サイバー攻撃が増加する中、企業ではインシデント対応計画(IRP)の整備を進める必要がある。しかし、計画を策定しただけでは実際の攻撃に対応できるとは限らない。IRPを有効にするためのポイントを紹介する。
「インシデント対応計画は作ったが、実際に機能するのか分からない」「訓練はしているが、実際の攻撃時に対応できる自信がない」――。ランサムウェアやサプライチェーン攻撃が増加する中、企業の情報システム部門(以下、情シス)では、インシデント対応計画(IRP:Incident Response Plan)の整備を進めているところがある。しかし、「計画を作ること」と「実際に機能すること」は別問題だ。
そこで重要になるのが「計画をテストすること」だ。本稿では、事業継続、災害復旧の専門家であるポール・カーバン氏が、テスト実施の基本ステップや成功のかぎを紹介する。
IRPのテストは、新車の試乗に似ている。カタログ上では問題なく見えても、実際に運転して初めて「ブレーキは適切に動くか」「運転しやすいか」「安全に走行できるか」が分かる。インシデント対応計画も同様で、実際に試してみなければ、計画が機能するかどうかは判断できない。
テストの目的は、「手順を確認すること」だけではない。計画のどこに問題があるか、必要なリソースが足りているか、担当者が本当に役割を果たせるかを検証することにある。
IRPのテスト手法は複数ある。
架空のシナリオを使い、特定の問題にどう対処すべきかをインシデント対応チームが議論する。実際のシステムは操作せず、対応フローや意思決定を確認する。
実際のインシデント発生時を想定し、実戦形式でIRPに記載の役割に基づいて行動し、計画内容を検証する。「インシデント発生時のコミュニケーション」や「バックアップを使ったデータの復旧作業」などを実施する。
本番環境に近い形で擬似攻撃を実施する。例えば、ファイアウォールが正しく機能するかを確認するために、疑似攻撃を実施し、チームが検知・対処できるかを確認する。
インシデント対応計画を検証する際は、どのようなシナリオを設定するかが重要になる。代表的なのは、ランサムウェア攻撃やフィッシング攻撃、DDoS攻撃、内部不正などだ。
一方で、近年は「サイバー攻撃そのもの」だけではなく、周辺インフラの障害も重要な検証対象になっている。例えば、停電によってセキュリティシステムが停止した場合や、データセンター火災、インターネット接続断、クラウドの設定ミスなどがある。
特に企業のITにおいては、「複数の障害が同時に発生する」ケースも想定する必要がある。例えば、「ランサムウェア感染とバックアップ障害」「クラウド設定ミスと情報漏えい」といったシナリオだ。単一の障害を前提にした訓練では、実際の危機対応力を計測できない恐れがある。
テストの準備と実行、結果のレビューには多大な労力を要する。しかし、その努力は実際に障害が発生した際、報われる。以下が、IRPを策定するステップだ。
| ステップ | フェーズ | 主体 | 実施内容 | 目的 |
|---|---|---|---|---|
| 1. | テスト範囲決定 | セキュリティ担当/情シス | 既存のインシデント対応計画を評価し、異常検知、封じ込め、復旧など何をテストするか決める | テスト対象を明確化する |
| 2. | テスト計画策定 | 情シス/CSIRT | 参加者、必要リソース、実施条件を整理したテスト計画書を作成する | 実施体制を整える |
| 3. | 成功基準設定 | 情シス/管理職 | 検知時間、対応時間、復旧時間など評価指標を定義する | 成果を測定できるようにする |
| 4. | 経営レビュー | 経営層 | テスト目的や範囲が組織方針に合致しているか確認する | 経営承認を得る |
| 5. | シナリオ準備 | 進行役/ベンダー | テスト用スクリプトや攻撃シナリオを準備する | 訓練を円滑化する |
| 6. | 環境確認 | IT運用担当 | 検知システムやネットワーク機器が正常に動作するか確認する | テスト失敗を防ぐ |
| 7. | 関係者通知 | 情シス/管理職 | IT部門や業務部門、経営層に実施を通知する | 混乱を防ぐ |
| 8. | 役割共有 | CSIRT/進行役 | 各メンバーの役割と責任を事前共有する | 対応漏れを防ぐ |
| 9. | リハーサル | 情シス/テストチーム | 本番影響のない環境で試験実施や事前確認を行う | 不備を洗い出す |
| 10. | テスト実施 | 進行役/参加者 | シナリオ提示、対応実施、議論を進める | 実際の対応力を検証する |
| 11. | 記録・監視 | 記録担当 | 作業内容や対応時間を記録し、必要に応じて中断判断する | 後で分析可能にする |
| 12. | 振り返り | 全参加者 | デブリーフィングを実施し、問題点を整理する | 改善点を抽出する |
| 13. | 報告書作成 | 情シス/CSIRT | 実施後レポートを管理職へ提出する | 経営へ共有する |
| 14. | 計画改善 | 情シス/CSIRT | 得られた教訓を基に計画を修正し、再テストする | 継続的改善を実現する |
テスト実施時には、「何を成功とするか」を事前に定義することが重要だ。例えば、「検知までの時間」「封じ込め完了までの時間」「復旧時間」などを指標化することで、訓練結果を客観的に評価できる。
テスト後の振り返り(After Action Report)も重要だ。どの対応が機能し、どこに問題があったのかを整理し、インシデント対応計画そのものを更新する。
ただし、訓練が成功したからといって、実際の攻撃にも対応できるとは限らない。実際のインシデントでは、担当者が強いプレッシャーを受けたり、想定外の事態が発生したりする可能性がある。訓練時には機能した手順が、本番では通用しないケースもある。
それでも、準備不足のまま本番を迎えるよりははるかに良い。脅威環境が高度化する中、インシデント対応計画のテストは、「やるべきかどうか」ではなく、「どこまで現実に近づけられるか」が問われる段階に入りつつある。
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