AIは「助手」から「攻撃主体」へ 毎月高リスクなAI利用をする企業が9割専門家も見破れないフェイク

サイバー攻撃の現場でAIツールが「自律的な実行者」へと進化を遂げている。Check Point Researchによると、攻撃者は複数の商用AIツールを操り、システムへの侵入を自動化している。どう対策すればよいのか。

2026年08月25日 05時00分 公開
[TechTargetジャパン]

 サイバーセキュリティの脅威は日々高度化しており、企業は終わりの見えない対処に追われている。AI技術の成熟によって、誰もが自然な文章や高度なプログラムを作成できるようになり、サイバー攻撃への参入障壁が大きく低下した。これを受けて、企業は自社のデータ資産やシステムをいかに守るかという課題に直面している。

 Check Point Software Technologiesの脅威インテリジェンス部門であるCheck Point Research(CPR)は、年次調査「AI Security 2026: From Assistant to Operator」を発表した。本レポートは、Check Point Researchが2025〜2026年に収集したインシデント、テレメトリー(稼働状況)、独自のケーススタディーを対象としたものだ。

 分析の結果、機密情報を含む高リスクなプロンプトの割合が2%から4%に増加したことが判明した。約9割の企業が毎月少なくとも1件の高リスクなAIツールの利用を経験しており、日常業務に重大なリスクが潜む実態が浮き彫りとなった。AIツールはもはや攻撃者の「優秀な助手」ではなく、自ら攻撃を遂行する「実行者」へと変貌を遂げており、企業は抜本的な対策の見直しを迫られている。

AIはもはや助手ではない

 CPRの調査によって明らかになった最も重要な変化は、AIツールの役割の移行だ。従来のサイバー攻撃において、AIツールはマルウェアの作成やフィッシングメールの文面作成など、人間の攻撃者を支援する役割にとどまっていた。しかし昨今では、AIツールがエクスプロイトのワークフローを自律的に実行し、人間の指示を最小限に抑えた状態で攻撃を遂行している。

 具体例として、単独の攻撃者が複数の商用AIツールを連携させ、侵入からデータ分析、後続の攻撃指示まで、34回のセッションで5317件ものコマンドをAIツールに実行させた侵害事例が確認されている。これによって、新たに公開された脆弱(ぜいじゃく)性情報から実用的な攻撃コードが作成されるまでの期間が、数日からわずか数時間へと劇的に短縮された。防御側に残されたパッチ適用の猶予は、最短で12時間から72時間にまで縮まっており、従来の手動対処では追い付かないスピードでの攻防へと突入している。特定の政府機関を標的としたケースにおいても、AIツールは裏方のアシスタントではなく、主要な実行者として活用されている。

デジタルアイデンティティーの崩壊と認証基盤の限界

 AI技術の進歩は、人間同士の信頼基盤である本人確認の仕組みを根本から揺るがしている。音声、顔写真、身分証明書などの文書に加え、リアルタイムの映像も極めて精巧に偽造可能になった。調査からは、高度な訓練を受けた専門家であっても、AIツールが生成した顔を正しく見破れる確率は41%にとどまることが明らかになっている。

 この事実は、視覚や音声のみに依存した従来の認証システムが、もはや単独では機能しないことを意味する。企業は、多要素認証(MFA)やアウトオブバンド認証(ログイン用の経路とは異なる経路を用いた認証)など、より強固で複合的な仕組みへの移行を急がなければならない。特に長文のプロンプトインジェクション(悪意あるプロンプトの挿入)の検出件数が、2026年3月から5月にかけて約5倍に急増した。これは理論上のリスクではなく、日常的な攻撃経路として定着しつつあることを示している。

日常業務に潜むデータ漏えいの構造的ジレンマ

 外部からのサイバー攻撃以上に企業にとって深刻なのが、社内で承認されたAIツールの通常利用に起因する、内部からのデータ漏えいだ。調査対象の企業では1カ月当たり平均10種類のAIツールが稼働しており、その大半はIT部門の正式な許可を得ていない状態で利用されている。

 従業員は、AIツールから精度の高い有用な回答を引き出そうとするあまり、契約書の内容や顧客データ、ソースコードなど、機密性の高い背景情報を無自覚にプロンプトとして入力する傾向がある。調査結果を業種別に見ると、ビジネスサービス業界における高リスクなプロンプトの割合は約5.9%に達し、全業種の中で最も高い数値を示した。卸売・流通業界も約5.5%と高い水準にある。AIツールの利用が中核業務に深く浸透すればするほど、外部のAI提供企業へのデータ露出リスクが比例して高まるという構造的な問題が立ちはだかっている。

独自の仕組みによる防衛と今後の展望

 これらの脅威に対抗するには、AIツールの利用状況を包括的に可視化し、リアルタイムでの制御を可能にすることが重要だ。セキュリティチームが自社のネットワーク内に露出しているサーバやエンドポイントの存在を把握し、従業員が日々AIツールをどう利用しているかを発見・監視することで、データの外部送信を未然に防ぐことができる。

 今後の展望として、AIエージェントがエンドユーザーの任意のアプリケーションから、OSやハードウェアに標準で組み込まれる標準化の流れが進むと予測されている。そのため、企業はIT管理を後付けで追加するのではなく、AI導入の初期段階からセキュリティ方針を組み込むアプローチを採用する必要がある。攻撃者がAIを高度な実行者として活用する時代において、防御側もまたAIを活用してマシンスピードで脅威を検知し、自律的な対応を可能にする新たなサイバー防衛の枠組みの構築が不可欠だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
本記事は制作段階でChatGPT等の生成系AIサービスを利用していますが、文責は編集部に帰属します。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

瞬時にM365が乗っ取られる――全社員に周知すべき“新フィッシング”の教訓

瞬時にM365が乗っ取られる――全社員に周知すべき“新フィッシング”の教訓
MFA(多要素認証)を入れたから安心という常識が崩れ去っている。フィッシング集団「Tycoon2FA」が摘発されたが、脅威が完全になくなったというわけではない。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...