金融担当大臣 自見庄三郎氏の発言以降、日本のIFRS適用の動向が不透明になっている。その中、ASBJがセミナーを開催。金融庁の企業開示課長、ASBJ委員長らが講演した。日本と世界におけるIFRSの現在の状況とは。
企業会計基準委員会(ASBJ)は7月19日、「ASBJオープン・セミナー2011 第1回」を都内で開催した。金融庁の企業開示課長 古澤知之氏やASBJ委員長の西川郁生氏らが講演し、IFRSの最新情報と国内の情報を伝えた。
金融庁の古澤氏は、6月21日の金融担当大臣 自見庄三郎氏の「IFRS適用に関する検討について」の発言(参考記事:IFRS強制適用が延期、金融相が「2015年3月期の強制適用は考えていない」)などを引用し、国内外のIFRS取り巻く状況を説明した。特に「われわれとしても米国の動向は注意深く見ていかないといけない」として米国の状況を詳しく解説した。
米国は2008年、IFRSを米国企業に2014年から段階的に適用するロードマップ案を公表。2009年度からは任意適用も認めるとしていた。しかし、2010年2月に公表したワークプランでは、仮にIFRSを適用する場合でも最低4〜5年の移行期間が必要であるとして、2011年の決定後、適用は2015〜2016年になるとの認識を示した。ロードマップ案に含まれていたIFRS任意適用は撤回された。
米国がIFRSを適用する条件の1つはIASB(国際会計基準審議会)とFASB(米国財務会計基準審議会)のコンバージェンス作業が順調に進むことだったが、その作業は遅れている。2011年4月にはMoUプロジェクトの一部を延期することを発表した。また、5月26日にはSEC(米国証券取引委員会)がIFRSを米国に導入する上での方法を示した作業プランを「1つの選択肢」として公表した。「IFRSを一定期間、例えば5〜7年の期間をかけて順次、米国基準へ取り込んでいく(リプレースする)プラン。最終的に米国基準に準拠していれば、IFRSに準拠していると企業が主張できるようにすることを目的としている」(古澤氏)。
さらに6月21日にはSECのメアリー・シャピロー委員長が「IFRS適用を求める米企業や投資家の声はそれほど多くない」と発言したとの報道があった。
古澤氏はまた、国内での動向として4月28日に公表された「単体財務諸表に関する検討会議」の報告書を紹介した(参考記事:単体財務諸表はコンバージェンスせずが多数意見か、報告書公表)。6月20日の金融相の発言に関連し、報告書から「その他の意見」の説明を取り上げた。
「2012年を目途に判断がなされるIFRSの強制適用については、過剰な準備対応が存在すること等を踏まえ、範囲及び適用時期について早期に議論・決定が行われ周知されることが望まれるとの意見があった。また、範囲の議論とは別に、適用の判断が2012年を目途に行われた後、十分な準備期間を設けることが周知されることが、過剰な反応を引き起こさないために大事であるとの意見もあった」(報告書、8ページ)
古澤氏は6月30日の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議における金融相の発言も紹介した(参考記事:2年前に逆戻りしたIFRS議論——大幅増員した審議会で結論は?)。取り上げたのは以下の箇所。
「このような状況に鑑み、経済活動に対する不要な負担・コストが発生することがないよう必要な措置を講じることに加えて、中間報告で“取りあえずの目標”とされている2012年にとらわれず、総合的に成熟された議論を早急に開始することが、正しい国民理解を得る上で金融庁がなすべきことと考え、今回は政治的な決断として大きく舵を切らせていただきました」(金融庁の資料)
古澤氏は講演の最後に「合同会議でも議論があったが、IFRSの強制適用が延期されたというのは(報道の)ミスリーディング。そもそも適用するかどうかを2012年に議論することになっている。その点についてはあらためて言いたい」と話した。
ASBJの西川委員長は「古澤課長が制度の現況について話してくれた。会計基準の開発は制度の在り方と表裏の関係にある。それを考えながら基準開発の議論をすることが重要」と述べたうえで、IASBを中心とするIFRSの国際的な動向を説明した。IASBとFASBが進めているMoUプロジェクトについては5つのプロジェクトが完成したものの、金融商品、リース、収益認識という3つのMoUプロジェクトと、保険契約については継続中で、「IASBはこの4つのプロジェクトにリソースを集中させている」という。
6月30日に更新されたIASBの作業計画について西川氏は金融商品(IAS第39号の置き換え)の減損、ヘッジ会計について2012年の上期には基準化されないとの見通しを示した。リースと収益認識、保険契約は2012年上期の基準化が予定されている(7月26日に更新されたIASBのワークプランでは、リースと収益認識が2012年中の基準化に延期。保険契約は基準化の時期が不明になった)。
東京合意に基づき進められてきたコンバージェンスについては達成状況を6月10日に公表した(参考記事:終わりを迎える「東京合意」、達成状況を発表)。発表文では東京合意は「今後日本において考え得るIFRS の適用の検討の道筋において重要なステップであったとの考えを示し、また、ASBJが引き続きIASBの基準開発に参画することは、1組の高品質でグローバルな会計基準の開発に大きく貢献することになる」との認識が両者で確認された。
ASBJが現在開発中の基準は無形資産(社内開発費の資産計上)、企業結合(ステップ2、のれんの非償却、少数株主持分の取り扱い)、退職給付(ステップ1、未認識項目の負債計上、退職給付債務および勤務費用の期間帰属)。社内開発費の資産計上やのれん、未認識項目の負債計上については、上記の「単体財務諸表に関する検討会議」で検討された項目となっている。
社内開発費の資産計上は、IAS第38号「無形資産」とのコンバージェンス作業の1つ。現在の日本の会計基準では研究費、開発費ともに費用計上されている。論点になっているのは、一定の要件を満たす社内開発費について、IAS第38号と同様に資産計上するかどうか。西川氏は「現在、連結先行(連結は資産計上、個別は費用処理)する案と、費用処理(連結個別とも費用処理)する案を中心に検討中」と説明した。
のれんについては日本基準では20年以内に償却することになっているが、IFRS第3号「企業結合」ではのれんを非償却にし、最低年1回の減損テストを行うことにしている。ASBJはこのIFRS第3号に日本基準をコンバージェンスするかを検討している。西川氏によると、ASBJは現在、「連結先行(連結は非償却処理、個別は費用処理)する案と、現時点では結論を出さず償却処理を継続する案を中心に検討中」と説明した。
また、退職給付については、2010年3月にステップ1の公開草案を公表済み。未認識項目(過去勤務債務、数理計算上の差異)を負債計上するが、損益計算書上は従来と同様に遅延認識を継続することを提案している。争点になっているのは、未認識項目の負債計上を個別においても連結と同様に処理するかどうか。関係者の懸念があることから、西川氏は「未認識項目の負債計上の個別財務諸表における取り扱いについて、慎重に対処する必要があるとの意見があり、連結先行も含め何らかの激変緩和の措置が必要かどうかを検討中」とした。
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