「AIバブル」はドットコムバブルと同じ末路? 教訓から読み解く生存戦略企業を襲う“はしご外し”の代償

「AIを導入せよ」と迫る経営層。しかし、乱立するAIベンダーが突然倒産すれば、業務は停止し、IT部門は責任を問われる。ドットコムバブル崩壊の歴史から、迫り来る“はしご外し”のリスクと見極め方を読み解く。

2026年03月08日 08時00分 公開
[Jim O'DonnellTechTarget]

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 あらゆるサービスに「AI」(人工知能)の文字が躍り、新興のAIベンダーが次々に登場している。この“狂乱”は、かつての「ドットコムバブル」(ITバブル)に似ているという声がある。

 2026年のスーパーボウル(注)中継は、ドットコムバブル時代とよく似た様相を呈していた。ドットコムバブルが最高潮に達していた2000年のスーパーボウルでは、新興企業14社が大量のテレビCMを放送した。このうち、2026年時点でも当時のサービス名や形態を保って存続しているのは、AutoTrader.com、Monster.com、WebMDのわずか3ブランドだけだ。2026年のスーパーボウルでは、AI技術を扱う企業約10社がテレビCMを放映した。

※注:米国プロアメリカンフットボールリーグの優勝決定戦。米国でトップクラスの視聴率を誇り、高額なCM枠を持つ。

 AIバブルも、ドットコムバブルと同じように崩壊への道を歩むのだろうか。もし自社が導入し、業務プロセスに深く組み込んだAIツールが、ある日突然ベンダーの倒産によってサービス終了になったら、現場は混乱し、IT部門は重い説明責任を負うことになる。そうした事態を避けるために、両者の違いを学ぼう。

迫る「AIバブル崩壊」にIT部門はどう備えるべきか

 米国フロリダ州で2026年2月に開催されたIT分野のカンファレンス「ITEXPO 2026」において、法人向け音声コミュニケーション技術開発を手掛けるUnified OfficeのCTO(最高技術責任者)トム・フェラン氏が登壇した。フェラン氏は、現在のAIブームがドットコムバブル時代と似ている理由や、両者の違いについて解説した。

 フェラン氏によると、ドットコムバブル時代は、Webを通じたインターネットの商用化によって、世界を変えるテクノロジーが「研究室から飛び出した」(実用化、ビジネス化され始めた)ことが特徴だ。これには大規模な新しいインフラが必要となり、結果として一獲千金を狙う熱狂的な競争、いわゆるゴールドラッシュが起きた。

 一方のAIバブルも、生成AIの普及に伴って一気に広まった、世界を変える技術に関係している。AIモデルも、大規模なインフラの構築を必要とする。

 「他人がもうけているのに自分だけチャンスを逃すことへの恐怖」(FOMO:Fear Of Missing Out)から、人々が資金を注ぎ込んだことで、再びゴールドラッシュが起きたとフェラン氏は指摘する。

 2つのブームの共通点は、資本の急増だ。1990年代には、株式の評価額は高いものの実際の収益はほとんどないインターネット関連の新興企業に対し、ベンチャーキャピタルから膨大な資金が流れ込んだ。

 これと同じような投資の熱狂がAIバブルでも起きている。利益を生み出す現実的な仕組みが証明されていなくても、事業計画に「AI」というキーワードを含めるだけで豊富な資金を調達できてしまうのが現状だ。

 「1990年代よりもさらに状況が悪いのは、提供するサービスで損失を出している企業の割合が当時よりもかなり高いことだ」とフェラン氏は言う。機会を逃すことへの恐怖が投資を後押ししており、このAIブームはとにかく市場に参入して先行者利益(陣地)をできるだけ大きく確保する時期だという。

2つの時代の違い

 AIバブルがドットコムバブルと同じように崩壊すると言える理由は確かにある。一方でフェラン氏によれば、2つの時代には違いもある。

 ドットコム企業の没落を招いた大きな失敗の一つは、バックボーン(都市間を結ぶ基幹通信網)は構築されたものの、そこと利用者の端末をつなぐ「ラストワンマイル」のインフラが整備されなかったことだ。これが通信網全体に対する需要の伸び悩みにつながった。「非常に強固なインターネット網がすでに存在するため、AI関連の新興企業は当時のドットコム企業よりも、手元の資金が尽きるまでの猶予期間(生き残るための体力)をはるかに長く持っている」とフェラン氏は説明する。

 ドットコムバブル時代にも高速大容量なブロードバンド通信は利用可能だったものの、普及しておらず、大半のインターネット利用者はそれよりも通信速度が遅いダイヤルアップ接続を利用していた。そのため、ドットコム企業が提供するサービスの需要はそれほど高くなかった。

 資金繰りが悪化し、利用者にとって実用性が乏しいソフトウェアベンダーは次々に倒産した。「しかし当時の熱狂の中で整備されたインターネット網やWeb2.0といったインフラの全てが、今日の私たちが取り組んでいる技術開発の土台になっている」とフェラン氏は振り返る。

AIバブルへの警告のサイン

 2026年の世界はAIブームの真っただ中にある。そのため、同じような問題がドットコムバブル時代と同様の崩壊を引き起こすかどうかを、この時代に生きる人々が判断するのは、まだ早過ぎる可能性がある。しかし、幾つかのサインは出ている。

