生成AIの進化によって、コード実装の在り方は大きく変化し始めている。AI時代に、エンジニアには何が求められるのか。これからの「コードを書くエンジニア」に求められるスキルを整理する。
生成AIの進化によって、コード生成を支援するツールの活用が急速に広がっています。一方で、現場では新たな不安も生まれています。「AIがコードを書くなら、自分たちは何を学べばよいのか」「エンジニアの価値はどこに残るのか」といった疑問です。
本稿では、「AIで価値が下がる能力」と「AI時代に価値が上がる能力」を整理します。
生成AIの普及によって、エンジニアの仕事はなくなっていません。しかし、仕事の中身は確実に変化しています。
生成AIの普及によって、プログラミングにおける実装速度は大きく向上しています。簡易的な処理や定型コードであれば、ゼロから自分で書くよりもAIに生成させた方が速いケースが増えています。
これらの変化を裏付けるデータも出始めています。LINEヤフーは2023年に全エンジニア約7000人を対象に「GitHub Copilot for Business」を正式導入しました(注1)。この結果、テスト導入の段階でエンジニア1人当たりのコーディング時間は約1〜2時間短縮し、一部作業では効率が約10〜30%向上したと同社は報告しています。東芝テックでは、GitHub CopilotのPoC(概念実証)開始後3カ月目と8カ月目で、コードの採用率が26.5%から35.8%に上昇しました。利用が深まるにつれてAI生成コードの採用率が高まっていく傾向も確認されています(注2)。
重要なのは、単に作業が速くなったことではありません。AIがコード生成を担うようになった結果、人間はコードを書く時間よりも、AIの出力を確認し、修正し、採用するかどうかを判断する時間を多く使うようになっています。
つまり、開発現場では「実装する人」から「実装を評価する人」へと仕事の重心が移り始めています。
こうした変化によって、「特定の言語でコードを書けること」や「ライブラリの使い方を知っていること」の価値は相対的に低下しつつあります。
もちろん、複雑なシステム開発や高度な最適化が必要な場面では、今後も人間がコードを書く必要があります。しかし、定型的な実装についてはAIが代替できる範囲が急速に広がっています。
その結果、エンジニア同士の差は「どれだけ速くコードを書けるか」ではなく、「AIを活用してどれだけよいシステムを作れるか」に移りつつあります。
ここで誤解してはならないのは、「コードを書く価値が下がる」と「技術力が不要になる」は全く別の話だという点です。
AIがコードを書いてくれるなら、プログラミングの基礎を学ぶ必要はない――そう考える人もいるかもしれません。しかし実際には逆です。
AIは一見すると正しそうなコードを生成しますが、その中には問題が含まれている場合があります。
例えば、特殊な条件下で誤作動するコードや、セキュリティ上の脆弱性を含むコード、古い実装パターンに基づいたコードが生成されるケースは珍しくありません。
こうした問題を見抜くには、プログラミング、アルゴリズム、設計に関する基礎知識が必要になります。
LINEヤフーでも、知見のない分野ではAIが提案したコードの正誤判定が難しいという声が上がりました。AIの出力を評価するためには、まず人間側が理解していなければなりません。
AI時代に価値が高まるのは、「コードを書く能力」よりも「コードを理解する能力」です。
AIは動くコードを作ることはできます。しかし、そのコードが長期的な運用に耐えられるかどうかまでは保証してくれません。
実際のシステム開発では、
といった観点が重要になります。
短期的に動くものを作ることと、長期間運用できるシステムを作ることは別問題です。
AIによって生成されるコードが増えるほど、人間には「品質を判断する責任」が求められるようになります。
では、これからエンジニアは何を学ぶべきなのでしょうか。ポイントは、「AIが得意なこと」と「人間が担うべきこと」を切り分けることです。
AIが得意なのはコード生成です。一方で、何を作るべきか、どのような構造にするべきか、どの選択肢を採用するべきかを決めるのは人間の仕事です。
今後重要性が高まるスキルとして、主に以下が挙げられます。
これらはいずれも、コードを書く速さだけでは代替できない能力です。
AIによって実装工数が削減されるほど、人間はこうした上位レイヤーの仕事に時間を使えるようになります。今後のエンジニアの価値は、コード生成能力ではなく、意思決定能力によって決まるようになるでしょう。
AI活用が広がる中では、新たなリスクも生まれています。
開発者が機密情報をAIツールに入力してしまうことで発生する情報漏えい、AIが学習したオープンソースコードを使うことで生じるライセンスの問題、脆弱性を含むコードの生成などがその代表例です。
こうしたリスクがある以上、「AIが書いたから」という理由で生成コードをそのまま採用することはできません。
なぜそのコードを採用したのか。どのようなリスクを確認したのか。その判断を説明できることが、AI時代のエンジニアに求められる重要な能力になります。
こうした変化は、エンジニア個人だけの問題ではありません。企業の育成方針や組織運営にも影響を与えています。
多くの企業では、「まずコードを自力で書けるようにするべきか、それとも最初からAIを活用させるべきか」という議論が始まっています。
AIに依存し過ぎると、コードを読む力や問題を構造的に考える力が育たない可能性があります。一方で、現実の開発現場ではAI利用が前提になりつつあります。
今後は、コードを書く訓練だけでなく、コードをレビューし、設計を理解し、AIの出力を評価する訓練が重要になるでしょう。
企業には、AIを安全に利用するための体制整備も求められます。AI利用ガイドラインの整備、レビュー体制の見直し、情報漏えいリスクやライセンスリスクに関する教育などが必要になります。
LINEヤフーでは、AI利用者へのeラーニング受講を必須化するとともに、AI生成コードに対する複数人レビューを徹底しています。
AIツールを配布するだけでなく、安全に利用するためのルールや教育を同時に整備することが重要です。
生成AIによって、コードを書く作業そのものの価値は相対的に低下しています。しかし、それはエンジニアの価値が低下することを意味しません。
むしろ今後重要になるのは、システムを設計する力、コードを評価する力、リスクを判断する力、ビジネス要件を整理する力です。
AIはコードを書くことはできます。しかし、「何を作るべきか」「その設計は妥当か」「そのコードを採用してよいのか」を判断することはできません。
AI時代にエンジニアが優先して学ぶべきなのは、プログラミング言語の文法そのものではなく、設計、レビュー、セキュリティ、要件定義、業務理解です。エンジニアの役割は「コードを書く人」から「設計・評価・判断する人」へと変わり始めています。
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