「なぜクラウド費用が増えたのか」──経営層への説明に追われるIT担当者に朗報だ。M&Aや組織変更で複雑化するコスト管理の“Excel地獄”から脱却し、AIで予算折衝の説得力を高めるAWSの新機能を解説する。
2025年12月6日(米国時間)、Amazon Web Service(AWS)の年次イベント「AWS re:Invent 2025」ではCost Managementセッションが開催された。同セッションで強調されたのは、技術的なコスト削減手法ではなく、ユーザー企業が抱える「コストの可視化と説明責任」という泥臭い課題への解法だった。
M&A(合併と買収)による組織の統合や、事業部ごとのアカウント乱立により、企業のAWS環境は複雑化の一途をたどっている。「どの部署がいくら使ったのか」「このコスト増は正当なのか」。IT部門はこれらの問いに答えるため、複数のデータを「Excel」で突き合わせる作業に忙殺されていないだろうか。本稿では、こうした“不毛な集計作業”を過去のものにする、AWSの最新機能を解説する。
まず注目すべきは「AWS Billing View」の新機能だ。従来、AWS Billing Viewでは請求元(payer)アカウントに依存していたコスト可視化を、タグやアカウント単位で切り出し、他アカウントに安全に共有できるようになっている。2025年、AWS Billing Viewには、最大20のpayerから共有されたBilling Viewを1つの受け取りアカウントで統合表示できる機能が追加された。これにより、M&Aを実施した企業や複数事業体を抱える企業でも「コストの全体像を可視化しつつ、権限を分離する」構成が現実的になった。AWS Billing View は、「AWS Billing and Cost Management」(AWSのコスト管理システム)のコンソール(請求管理画面)でコストの可視化とアクセス制御を担う機能だ。
2つ目が、Billing and Cost Managementダッシュボードの強化だ。普段、経営層や事業部門向けのコストに関する説明資料を以下の手順で作っていたIT部門の従業員にとっては朗報となる。
「AWS Cost Explorer」(AWSのクラウドサービスのコスト削減を支援するツール)から数字を引っ張ってくる→Excelで加工する→資料を作る→配布する
Billing and Cost Managementのダッシュボードから、KPIに絞った“見せるための画面”を利用できるようになった。これにより、資料作りの手間やBI(ビジネスインテリジェンス)基盤の維持コストを減らせる点はメリットだ。
請求運用面では、2025年11月に一般提供を開始した「AWS Billing Transfer」(複数組織の請求一元管理機能)も有用だ。「payerの上位概念」を作り、複数payerの支払いや設定を一元管理できるため、グループ経営やリセール、組織再編時の請求分断問題を構造的に解消できる可能性がある。「AWS Billing Conductor」(請求ビューや料金プランのカスタマイズ基盤)と組み合わせることで、複数payerの請求をまとめて管理しながら、社内請求(チャージバック)の表示を制御できるようになった。これにより、チャージバックで生じる社内の摩擦をシステムの利用で減少させられる可能性がある。
2025年11月に提供が開始された、「18カ月分の予測」と「AIを活用した説明可能な予測」もIT部門に役立つ可能性がある機能だ。同機能を使うことで、IT部門として運用コストの背景を説明するための材料を得られるようになる。単なる予測値ではなく、根拠や信頼度、主要な要因が示されることで、予算会議での説得力を強化できる可能性がある。
運用監視では、「AWSコスト異常検出」機能に、異常な支出パターンをより迅速に特定できる、検出アルゴリズムが搭載された。新サービスや新アカウント追加時も自動でコストを追跡し、大量の監視設定や保守の手間を減らすことができる。
標準化の観点では、FOCUS(FinOps Cost and Usage Specification、FinOps Foundationが策定したクラウドコストの共通フォーマット)のバージョン1.2で提供が開始されたデータエクスポート機能が注目に値する。マルチクラウド時代に、クラウドごとに異なる請求言語を正規化し、財務と会話できる共通指標を持つことが現実的になった。
最後に、AWS re:invent 2025で一般提供が開始となった「Database Savings Plans」や、リザーブドインスタンス(RI、予約インスタンス)/Savings Plans(長期契約による割引プラン)について紹介する。Database Savings Plansと共有範囲制御によって、割引をめぐる社内対立や調整を減らすことができ、技術設計と制度面の最適化判断に集中できるようになった。
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