 1つ目の問題は、収益性を無視した「レッドマネー」(赤字)による資金の枯渇だ。 2026年初頭の時点において、OpenAIをはじめとするAIベンダーは、得られる収益をはるかに上回る費用をインフラ維持に費やしていると推定されている。これは資金の枯渇という、ドットコムバブル当時と根本的に同じ事態を招く恐れがある。

 2つ目の問題は、AI分野における循環的な資金調達だ。これは、半導体ベンダーのNVIDIAがOpenAIなどの新興AIベンダーに投資し、そのAIベンダーは得た資金を使ってNVIDIAのGPU(グラフィックス処理装置)を購入、使用しているといった状況を指す。「誰もが互いに投資し合っており、どこか1社でもつまずけば、ドミノ倒しのように業界全体が崩壊しかねないほど相互依存関係が強い状況にある」とフェラン氏は語る。

 3つ目の問題は、AIインフラの稼働に必要なエネルギーの制約だ。必要な電力が不足してもバブルがすぐに弾けるとは言い切れないが、ブームの勢いを鈍らせる大きな要因にはなり得る。AIベンダーが、サービスの販売数を増やすことで損失を取り戻せると考えているとしても、エネルギーの不足は販売数の制限に直結する恐れがある。

 4つ目の問題は、AI技術に対する世間一般的な「反感」だ。これは、ドットコムバブル時代にはほとんど存在しなかった要素だ。「AIが人類の脅威になる」という倫理的な警戒感は根強く、これがAIブームに冷や水を浴びせる可能性がある。

AIバブルの崩壊を和らげる要因

 AIバブルはドットコムバブルと同じように弾ける可能性はある。一方で、「崩壊の影響を和らげる複数の要因が存在するため、同じような形で崩壊しない可能性もある」とフェラン氏は言う。

 ドットコムバブル時代、ベンチャーキャピタルの資金の大半は、経営体質が弱く、事業を継続する能力がない新興企業に流れていた。これに対してAIブームにおける資金は、すでにビジネスを確立している企業に流れ込んでいる。あるいは、ドットコムバブル時代の投資家よりもはるかに豊富な資金力を持つ、実績を伴った企業が資金を提供している。

 別の要因は、AI市場向けのインフラが、ドットコムバブル時代よりもはるかに整備されていることだ。フェラン氏によれば、現在稼働していない余剰GPUはほぼ存在せず、AIインフラを構築さえすれば利用者は集まってくる活況な状態だ。「新たに整備すべきラストワンマイルの通信網はなく、インターネットはすでにこうしたサービスを配信するインフラとして完成しているため、利用者のトラフィックを容易に処理できる」(同氏)

AIブームは崩壊に向かっているのか

 AIバブルが崩壊、あるいは調整の局面に向かっていることは明らかだ。何らかの調整は必ず起きるとフェラン氏はみる。その規模は未知数だが、LLM(大規模言語モデル)の構築に投資する企業の数を考えれば、淘汰(とうた)が始まるのは間違いない。

 倒産する企業もあれば、大手企業が自社のシステムの機能として取り込むことで、市場から締め出される新興企業も出てくるだろう。「OpenAIやAnthropicといったAI市場をリードするベンダーの新発表によって、AI関連企業の事業計画が台無しになる事例が多発している」とフェラン氏は語る。

 すでに市場にはさまざまなAIツールが出回っている。一方で通信分野のマネージドサービスプロバイダー(MSP)Center City Communicationsのプレジデント、ドミニク・グレー氏は、こうしたツールを提供しているベンダーはやがて厳しい現実を突き付けられると予測する。

 Center City CommunicationsはAIシステム導入の初期段階にある。グレー氏はどのようなサービスが利用できるのか、一次情報を得るためにITEXPO 2026に参加した。とはいえ、展示会場にひしめいていた全てのAIベンダーが長期的に生き残るとは考えていない。

 「世に出ようとした矢先に資金が尽きたり、技術の進歩に取り残されたりして、生き残れない企業もあるだろう」とグレー氏は話す。同氏は特定の企業に注目するのではなく、AI業界全体の動向を注視しているという。

変革の性質に見る違い

 Informa TechTargetの調査部門であるOmdiaで人工知能担当のプリンシパルアナリストを務めるマーク・ベキュー氏によると、ドットコムバブル時代とAI時代には大きな違いがある。特に顕著なのが、技術の導入によって見込まれるビジネス上の効果だという。

 ベキュー氏によれば、ドットコムバブル時代は企業をデジタル化へと向かわせるものだった。これに対してAI時代は、企業を根本から変革するような効率性を生み出すものだという。ドットコムバブル時代は新たな機会を切り開いたものの、AI時代がもたらすように全ての企業に影響を与えたわけではなかった。

 ドットコムバブル時代とAI時代のもう一つの大きな違いは、主要な企業向けベンダーが、自社製品にAI技術を組み込むために、ひそかに、しかし巨額の投資を重ねてきたことだとベキュー氏は指摘する。こうした企業、特にAdobe、IBM、Salesforce、SAP、ServiceNowなどは、AI技術に対する投資から実質的な利益を得始めている。

 「これらの企業はいずれも、本来はAIベンダーではないが、水面下で自社製品にAI機能を組み込んできた」とベキュー氏は語る。生成AIが台頭してきたとき、これらの企業はすでにAI技術の基礎を理解しており、AI技術を受け入れる文化が根付いていたため、いつでもAI市場に参入できる状態だったという。

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