将来のメールシステムの変更にも低コストで対応できる秘策とは?Exchange Server 2010導入事例

大阪工業大学では、大規模なシステム再構築の一環として新メールシステムにExchange Server 2010を採用した。将来のシステム運用構想も織り込んだ同大学の採用ポイントを探る。

2010年04月02日 14時00分 公開
[TechTargetジャパン]

ものづくり教育を重視

 大阪工業大学は、1922年に創設された関西工学専修学校を前身とし、1949年に工学部のみからなる単科大学として設立された。その後、1996年には情報科学部、2003年にはわが国初の知的財産学部を設置して、今日に至っている。現在では、大阪市旭区にある大宮キャンパスに知的財産学部と工学部、枚方市にある枚方キャンパスに情報科学部があり、3学部15学科と大学院2研究科10専攻、1専門職大学院で構成され、在籍学生は約8000人となっている。

 同大学は専門職職業人の育成を旨とする教育理念の下、特徴のある教育が展開されている。工学部では、あらゆるものづくりの技術を身に付けるために体験型教育を推進している。その中核となるのが「ものづくりセンター(モノラボ)」で、この施設には切削加工ができる「造形フロア」や組立・鋳造ができる「組立フロア」、図面や電子回路の設計が行える「設計フロア」があり、産業界で実際に使用されている機器を自由に利用できる。実習施設として活用するのはもちろんのこと、学部・学科・研究室・クラブ活動を問わず、学生の新しいものづくりコラボレーションプロジェクトを支援している。情報科学部では、ITの中核技術であるコンピュータのハードウェアやソフトウェア、メディア、ネットワークなどの幅広い分野をバランスよく学修し、情報通信技術のスペシャリストの養成に取り組んでいる。知的財産学部では、国際競争力を持つ技術開発に欠かせない知的財産専門職業人を輩出するための教育を展開している。

 大阪工業大学では、3年ごとにITインフラのリプレースを行っている。現在、大規模なリプレースに取り組んでおり、サーバを入れ替え、仮想化技術を利用したインフラの再構築を行っているのだ。これまで大宮と枚方の両キャンパスでは独立したインフラを構築していたが今回それを改め、2つのキャンパスを高速な専用回線(10Gbps)で結び、共通のIT基盤を活用するスタイルを取ることになる。

 このインフラ再構築の一環として、同大学はメールシステムにマイクロソフトのExchange Server 2010の導入を決定し、2010年4月より本格稼働を開始した。

大阪工業大学の新ネットワーク構成図

専門家のコラボレーションの活発化を

「学内でのコミュニケーションのレベルアップを目指す」と語る八重垣茂夫氏

 大阪工業大学 情報センター課長の八重垣茂夫氏は次のように話す。

 「今回のインフラの再構築は、単なるリプレースだけではない意味を持っています。システムにかかわるコスト負担を根本から低減させるものにするということと、学内でのコミュニケーションのレベルアップです。モノラボの設置でも分かる通り、本学では社会に役立つプロフェッショナルの育成を目指しています。ものづくりには、学部・学科の枠を超えたさまざまな専門職がコラボレーションすることが重要です。そのためには、情報の共有やコミュニケーションを充実させる環境整備が必要です」

「ユーザーサポートのスピードアップがカギ」と語る山本公三郎氏

 同大学では、これまでも研究や学習におけるコミュニケーションの重要性を意識した情報インフラ作りを行ってきた。しかし、コスト低減という条件も満たしながら、より安全で使いやすいコミュニケーション基盤を作るということになるとそう簡単な話ではないということに気付いたという。

 「特に約250人の教育系職員、つまり学生を教育する先生方のIT活用の利便性を上げていくには、セキュリティの充実が欠かせません。学外から学内の自分のメールボックスやデータフォルダにアクセスするので、情報漏えいの不安は可能な限りゼロに近い方がいい。それから情報センターが先生方に対してサポートする場合でも、皆さんが同じソフトウェアを同じバージョンで利用していただいた方がサポートのスピードも速い」

「ユーザーの使い勝手を損なわないメールシステムが必要だった」と語る谷川裕哉氏

 そう語るのは、情報センター 係長の山本公三郎氏だ。教育系職員は、これまでそれぞれに割り振られた予算の中からソフトウェアを購入していたため、全職員が共通のソフトウェアを同じバージョンで利用するということはなかった。しかし今回マイクロソフトと包括ライセンス契約を結び、WindowsやMicrosoft Office製品、Core CALを大学に所属するすべての教職員、学生とも経済的負担を負わずに常に最新版のものを利用できるようになった。

