企業が確認すべき評価軸
“もう1つのSAP問題” SAP Commerce 2205保守終了で考えるEC基盤の選定ポイント
2026年7月末にSAP Commerceのバージョン2205のメインストリーム保守が終了する。クラウド移行や代替製品への刷新を判断するユーザー企業に向けて、EC基盤の選定で着目すべき6つのポイントを紹介する。
企業間取引(B2B)のデジタル化が進み、EC(電子商取引)サイトはもはや補助的な販売チャネルではなくなった。近年では高額なB2B取引であってもオンライン上で完結するケースが増えており、EC基盤は企業の売り上げや顧客体験を左右する重要なシステムになっている。
こうした中、多くの企業が利用してきたSAPベースのEC環境が大きな転換点を迎えている。2026年7月末、「SAP Commerce」のオンプレミス版(バージョン2205)のメインストリーム保守が終了する。そこでSAP Commerceのユーザー企業は、クラウド版に移行するのか、サードパーティーベンダーのサービスを利用するのか、今後の運用方針を決断しなければならない状況にある。
本稿では、SAP Commerceのユーザー企業が移行を実施するに当たって評価すべきポイントを紹介する。
リプレース時に確認したい評価ポイント1. 拡張性とアーキテクチャ
最初に確認したいのは拡張性だ。今は問題なく運用できていても、顧客数や商品数が増加した際にシステムが柔軟に対応できなければ、数年後に再びリプレースを迫られる可能性がある。
そのため、APIによる連携機能やモジュール単位で機能を追加できるコンポーザブル構成に対応しているかを確認したい。
リプレース時に確認したい評価ポイント2. B2B向け機能の充実度
B2B ECでは以下の機能が実質的な必須要件となる。
顧客企業ごとのアカウント階層管理
B2B取引では、1社の中に本社、支社、工場、購買部門など複数の組織が存在することが珍しくない。そのため、親会社と子会社、部門ごとに異なる権限や発注可能な商品を設定できる機能が求められる。例えば、本社は全ての発注履歴を閲覧できる一方で、各拠点は自拠点の発注のみ実施できるといった制御が必要になる。
契約価格や数量割引の設定
B2B取引では、全ての顧客が同じ価格で購入するわけではない。長期契約顧客向けの特別価格や、購入数量に応じたボリュームディスカウント、業種別の価格体系などを柔軟に設定できる機能が必要だ。営業担当者が個別に価格を管理している場合、運用負荷や価格ミスの原因になるため、システムによる一元管理が重要となる。
RFQ(見積もり依頼)対応
高額商材や産業機器のような商材では、購入前に見積もりを取得するプロセスが一般的だ。顧客がWeb上で見積もりを依頼し、その内容を営業担当者が確認して回答し、承認後にそのまま発注へ移行できる機能が求められる。見積もり内容を手作業で受発注システムへ再入力する運用は、ミスや業務負荷の増加につながる。
与信管理や掛け払い
B2B取引では、クレジットカード決済ではなく「月末締め翌月払い」などの掛け払いが一般的だ。そのため、顧客ごとの与信枠や支払い条件を管理し、与信限度額を超える発注を自動的に制限できる機能が重要になる。特に取引額が大きい企業では、売掛金リスクを抑えるための必須機能と言える。
購買承認ワークフロー
企業の購買では、担当者が自由に発注できるとは限らない。一定金額以上の発注は部長承認が必要、特定製品は情報システム部門の承認が必要、といったルールが存在する。ECプラットフォーム側で承認フローを設定できれば、メールや紙による承認作業を削減しながらガバナンスを維持できる。
調達システムとのパンチアウト連携
大企業では、購買担当者がECサイトに直接アクセスするのではなく、調達システムから商品を検索して購入するケースが多い。パンチアウト連携は、購買システムからECサイトへ遷移し、選択した商品情報を調達システムへ戻す仕組みだ。大企業向けビジネスを展開する企業では重要な要件となる。
CSVによる大量発注や再注文機能
B2Bでは数百~数千品目を一度に発注することも珍しくない。そのため、商品コードと数量をCSVファイルで一括アップロードして注文できる機能や、過去の注文履歴を基にワンクリックで再注文できる機能が求められる。特に製造業や卸売業では、発注業務の効率化や入力ミス防止に大きく貢献する。
重要なのは、これらが標準機能として提供されているかどうかだ。カスタマイズ前提の製品は、導入後の運用コストが膨らみやすい。
