AI時代のインシデントは、外部攻撃ではなく社内AIの予期せぬ挙動やポリシー違反が8割を占める。本記事では、法務や人事までをも巻き込んだ新たな対応体制や、レジリエンスを高めるための具体的な指針を解説する。
AI時代、セキュリティチームにとってのインシデントレスポンス(事案対応)は、以前とは全く異なる活動になりつつある。数年前まで、サイバーセキュリティのインシデントといえば、人間が背後にいる攻撃や内部脅威を指すのが通例だった。
2026年6月1日から3日まで米メリーランド州ナショナルハーバーで開催された「Gartner Security & Risk Management Summit 2026」で同社ディレクターアナリストのクレイグ・ポーター氏は、現在は社内のAIエージェントが意図しない事象を発生させており、CISO(最高情報セキュリティ責任者)とそのチームによる管理が必要になっていると指摘した。
「許可されていないAIの挙動の少なくとも80%は、悪意のある攻撃によるものではない。情報の過剰な共有、不適切な利用、あるいはAIの誤った挙動といった企業ポリシーに対する内部違反が原因になるだろう」(ポーター氏)
ポーター氏は、Gartnerが継続的に確認している3つの主要な課題を挙げた。
セッションでは、CISOの役割が動的で、脅威環境の変化に合わせて責任も急速に移り変わることが強調された。AIはビジネスに広範な影響を及ぼす挙動を示す可能性がある。ポーター氏は、企業セキュリティにおけるAIの複雑な役割を考慮し、インシデントレスポンスのプロトコルを根本的に見直すよう推奨した。
AIによる新たな事象が次々と発生する中、企業は何がAIセキュリティインシデントに該当するのかを再定義する必要がある。定義を明確にした上で、プレイブック(対応手順書)を進化させなければならない。AIはセキュリティや業務に影響する形で、侵害や悪用、故障が発生する可能性があるからだ。
Gartnerの調査によると、CISOの多くは依然としてこうしたあいまいな領域を明確に分類することに苦慮している。タクソノミー(分類体系)を拡張し、AI特有の脅威、プロンプトインジェクション、データやモデルのポイズニング、バイアスの悪用、ディープフェイクなどを含める必要がある。ポーター氏は、内部リスクやサードパーティーの脅威、外部のAIインシデントに対処するため、専用の役割を備えた新しいAIプレイブックを作成すべきだと述べた。
「インシデントレスポンスからレジリエンス(回復力)への転換が起きている。従来のインシデントレスポンスではもはや対応しきれない」とポーター氏は指摘する。「AIインシデントでは、挙動や設計、そして意思決定のプロセスそのものを調査しなければならない」
AI時代において、インシデントレスポンスにはより広範な責任が求められる。規制や技術的な深刻度に基づいたAIエスカレーションプロトコル、明確なシステム復旧プロセス、AI固有の新しいメトリクスを事前に定義しておく必要がある。また、CISOは法務、モデルの所有者、コンプライアンス、人事、事業責任者など、分野横断的な対応体制を整えなければならない。
AIの挙動は動的なので、監視を断続的に行うことはできない。ポーター氏は、AIの挙動をログに記録し、サードパーティーの制御を適用することの重要性を強調した。可視化すべき対象には、モデルやシステムの成果物、意思決定と挙動の証拠、データの流れと系統(リネージ)、シャドーAIの応答、テレメトリー、APIベースのポリシー適用などが含まれる。サードパーティーのリスクに対処するため、ポーター氏はベンダーリスク管理のワークフローにAIのトリアージを組み込むことも推奨した。
AI時代において、CISOは何がサイバーセキュリティインシデントかを根本から考え直し、特定後の対処法を再構築しなければならない。承認済みのAIモデルでもリスクを伴うことを認識し、定期的な部門横断トレーニング、机上演習、災害復旧、事業継続計画などの準備を整えることが必要だ。
「そこに攻撃者がいない場合もある。それがAIの根本的な課題だ。システムは承認された通りに動作しているにもかかわらず、リスクを生み出しているのだ」とポーター氏は締めくくった。
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