 情報センターの谷川裕哉氏は次のように話す。

 「メールシステムでマイクロソフト製品を利用するのは本学では初の試みです。Exchange Server 2010を利用することで、デザイン系の先生方がよく使っているMacでの使い勝手に問題があったらと心配しましたが、テスト段階で問題なく使えることが分かりました。マルチプラットフォームの製品をコミュニケーションインフラに利用することのメリットを実感しました」

Exchange Server 2010採用のメリット

 Exchange Server 2010の採用はインフラ再構築の構想段階から決まっていたのだろうか。山本氏は次のように話す。

 「構想段階から選択肢として当然ありましたが、メールはGoogleのGmailを活用しようかというアイデアもありました。それまでは別のWebメールシステムを利用していたので、その延長線上の発想もいろいろとありました。しかし将来のことを考えるとExchange Server 2010が最適だということになったのです」

 将来の構想というのは、現在学内に構築したサーバで運営しているメールシステムの一部を外部のシステムに移し、運用管理などもアウトソーシングしようというものだ。18歳人口の減少は将来的にも続く公算が高く、大学としては社会人教育などにも力を入れていく方針だ。その構想の礎の1つとなるのが、卒業生との関係構築。八重垣氏は次のように語る。

 「卒業したらそれで本学と関係が切れてしまうのではなく、例えばメールアドレスをそのままにして、社会人になってからも利用してもらうというアイデアもあります。それによって、本学の教育環境を再び利用してもらう機会を増やす可能性もあります」

淀川から見た大宮キャンパス全景

 ただし、学内で管理すべきアカウントが増えればコスト高につながる。そこでMicrosoft Exchange Onlineというホスティングサービスを持っているマイクロソフトに注目したのだ。Microsoft Exchange Onlineは、「ソフトウェア プラス サービス」という自社運用、パートナー ホスティング、マイクロソフト ホスティングを組み合わせて使うことを可能にするマイクロソフトのサービスに活用されるもの。大阪工業大学のように現在は大学内の運用で進めているが、将来は一部のサーバ運用やデータ管理を外に出す構想を持っている。組織にとっては先の不安を少なくするサービスといえるだろう。大阪工業大学では、リプレース後もこれまで使っていたWebメールを利用し続けて将来メールサーバを一部外に出す方策よりも、将来利用するであろうホスティングサービスと同じアーキテクチャを持ったメールシステムを今導入することを選んだわけだ。

将来の構想を今から安心して作り上げる

 大阪工業大学では、将来外部のホスティングサービスにアウトソースすることを前提にして、ほかのメールシステムを導入したケースも考えたが、コストが非常に高くなると判断したという。例えば、外部からメールシステムにアクセスした際に添付ファイルをダウンロードすることを禁止したり、PCにデータを残さないようにする機能を持たせようとすると、構築費用などが非常に高くつくことが分かった。

 「Exchange Server 2010ではそのような機能を標準で用意していると聞いて、驚いたと同時にユーザーの要求をよく研究しているなと感じました」(山本氏)

 この機能はOutlook Web Appというもので、Ajaxテクノロジーの導入によって実現した。ユーザーは外部からアクセスしてもメールをキャッシュ上で扱い、PCの電源を切ってしまえばローカルに残ることもない。

 現在、Exchange Server 2010の稼働を控えて、これまで蓄積した旧Webメールのデータ移行が間もなく終了するということだが、稼働後、将来のホスティングサービスへの一部システム移行に関して不安はないのだろうか。これについて八重垣氏は次のように語る。 

 「Exchange Server 2010からはActive Directoryもメールボックスも同期で運用できるのが大きいですね。将来、卒業生のメールアカウントやデータだけ外部のホスティングサービスに移行するにしても、移行作業に工数が掛かり過ぎるとか、あちらこちらで混乱が起きるということはあまり考えにくい。学内外へのサービスを拡張しながらコストは適正に抑えていくという大きなテーマに取り組んでいくには、こうしたなかなか見えにくいメリットも意識していかなくてはならなかった。そうした意味でExchange Server 2010は、われわれに驚きと安心感を提供してくれたといえるでしょう」

 大阪工業大学は将来、Microsoft Exchange Onlineの教育機関向け「Live@edu Outlook Live」というプログラムを活用することになる。しかし同大学の試みは一般企業にも大いに参考になるだろう。社(学)内か社(学)外のいずれか二者択一しかないという環境ではなく、最初から部分的に外部サービスに移行することを想定してIT投資の計画を練ることができる。そんな総合的なサービスこそ、今ユーザーが求めているものだといえる。

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