マクドナルドやウォルマートが模索する「多様性」撤回の“新戦略”とは?DEI施策を撤回する企業【後編】

米国企業が次々とDEI関連のポリシーを変更する中、マクドナルド、ウォルマートなどの企業は「DEI」という用語の使用を避け、別の道を模索し始めている。これらの動きは企業の本質的な方向転換と言えるのか。

2025年03月29日 05時00分 公開
[Rosa HeatonTechTarget]

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 2025年に入り、Amazon.com、Google、Meta Platformsといった米国のIT大手がDEI(ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョン:多様性、公平性、包摂性)政策の見直しを進めている。その波は広がっており、McDonald's(マクドナルド)、Target、Walmart(ウォルマート)といった主要企業がDEI政策の大幅な変更を発表した。それぞれどのような主張の下で方針転換を果たしたのか。

DEIではなく「包括性」を推進する企業の主張

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マクドナルド

 2025年1月、ファストフード大手マクドナルドは従業員、取引先、フランチャイズオーナー向けの声明において、2024年の成果と2025年の変更点を発表した。主な変更点は次の通りだ。

  • 多様性目標の廃止
  • 外部調査を一時打ち切り、社内作業に注力
  • サプライチェーン全体でのDEI誓約を廃止
  • ダイバーシティーチームを「グローバルインクルージョンチーム」に改称
    • マクドナルドは、「『インクルージョン』は当社の中核的な価値観の一つだ」と説明している。

Target

 大手スーパーマーケットチェーンTargetがDEIポリシーを強化する原動力となったのは、同社が本社を置く米ミネアポリスで2020年にジョージ・フロイド氏が亡くなったことだった。この事件は、黒人男性であるフロイド氏が白人警官に取り押さえられた際に窒息死したもので、「Black Lives Matter」運動の引き金になった。企業に対して社会的不平等の解消を求める声が上がる中、同社は黒人従業員の割合を20%増やす目標を同年に発表した。

 そうした姿勢を見せていたTargetがダイバーシティーへの取組方針を転換させたのは2025年1月のことだ。同社の声明には「ダイバーシティー、エクイティー、インクルージョンの3カ年目標を終了させ、ダイバーシティーに関する全ての外部調査を停止する」との記載がある。この声明において、同社は次の変更点を強調している。

  • マイノリティーが経営する企業からの優先的な仕入れの停止
  • 性的少数者(LGBTQ+)の権利擁護に取り組む非営利団体Human Rights Campaignなど、外部団体に対するダイバーシティー報告の中止
  • 同社の人種的平等を推進するプログラム「Racial Equity Action and Change」の終了

 これらの変更は「外部状況の進化に適応するため」だとTargetは説明する。

ウォルマート

 2024年11月、スーパーマーケットチェーン大手ウォルマートは以下をはじめとする複数のDEIに関する取り組みを終了させることを明らかにした。

  • プライド月間(LGBTQ+コミュニティーの権利を啓発し、性の多様性を祝うための活動やイベントが実施される期間)への出資
  • 人種的公平性のトレーニングプログラム
  • Human Rights Campaignへのデータ提供

 ウォルマートもマクドナルドと同様にDEIという表現を変更しており、代わりに「belonging」(ビロンギング、帰属意識)という表現を使っている。この事実を最初に指摘したのは政治活動家ロビー・スターバック氏だ。ウォルマートはその後、Associated Press(AP通信)やABC Newsなど、複数の報道機関に対してスターバック氏が指摘した事実を正式に認めた。その他にも、同社は最高ダイバーシティー責任者という役職名を、最高ビロンギング責任者に変更した。

DEIに取り組み続ける企業

 複数の米国企業がDEIの取り組みを縮小させる中、DEIを支持し続けると宣言する企業もある。2025年1月、会員制小売チェーンCostco Wholesale(コストコ)の株主はDEI施策のリスクと効果を評価する提案に反対票を投じた。

 Appleの株主も、同様の提案に反対票を投じた。同社はこの提案を却下し、「ビロンギング文化を育み、誰もが自身の力を最大限に発揮できるように尽力する」との意見を示している。

 MicrosoftもDEIの取り組みを推進している。同社で最高ダイバーシティー責任者を務めるリンジー・レイ・マッキンタイア氏は、ビジネス向けSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)「LinkedIn」にこう投稿した。「Microsoftにとって、透明性と説明責任は一時的なトレンドや季節によって変わるものではない」

 Delta Air Lines(デルタ航空)で最高法務責任者を務めるピーター・カーター氏は、2024年第4四半期(10~12月)の業績発表において、「デルタ航空は他社に続いてダイバーシティーに対する立ち位置を見直すのか」と問われた。カーター氏は方針の見直しを否定し、「ダイバーシティーへの取り組みは当社のビジネスに重要だと考えているため、揺らぐことはない」と回答した。

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