUとQPUを接続するためのオープン規格「NVQLink」を発表した。これは単なる接続規格にとどまらず、量子コンピューティング研究の主導権争いにも影響を与える可能性があるという。NVIDIAが「オープンなアプローチ」を掲げ、複数のパートナーを巻き込む狙いはどこにあるのか。

31組織が参加する「標準化」戦略

 NVQLinkの特徴は、オープン性にある。発表時点で、IonQ、Quantinuum、Rigettiなど17社のQPUベンダー、5社の制御システム開発企業、9カ所の米国国立研究所がNVQLinkの策定に参加し、準拠製品の開発や採用を進めることを表明している。こうしたベンダーの姿勢は、特定のハードウェアに依存せず、多様な方式のQPUを、NVIDIAのGPUを中心とするAIスーパーコンピュータに接続できるようにしたい意思の現れを意味する。

 NVIDIAのソフトウェア開発キット「NVIDIA CUDA-Q」は、NVQLinkを通じてQPUを制御する。AIアプリケーションの開発者は、NVIDIA CUDA-Qを使うことで、CPU、GPU、QPUをシームレスに連携させて活用するアプリケーションを開発できる。これによって、化学や材料科学などの分野で、量子コンピューティングを活用したアプリケーション開発が加速すると期待される。

 米国エネルギー省長官のクリス・ライト氏は、「NVQLinkはGPUとQPUを統合する重要な技術だ」と述べ、国立研究所が主導する研究開発での活用に期待を示す。NVIDIAのCEOジェンスン・フアン氏が、NVQLinkを「量子コンピュータと古典コンピュータを結び付ける『ロゼッタストーン』(注)」だと評するように、NVQLinkは、GPU市場で優位に立つNVIDIAが、GPUとQPUを組み合わせた「ハイブリッド量子コンピューティング」分野でも主導権を握るための重要な布石になる。

※注:古代エジプト文字解読のきっかけになった石板のこと。同じ内容の文章が3種類の文字で刻まれていたため、研究者が既知のギリシャ文字を手掛かりにして、未知の古代文字を解読できた。ここでは異なる原理で動くQPU(量子コンピュータ)とGPU(古典コンピュータ)を連携させる存在の比喩として使われている。

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本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

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