IM――禁止するにはあまりに重要なビジネスツールCase Study

インスタントメッセージング(IM)の仕事中の私用は生産性の低下を引き起こしかねない。だが、IMを完全に阻止するのはほぼ不可能だし、ビジネスツールとしてのメリットはデメリットを上回るものがある。

2006年04月18日 09時22分 公開
[TechTarget]

 PR会社の5Wパブリック・リレーションズでは、インスタントメッセージング(IM)が社員の集中力をあまりに削ぐ存在となったため、勤務時間中のIMの使用が禁じられた。

 5Wでは、社員らがIMで複数の相手と並行して会話していたため、IMを介した連絡では事実上、伝達不良が当然のように起きてしまっていることに気付いた。メッセージが重要なPR会社にとって、それは歓迎すべき状況ではなかった。そして5Wには、「通信文はすべてアカウントチームのメンバー全員にコピー送信すること」という会社からの指示があった。これはIMを使う場合には不可能であるため、アカウントマネジャーにとっては悩みの種となっていた。

 一方医療サービス会社インテリケアでは、IMは全く違ったとらえられ方をしている。同社ではIMを不可欠な機能と考えている。同社の看護スタッフは全米のコールセンターネットワークを介してさまざまな医療質問に答え、患者をモニターしている。

 専門家によれば、好き嫌いはさておき、IMについては制限するよりも容認する方が賢明だ。セキュリティのリスクは報告されているものの、多くの企業にとっては、このメッセージングツールのメリットはデメリットを上回るはずだという。

 それに、いずれにせよ、IMの利用を完全に阻止することはできそうにない。

 ニューヨークを拠点に急成長中のPR会社5Wパブリック・リレーションズでは、インスタントメッセージング(IM)が社員の集中力をあまりに削ぐ存在となったため、勤務時間中のIMの使用が禁じられた。

 5Wでは、社員らがIMで複数の相手と並行して会話していたため、IMを介した連絡では事実上、伝達不良が当然のように起きてしまっていることに気付いた。メッセージが重要なPR会社にとって、それは歓迎すべき状況ではなかった。そして5Wには、「通信文はすべてアカウントチームのメンバー全員にコピー送信すること」という会社からの指示があった。これはIMを使う場合には不可能であるため、アカウントマネジャーにとっては悩みの種となっていた。

 一方医療サービス会社インテリケアでは、IMは全く違ったとらえられ方をしている。同社ではIMを不可欠な機能と考えている。同社の看護スタッフは全米のコールセンターネットワークを介してさまざまな医療質問に答え、患者をモニターしている。

 例えば、電話に接続された体重計を使って、うっ血性心不全患者の体重をモニターしている看護婦が患者から難しい質問を受けたような場合、この看護婦は専門の同僚にIMでアドバイスを請うことができる。また子供の病気について心配している親からの通話に応対中であれば、小児科の専門家にリアルタイムで話に参加してもらったりもできる。

 「重視しているポイントはサービスだ。われわれは患者を待たせたままにはしたくない」とインテリケアのCIO、ジェフ・フォーブス氏は語っている。

 実際、IMはインテリケアの250人の看護婦(97%はリモート勤務)にとって、お気に入りのツールだ。

 インテリケアは社員数が350名で、売上高は約2000万ドルだ。同社は2年前、社員が連絡を取り合える場を作ろうと、IBMのIMプラットフォーム「Lotus Sametime」を実装した。「IMは野火のような勢いで社内に浸透した。看護婦は便利なものであれば何でも使うし、そうでなければ大騒ぎする」とフォーブス氏。

 専門家によれば、好き嫌いはさておき、IMについては制限するよりも容認する方が賢明だ。セキュリティのリスクは報告されているものの、多くの企業にとっては、このメッセージングツールのメリットはデメリットを上回るはずだという。

 それに、いずれにせよ、IMの利用を完全に阻止することはできそうにない。

セキュリティの脅威は誇張されている?