リプレース時に確認したい評価ポイント3.ERPやCRM(顧客関係管理)との連携
B2B ECプロジェクトで最も失敗しやすいポイントがERPやCRMとの連携だ。
商品情報や在庫、価格情報はERPに存在し、営業履歴や顧客情報はCRMに存在することが一般的だ。これらの同期が不十分だと、価格の不一致や在庫不足、入力作業の重複といった問題が発生する。
ERP連携機能の有無だけでなく、リアルタイム同期やERPアップグレード時の影響まで確認しておきたい。
リプレース時に確認したい評価ポイント4.AI対応と将来性
近年のB2B ECではAI活用も進んでいる。AIによる再注文提案や需要予測だけでなく、AIエージェントが在庫確認や発注業務を自動化する「Agent Commerce」の考え方も登場している。
現時点で利用予定がなくても、将来的なAI活用に対応できるAPIや拡張性を備えているかは確認しておきたい。
リプレース時に確認したい評価ポイント5.総保有コスト(TCO)
EC基盤の選定を、ライセンス費用だけで判断してはいけない。導入費用は小規模なSaaS型でも数万ドル規模、中規模導入では数十万ドル規模、大規模導入では100万ドルを超えるケースもある。さらにコンポーザブルコマースを採用した大規模開発では数百万ドル規模になることもある。
そこで、ライセンス費用だけでなく、導入、連携、運用保守、将来的な拡張費用を含めた3年単位のTCOを試算する必要がある。
リプレース時に確認したい評価ポイント6.顧客体験(CX)
B2B購買担当者の多くは、営業担当者を介さないセルフサービス型の購買体験を望んでいる。そのため、以下の機能が重要になる。
リアルタイム在庫確認
B2B取引では、在庫の有無がそのまま納期や生産計画に影響する。顧客は「発注できるか」だけでなく、「いつ納品されるか」を重視するため、ERPや在庫管理システムと連携して最新の在庫数や入荷予定日をリアルタイムに表示できる機能が求められる。在庫情報の更新が遅れると、欠品や納期遅延による顧客満足度の低下につながる。
注文状況追跡
B2Bでは発注から納品までの期間が長く、複数の担当者が進捗を確認するケースも多い。そのため、「受注済み」「出荷準備中」「出荷済み」「納品完了」などのステータスを顧客自身が確認できる機能が重要になる。配送会社の追跡番号と連携できれば、問い合わせ対応の負荷軽減にもつながる。
商品コンフィグレーター
産業機器やIT機器のように、仕様やオプションの組み合わせによって価格や構成が変わる商材では、顧客自身が要件に応じて製品を構成できる機能が求められる。例えば、CPUやメモリ容量、保守サービスなどを選択すると価格が自動計算される仕組みだ。営業担当者を介さずに見積もりや発注が可能になるため、販売効率の向上が期待できる。
保存済みカート
B2Bの購買プロセスは、B2Cのようにその場で完結するとは限らない。複数の担当者による確認や社内承認を経て発注するケースが一般的だ。そのため、選択した商品を保存し、後日再開できる機能が必要になる。プロジェクト単位や拠点単位でカートを共有できる機能を備える製品もある。
再注文機能
製造業や卸売業では、同じ商品を定期的に購入するケースが多い。そのため、過去の注文履歴やお気に入りリストからワンクリックで再注文できる機能が求められる。定期購入品や消耗品の発注業務を効率化できるため、購買担当者の負担軽減と発注ミスの削減に役立つ。
価格の透明性
B2Bでは顧客ごとに契約価格が異なることが一般的だが、それでも「自社がどの価格で購入できるのか」を容易に確認できることが重要だ。契約価格や数量割引、キャンペーン価格をリアルタイムに表示することで、見積もり依頼や問い合わせの回数を減らせる。価格情報が不明確だと、顧客が他社サイトへ流れる要因にもなり得る。
これらは「あると便利な機能」ではなく、売り上げに直結する顧客体験の要素になっている。
EC基盤選定は調達ではなく成長戦略
SAP Commerceの保守終了は、多くの企業にとって避けられないリプレースのきっかけとなる。しかし、その判断を単なるシステム更新として進めるべきではない。
今後のB2B取引はさらにデジタルチャネルへ移行し、AI活用やセルフサービス化も進むとみられる。だからこそ、情シス担当者には「どの製品へ移行するか」ではなく、「自社の成長を支えるEC基盤は何か」という視点が求められる。
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