「エンジニアから配管工に転職」がトレンド? AI時代のキャリア戦略シナリオガートナーが警告する「AI人材崩壊」と9つの予兆

Gartnerは、CHRO(最高人事責任者)が2026年に取り組むべき9つのトレンドを明らかにした。

2026年01月15日 18時00分 公開
[TechTargetジャパン]

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 調査会社Gartnerは2026年1月12日(米国時間)、企業が求める人材とビジネス成果を確保するために、CHRO(最高人事責任者)が2026年に重視すべき9つのトレンドを明らかにした。

AI依存は終焉へ?

1.“AIに浮かれない”人員削減が進む

 企業の中には、AI投資による生産性向上やイノベーションの増強を見越して、前倒しで人員削減を進めてきたところがある。Gartnerによると、2025年上半期に実施されたレイオフのうち、AIによる生産性向上に伴う人員余剰が直接の原因だったものは1%に過ぎない。楽観的なAI投資の期待通りに業務が立ち行かず、削減したポジションの再雇用を余儀なくされる事態も予想される。

 CHROは2026年、自社ブランドを損なわないためにも、人間中心のアプローチでレイオフを実施する必要があるとGartnerのエミリー・ローズ・マクレー氏(HRプラクティス部門シニアディレクターアナリスト)は主張する。従業員の規模と構成が自社の戦略的目標を効果的かつ持続的に支えられるように、「人材の再編成」の取り組みを主導することを薦めるものだ。

2.「文化の不協和」が進む

 企業の中には、長時間労働、成果至上主義、容赦ない評価、テレワークや休暇の利用が困難といったスタートアップ(新興企業)風の文化を前提にしているところがある。従業員に対してより多くの成果を求める一方、報酬や勤務の柔軟性、福利厚生といった見返りを増やさない。

 Gartnerのケイリン・ローマスター氏(人事プラクティス担当ディレクター)は、この実態が「文化の不協和」を招くと指摘する。つまり、文化が仕事の実態を反映しない状況だ。その結果、「意欲が高い従業員は退職する一方、意欲の低い従業員は残留する」「魅力的な勤務先と見られなくなる」といった問題が発生する可能性がある。2026年に成功するCHROは、従業員に何を求め、企業として従業員に何を提供できるかを、明確かつ具体的に提示できるとよいと同氏は説明する。

3.AIツールを使う従業員のメンタルヘルス対策が必要に

 従業員のレジリエンス(回復力)を高めること、職場の心理的安全を維持することは、2026年もCHROの重要なテーマとなる。中でも、従業員が不適切なAIツールの利用の仕方をしている、職場でのAI利用の拡大が従業員に心理的な負荷を与えているといったAIに関する問題をマネジャーやリーダーが察知できる体制を整えることはCHROのタスクの1つとなる。法務部やIT部門と積極的に連携し、AIの利用にひも付く従業員のメンタルヘルスケアを実施するための計画の策定が重要だ。

4.「ワークスロップ」が職場の生産性を阻害する要因になる

 マクレー氏によると、AIツールの導入と業務改善への活用が進んだ結果、「ワークスロップ」が氾濫している。ワークスロップは、AIによって、あるいはAIを使って迅速に生成された、低品質なコンテンツや成果物を指す。企業は可能な限り業務にAIツールを活用するよう従業員に圧力を掛ける。一方、従業員には成果物の品質を判断する時間や裁量が与えられていない。

 「2026年は、AIツールを使って単に時間を節約するのではなく、従業員の労力が削減されているかに焦点を当てることがCHROの役割になる。AIツールは、短期的な成果の創出ではなく、厄介な業務負担の軽減に役立てるべきだ」。マクレー氏はこう指摘する。

5.AIツールに依存しない採用活動が進む

 求職者がAIツールを使って転職活動を効率化できるようになった。企業は大量の応募者から適格な人物をスクリーニングし、経歴を詐称している候補者を排除するためにAIツールを活用している。

 その結果、採用担当者の人数に比べて求職者の応募件数が増え、採用プロセスの運用は高負荷な業務となりつつある。CHROは2026年、従来の対面での面接や実技によるスキル評価とAIツールを組み合わせることで、採用プロセスの信頼性と成果を両立させることが求められる。

6.産業スパイがフィクションの世界から現実に

 AIツールの活用競争と経済ナショナリズムの激化によって、企業内部での企業スパイ活動のリスクは高まりつつある。企業は、データ主権(データの制御と管理に関する権利)や技術主権の確保、海外のITベンダーへの技術依存を規制する社会的圧力にさらされている。

 2026年、CHROは企業のセキュリティ保護に果たす役割をさらに強化していく必要がある。サイバーセキュリティ対策強化に取り組むだけでなく、社内に存在する脅威を探索することも有用だ。そのために、従業員の異常な行動を検知するための積極的な投資が必要となる。

7.エンジニアから技術職へのキャリアチェンジを選ぶ人材が増える

 ソフトウェア開発、金融といった分野の労働者が、よりAIの影響を受けにくい分野での労働を模索するようになる。具体的には、AIが業務を自動化しにくく、かつ需要が高い配管工、電気技師、溶接工などだ。

 エンジニアによる技術職への転職を支援するプログラムを提供する国や地域もある。CHROには、エンジニアを定着させるための施策の立案や実施に加え、技術職の業界とパイプラインを構築することを薦める。

8.業務プロセスを最適化できる人材の採用が優先される

 企業は、最新のAIスキルを持つ人材の採用や、既存人材のAIツール活用能力の向上に躍起になっている。しかし、ある特定のAIツールに精通している人材が、別のAIツールで質の高い成果を出せるとは限らない。個人のAIツールの活用を最適化しても、成長やコストの削減に直結するとは限らない。

 2026年に成功する企業は、業務プロセスを最適化できる人材の採用を優先するとマクレー氏は説明する。個別のタスクを最適化するのではなく、創造性とシステム思考によってプロセス全体を再設計できる人材だ。CHROは採用プロセスを見直し、技術スキルよりもAIツールを使った判断力や批判的思考を重視することが有用だ。リーダー層の人材を動員し、AIツールを使って業務プロセスを再設計できるワーキンググループを設立することも一考だ。

9.従業員の「デジタル分身」に報酬が発生する

 2025年、さまざまなAIツールが実在の著名人の作風、トーン、行動を学習、模倣した「分身AI」の生成に注目が集まった。2026年、優秀な従業員やCEOの分身AIが開発され、活動する可能性がある。分身AIの活動に対する報酬をどのように扱うかは、企業にとって未知の領域だ。

 分身AIが活躍する従業員は、AIツールの学習材料となることだけでなく、退職後も分身AIが継続的に使用されることに対しても報酬を求める可能性がある。従業員の分身AIの保護、AIガバナンスの更新、報酬体系の整備に注力する企業も出てくることが予想される。

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