IT業界は、人材の流動性が高い業界と言われる。そうした中で複数の専門家は、その動きが加速していると指摘する。背景にはどのような要因があるのか。
ソフトウェアベンダーVestdが2024年7月に公開した調査レポートによると、IT業界の平均勤続年数は3.1年、マーケティング業界が2.8年、接客業が3年だった。本調査は求人サイト「Glassdoor」、ビジネス向けSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)LinkedInを基に、英国における各業界を代表する企業を選定。従業員数に基づいて分類した上で、LinkedInに掲載されている調査対象企業の従業員の情報から勤続年数の平均中央値を算出した。
IT人材紹介企業Harvey Nashの調査でも同様の傾向が見て取れる。同社が公開した調査レポート「Tech Talent & Salary Report 2024」によると、英国のIT業界で働く従業員の30%は半年以内の、45%は1年以内の退職を検討している。
人材コンサルティング会社Frank Recruitment Group Services(Tenth Revolution Groupの名称で事業展開)の会長兼CEOであるジェームズ・ロイド・タウンゼンド氏は、「IT業界では人材の流動が続いているが、ここ数年でその傾向が加速している」と指摘する。その背景には何があるのか。
Harvey Nashの調査レポートによると、従業員が退職を決めた理由として「より高い給与額」(55%)、「キャリア形成」(43%)、「異なる企業文化の探求」(31%)があった。同レポートは、44カ国で働く従業員約2700人に調査を実施した内容をまとめたものだ。
「業務量が増加する中、他の企業の方がより良いのではないかという期待感を持つ従業員がいる」。Harvey Nashの英国、アイルランド、中欧地域のマネージングディレクターであるアンディ・ヘイズ氏はこう述べる。別の背景として、ミレニアル世代(1980年代~1990年代半ばに生まれた世代)や、ミレニアル世代よりも若い世代は転職に対して抵抗感がないことをヘイズ氏は挙げる。
マンチェスター大学アライアンスマンチェスタービジネススクール(The University of Manchester Alliance Manchester Business School)で教授を務めるキャリー・クーパー氏も、業界の中核を担う若い世代の価値観の変化を指摘する。クーパー氏によると、この変化は2008年のリーマンショックに端を発する。一部の若い世代は、保護者が解雇されたり、極端な長時間労働を強いられたりする姿を目の当たりにした。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の最中に燃え尽き症候群に陥った従業員もいる。
「住宅ローンなどの金銭的な責任から、保護者の世代は耐えながら働いてきた。一方若い世代は、住宅ローンを組むことすら難しい場合がある。そのため、気軽に企業に別れを告げやすくなっている」(クーパー氏)
クーパー氏によると、IT業界には別の悪い慣習がはびこっている。
IT企業の大部分は、従業員の健康と福利厚生にどれだけ投資しているか、良質な労働環境を作り出しているかを語る。しかし現実には、長時間労働の文化があり、業務を細かく管理するマイクロマネジメントを実施することもある。業務に対する称賛や報酬を与えるよりも、欠点を見つけることで従業員を管理する。その結果従業員は、業務に対して能動的に行動しにくくなる恐れがある。
一部の従業員は、転職にとどまらず、業界から離れたり、海外での就業機会を探ったりする場合がある。投資会社StepStone Groupが運営する求人サイトTotaljobs.com、世界中の50以上の求人サイトが連携するグローバルアライアンスThe Network、コンサルティング企業Boston Consulting Group(BCG)による調査では、英国のIT業界の従業員の75%は海外での就労を希望していることが明らかになった。同調査は、180カ国のIT企業で働く従業員2万6806人を対象に実施した。
次回は、従業員を定着させるために企業が注力すべき取り組みを紹介する。
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