 米調査会社ガートナーのアナリスト、トム・エイド氏によれば、もちろん危険を無視することはできない。だが、CIOにとってもっと根本的な問題は、「IMは無視することはできない」という点だという。この便利なリアルタイム通信システムは当初コンシューマーの間で広まったが、いまや企業における中心的な要素となりつつある。調査でも、こうした状況が続くとの見通しが示されている。

 実際、セキュリティ面ではIMの評判は良くない。脅威が溢れているのは確かだ。セキュリティベンダーによれば、IMはトロイの木馬であり、ワームであり、企業の通信にとって最大の懸念でもある。企業向けIMソフトウェアプロバイダー、アイエムロジックの最近の調査によれば、2006年はIMを狙った攻撃にとって記録的な1年となりそうだ。シマンテック、シバリ・ソフトウェア、マカフィーなどのインターネットセキュリティ企業や、アメリカオンライン(AOL)、ヤフーなどのIMリーダーとの提携により照合したデータによれば、IMの脅威は2006年1月の時点で前年同月と比べて200%以上高まっている。また、攻撃の大半をワームが占めている。

 一方、調査会社イルミナータのアナリスト、ジョナサン・ユーニス氏は次のように語っている。「実際のところ、IMは電子メールほどワーム/ウイルス/セキュリティのリスクは高くない。IMには“ファイルを送信”などの機能はあるが、それは攻撃の最前線にはない。特に、これまでWebページや電子メールを狙った攻撃がいかに成功してきたかを考えれば、比べ物にならない」

 ガートナーによれば、IMは電話以来、最も広く分布し、最もひんぱんに利用されているIPベースのリアルタイムコラボレーション技術だ。同社は企業向けIM市場は向こう3年間に年間20%の成長率で拡大し、IMは「自由なサービス」から「会社に認可されたサービス」へと容赦なく変貌し、CIOにとっては厄介なことになるだろうと予測している。

 「この先、IMは企業向け電子メールサービスと融合することになるという見通しに疑問の余地はない。既に小規模ベンダーではそうした動きが起こっている。ゴーダノという英国の小規模ソフトウェアメッセージング企業はその一例だ」とガートナーのエイド氏。

 マイクロソフトとIBMは現在、世界の企業向け電子メール市場で売上高の90%以上を占め、ユーザーベースでは86%を占めている。エイド氏によれば、両社がIMを取り入れれば、企業のITインフラにおけるIMツールの立場は正式なものとなる。2010年までに、仕事用の電子メールアカウントを持つユーザーの90%はIT部門によって管理されたIMアカウントを持つようになる見通しという。

 またエイド氏によれば、ビジネスの現場におけるIMの利用は増え続ける見通しという。より高速なコミュニケーション、直接的な連絡、コラボレーションの強化、コスト削減など、IMはさまざまなビジネスバリューを提供するからだ。

 専門家によれば、IMに関してさらに大きなリスクはプライバシーに関するものだ。IMでは情報が暗号化されないため、簡単に傍受できる。これでは、情報が人目にさらされかねず、明らかなリスクと言える。

 大規模なカンファレンスやWi-Fiホットスポットで見かけるように、IMの暗号化自体は不可能ではない。「だが、実際にするとなると特別な手間が掛かる」とユーニス氏。

 エイド氏によれば、CIOがまず最初にすべきは現状の把握だ。「まず実際にIMがどの程度使われているかを把握し、IMを企業レベルのアプリケーションにする意味があるかどうかを判断するための査定を行う必要がある」と同氏。

 またエイド氏によれば、理想的なのは、シニアレベルの幹部とITレベルのスタッフで構成されるガバナンスチームがこうした決定を下すという形だが、実際には、判断はITスタッフだけの責任で下されるケースが多い。「そして、後はエンドユーザーの実際の行動にかかってくる」と同氏。

 インテリケアでは、IMは医療関連の問題だけでなく、会議、出欠の確認、徹底的なトレーニング、そして日常会話にも使われている、とCIOのフォーブス氏は語っている。

 「私が社員から何度も聞かされたのは、“そんなことをしたら看護婦たちは常におしゃべりばかりするようになるだろう”という意見だった。だが、私は次のように反論した」とフォーブス氏。同氏はまず、リモート社員にとってコミュニティーの構築がいかに重要かを指摘し、さらに、そう言う社員たちも「ちょっとしたおしゃべり」の時間をかなり費やしていることを思い出させたという。実際、こうしたおしゃべりは同僚とより効率的に仕事を進める上で役立っていた。それなら、リモート社員にとっても同じことではないだろうか?

 「スタッフたちは話をして、また仕事に戻る。そして、われわれにはそれを測定する方法もいろいろある。私は批判的な人たちに自分の意見を訴えた。今では彼らも文句は言わなくなった」とフォーブス氏は語っている。

(この記事は2006年3月21日に掲載されたものを翻訳しました。)

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