AI技術がさまざまな業務で活用されるようになり、仕事の在り方は大きく変わりつつある。一方でAI技術が人間の代わりになれない仕事も存在する。具体的な例を紹介する。
企業がさまざまな場面でAI(人工知能)技術を活用する中で、人間が担う業務は大きく変わりつつある。「AI技術の活用が進めば自分の仕事はなくなる」と不安になる人がいるのは不思議ではない。一方で、AI技術では置き換えられない業務も存在する。今後、人間はそうした仕事にこそ、より価値を見いだすべきだ。では、AI技術には代替できないのはどのような仕事なのか。
米TechTargetの調査部門Enterprise Strategy Group(ESG)でプリンシパルアナリストを務めるマーク・ベキュー氏は、ポイントになるのは次の2点だとみている。
AI技術がどれだけ進化しても人間の代わりを果たしにくいのは、他者への共感、創造力、人間同士の交流などが必要な仕事だ。具体的にはどのような仕事なのか。以降で紹介する。
ソーシャルワーカーは、困り事を抱えたあらゆる人を支援する。例えば貧困や虐待、メンタルヘルスといった問題に直面し、社会生活に困難を抱える人が支援の対象になる。
米国の医療機関Wentworth-Douglass Hospitalで患者と家族関係の専門家として働くメリッサ・キャンベル氏は、ソーシャルワークにとって重要な能力として「共感力」を挙げる。ソーシャルワークでは相手を理解し、共感を持って接する必要がある。一方で、AI技術には感情を理解したり、相手に共感したりする能力が欠けている。キャンベル氏は「AI技術はアルゴリズムに従ってデータを処理することはできても、ソーシャルワーカーが対処しなければならない道徳的かつ倫理的な複雑な課題を扱うことはできない」と話す。
舞台芸術も、AI技術が入り込むのが難しい分野だ。AI技術を活用して、演者のパフォーマンスの質を高めたり、新しい芸術体験を生み出したりすることはできる。一方で、舞台芸術の中核となる要素をAI技術に置き換えることは非現実的だ。
Adobeの画像生成AIサービス「Adobe Firefly」のように、自動化を用いてクリエイターの業務効率を向上させるツールはある。しかし歌唱や演技といった舞台上でのパフォーマンス、大規模な祝賀会の演出には、「AI技術では再現できない人間特有の制作プロセスが必要になる」とベキュー氏は指摘する。
AI技術は医療分野に革命を起こしている。敗血症の検出や皮膚がんの診断、心房細動を発症の30分前に予測し、発症前に何らかの対処ができるようにするアルゴリズムがある通り、AI技術による画期的進化が見られる。しかし医師などの医療従事者が担っている微妙な判断や患者に対する感情面でのサポートを、AI技術が代替することはできない。
医療分野においても、血液サンプルを採取するロボットの開発が進むといった形でAI技術やロボットが得意とする業務は広がる可能性がある。一方で、そのサンプルを使って患者の人生を変えるような診断を下したり治療計画を立てたり、精神的なサポートをしたりするには人間の医師が不可欠だ。
医療分野でも用いられているアプローチ「ヒューマン・イン・ザ・ループ」(HITL:Human-in-the-Loop)は、AI技術が生成した情報や提案を人間が確認、修正することでAIと人間が協力して作業をするという考え方だ。例えばGoogleの「Gemini」やOpenAIの「GPT」といった大規模言語モデル(LLM)が医療従事者の知識を補完し、支援するといった具合だ。あくまでAI技術は支援をするのであって、医療従事者の役割を奪うわけではない。
管理職には、単純な法則や論理だけでは対処できないコミュケーションスキルや、意思決定のスキルが求められる。
コンサルティング企業Potential Project Internationalが実施した調査では、「AI技術は職場での従業員の行動を人間の管理職より理解できると信じているか」という質問に対して57%が「信じていない」と答え、22%は「どちらとも言えない」と回答した。業績評価など一部の業務にAI技術が取り入れられることはあるにしても、AI技術が人間の管理職に置き換わることは考えにくい。調査からは、部下が人間の上司を望む傾向にあることも分かった。同調査は、業種を問わず600人以上の従業員にアンケートを実施した結果に基づく。
有能な管理職は、将来に向けてのビジョンや戦略的思考を持ち、チームに対して動機付けをし、従業員から信頼性を得ることができる。十分にトレーニングを受けたAIモデルであっても、このような取り組みを実施することはできない。
後編もAI技術には代替できないと考えられる仕事について、本稿では紹介し切れなかった例を取り上げる。
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