IFRSプロジェクトを支援する約100社のうち、4分の1程度の企業がIFRSプロジェクトを休止したことを明らかにした。
PwC Japanは9月13日、IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)についての説明会を開催した。PwC Japan IFRSプロジェクト室 リーダーの鹿島章氏(プライスウォーターハウスクーパース パートナー)は、同社がIFRSプロジェクトを支援する約100社のうち、4分の1程度の企業がIFRSプロジェクトを休止したことを明らかにした。
IFRSは、金融庁の自見庄三郎担当大臣が2015年3月期の強制適用は行わない意向を示したことでロードマップに不透明感が増している。説明会は「さまざまな議論が起きているので、PwCなりの考察をする」のが趣旨だ。
鹿島氏による同社が支援する企業は約100社。大臣発言以降の行動は4分の1ずつ4タイプに分けられるという。1つは上記のようにIFRSプロジェクト自体を休止してしまったタイプ。強制適用の時期が不透明なことに加えて、企業規模に応じた先行適用も予想されることから、国内ビジネス中心で中小規模の地方銀行や鉄道、電力関連の企業がプロジェクトをストップしているという。
もう1つのタイプは対照的で大臣発言以降も当初の予定通り、プロジェクトを進めている企業。このタイプの企業はプロジェクトの目的がIFRS適用だけではなく、経営管理の向上やシステム統合、経理処理の標準化など別にもある。そのためIFRSの動向には影響を受けずにプロジェクトを進めているという。
残りの2つのタイプは態度を決めかねている企業だ。1つのタイプは2011年度は人員と予算を割り当てられていてプロジェクトを進めているが、IFRSの適用時期が2017年などになるのであればプロジェクトの進行をスローダウンする計画という。残りの1タイプは、同様に今年の予算はあるが、来年度以降は未定で、場合によってはプロジェクトを2年程度ストップさせることを検討しているという。
企業がIFRSプロジェクトをどう進めるかは上記のようにIFRSのロードマップや適用方法に依存する。その議論を行っているのが金融庁の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議で、これまで6月と8月に開催された(参考記事:2年前に逆戻りしたIFRS議論――大幅増員した審議会で結論は?、IFRSロードマップはどうなる? 金融庁審議会の議論を追う)。10人の臨時委員が追加され合計47人で議論をしているが、過去2回は「47人が自分の見解を述べるにとどまった」と、あらた監査法人の代表社員 アカウンティングサポート部リーダー 木内仁志氏は指摘した。IFRSに対する委員の態度は「ポジティブとネガティブが半分ずつくらいという印象だった」という。
木内氏は今後の議論で浮上するであろう3つのポイントについて考察を述べた。1つは「日本の立ち位置」。日本はIASB(国際会計基準審議会)、IFRS財団、モニタリング・ボードに委員を複数送り込むなど、IFRSの策定に関して一定の影響力を持っている。しかし、日本がIFRSに対して後戻りするような結論が審議会で出ると、IFRSにコミットしていないとして、影響力アップを狙っている他国から批判が出る可能性がある。結果的にIASB理事などの席を奪われてしまうリスクがある。
中国は既にIASBの新しい組織で、新興国の意見を取りまとめるEEG(Emerging Economic Group:新興経済グループ)の設立に関与し、EEGの副議長に人員を送り込んだ。日本にはIASBのサテライトオフィスが2012年に開設されることになっているが、「どのような機能を果たすのかはまだ不明。EEGの活動の方が先に進んでしまう可能性がある」(木内氏)。会計基準というよりは国際政治の駆け引きとなるが、審議会でも今後のテーマになるだろう。
もう1つのポイントは「IFRSの品質」だ。審議会では資産負債アプローチ、公正価値中心のIFRSは日本のビジネスに合わない、コンバージェンスはもう限界、既に日本基準とIFRSとの同等性評価が確保されているので、連結先行の考えを改めた方がいいなどの意見が委員から出された。
木内氏はこの指摘に対して「IFRSは完全な資産負債アプローチではない。また日本基準もコンバージェンスにより既にIFRSと同様の基準になっている」と説明。IFRSが公正価値中心との指摘に対しては、「現在の日本基準と大きな差異はない」と話した。
また、2008年12月に欧州連合(EU)から出された同等性評価については「予断を許さない」として詳しく説明した。日本企業はEUの同等性評価によって英国やフランス、ドイツなどEU域内の市場で日本基準の財務諸表を使用できるようになった。ただ、同等性評価は永久ではない。EUは継続的に日本の動向を確認していて、特にコンバージェンスの進展やIFRS採用の動向をチェックしている。2008年の同等性評価ではコンバージェンスを継続している日本の全体的な動向をEUは評価した。そこでは「個々の基準の差異は見ていなかった」(木内氏)。ただ、実際は細かな差異が残っているのが現状だ。その日本がIFRSについて後ろ向きな決断を行うと、全体的な評価だけではなく、個々の基準差異もチェックされる可能性がある。その際に同等性を維持できるのか。「コンバージェンスが継続されず、強制適用も不透明な状況においては、引き続き日本基準が同等と認められるかどうか、予断を許さない」(木内氏)
3つ目のポイントは「IFRS導入方法」だ。審議会ではIFRSを規模に関係なく全ての上場企業に適用する、日本基準を維持すべき、米国で検討される「コンドースメント・アプローチ」を考えるべきなどの意見が出されている。木内氏はこれらの指摘に対して「(日本基準と目的が異なるので)IFRSは上場企業の連結財務諸表に適用することを前提に議論すべき」と指摘。日本基準の今後のコンバージェンスについては「中小企業への影響、税務・会社法への影響などを考慮する必要がある」と説明した。
また、米国の動向についてはSEC(米国証券取引委員会)が9月下旬から10月上旬に「GAAP差異分析レポート」「IFRS適用方法の分析レポート」を出す予定。この2つのレポートを受けてSECは2011年中にIFRS導入に向けての方向性を示すとみられる。米国の決定は日本の動向に大きな影響を受けることは必至で、日本にとっても重要な決定となりそうだ。
あらた監査法人 パートナーで、PwC Japan 韓国ビジネスグループ リーダーのスティーブン・チョン氏は、2011年1月にIFRSを強制適用した韓国の事例を紹介した。韓国では2009年からIFRSの早期適用が可能となり61社が適用。2011年1月からは約2000社が適用した。
チョン氏によると、韓国でも日本と同様にIFRS適用に対する反対意見があった。多くは企業の財務数値への悪影響や、適用費用への懸念だった。しかし、実際にIFRSを強制適用した後のアンケート調査では、「IFRSは企業にマイナスの影響を及ぼした」とする回答はわずか4.4%だった。また、韓国企業の競争力向上という面もあるが、2009年のIFRS早期適用開始以降、韓国資本市場への海外からの投資が増加。韓国企業の海外市場への上場も増える傾向にあるという。チョン氏は「IFRSが韓国企業の成長を支える大きな要因になった」との見方を示した。
PwC Koreaの調査によると、IFRSを適用した企業の導入コストは売上高の0.4%以上という企業が一番多く、38.1%を占めた。次いで売上高の0.1〜0.4%で34.5%だった。売上高の0.1%未満は27.4%。コストの中身ではシステム関連費用が49.9%。次いで外部アドバイザー費用が25.0%。研修が15.0%、その他が10.0%だった。
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