生成AI導入企業の多くがROIの低迷に直面している。ガートナーは、単なる効率化ではなく「AI筋肉」の形成と、浮いた時間の戦略的再配分が必要だと指摘する。現場任せの運用を脱し、マネジメントが仕事そのものを再設計できるかどうかが、持続的な競争力を左右する鍵となる。
企業が生成AIを導入するようになって数年。現場からは「便利になった」という声も聞こえてくる。しかし、経営層から「結局いくらもうかったのか?」「生産性はどれくらい上がったのか?」と問われ、明確な回答に窮する情シスリーダーは少なくない。
「ツールさえ導入すれば、自動的に生産性は上がる」という幻想が、いま多くの組織でROI(投資対効果)の低迷という現実を突きつけている。ガートナージャパンが4月21日に発表した「企業が生成AIによる生産性向上を実現するための指針」は、この閉塞(へいそく)感を打破するための、極めて泥臭くも本質的な「武器」を提示している。単なる効率化の先に待つ「時間の浪費」というわなを回避し、組織全体の価値をV字回復させるための、仕事の再設計とマネジメントの鉄則を解説する。
国内外の企業で生成AIの導入が進む一方、「期待したほどのROIが出ていない」という声が噴出している。ガートナーのディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリストである亦賀忠明氏は、「生成AIは導入すれば自動的に生産性が向上するわけではない」と断言する。
亦賀氏によれば、個人がタスクを短縮できたとしても、その「浮いた時間」が新たな価値を生む業務に再配分されなければ、組織全体の成果にはつながらない。多くの場合、余った時間は身近な別の雑務や、これまで後回しにされていた既存業務の延長に充てられ、消えてしまうからだ。この時間の使い道を現場任せにせず、再配分することこそがマネジメントに課せられた最大の責務となる。
ガートナーは、生成AIによる生産性向上の本質を、個々人が自らのWILL(意思)を持って、生成AIを業務でどう生かすかを試行錯誤しながら身に付けていく能力「ケイパビリティ(AI筋肉)」の形成だとしている。これは山登りと同じで、基礎的な力を段階的に養わなければ高い成果には到達できない。
生成AIを使いこなすための「WILL」と「AI筋肉」を持つ人材をいかに育てるか。特に初期段階では、好奇心を原動力に試行錯誤できる一部の先行人材が成果を出し、それを組織全体へ波及させていく段階的なアプローチが有効だとしている。ツール導入はゴールではなく、人間の能力を拡張し、仕事そのものを再定義するプロセスの始まりにすぎない。
生成AIの導入直後、生産性は一時的に低下する可能性がある。これは新しい技術に習熟するまでの過程で必要な「Jカーブ」と呼ばれる現象だ。亦賀氏は、「生成AIによる生産性向上は、人と組織の能力形成をいかに進めるか、AIと人間の役割をどう再設計するかという経営課題である」と指摘する。
この本質を経営層が理解していなければ、一時的な停滞を理由に投資が打ち切られ、真の成果を得る前に頓挫しかねない。現場だけでなく、経営層でも「仕事の再設計」を自分事として捉えさせる必要がある。
最終的に持続的な競争力を生むのは、人を歯車のように扱う効率追求ではない。亦賀氏は、管理職や経営層はこの課題を自分事として捉え、People-Centric(人間中心)の観点から、人を「大事に、元気に、活躍いただく」責任ある将来像を示すべきだと強調する。
生成AIによって短縮された時間を、人間の判断力や創造性を強化する業務へと再配分する。この勇気ある再設計を行える組織だけが、単なる「時短」を超えた、持続的な成長を手にできる。
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