ERPの構築モデルは複数ある。その選択は自社の今後のビジネス戦略や既存ITシステムの環境などによって左右される。考えられる3つの構築モデルを示す。
SAP ERP導入による最適なIT環境のグランドデザインを描く上で、既存のシステム構成から出発すると、さまざまな制約条件やしがらみで失敗する場合が多い。筆者の経験では、多くの場合、既存システムの状況は、複数のシステムが過去の歴史を引きずって複雑に混在しており、全体最適の観点で部分的な手直しではどうにもならないケースがほとんどだった。
また、かつてはパフォーマンス、保守の制限からERPの構築には複数のシステムインスタンスが必要だった。だが、近年のITの技術的な進化によりハードウェア、システムの能力が向上し、今や1つのシステムで全世界の業務トランザクションを処理できる。そのため全く新しい視点でグランドデザインを描く方が早いと考えられる。
ERPの構築パターンとしてはいろいろな形態が考えられるが、標準化・共通化を実現する上では以下のようなパターンが想定される。
既存のシステム形態がこの姿であるケースが多い。このタイプのシステム形態が必ずしも悪いわけではない。個々の事業の独立性が非常に高く、複数事業・領域をまたがった共通化のメリットがない場合は、個別最適によるソリューションが妥当だ。しかしながら、会計領域におけるIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)適用の流れもあり、グローバルレベルで共通化すべき業務プロセスを再度検討すべきと考える。
筆者の経験では、会計領域の80%以上の業務はグローバルレベルで標準化できる。単体会計を含む会計領域をグローバルで1つのシステムに統合することは、IFRS対応、会計情報の精度向上、情報集約スピードの向上などメリットが大きいと考えられる。SAP ERPは会計領域とSCM領域を1つのパッケージで統合管理できることが大きな利点だが、このパターンではあえて会計領域とSCM領域とを分離させ、グローバルレベルでの水平統合を優先させる。
単一のERPでグローバルの全事業、全業務領域を統合するパターン。ERPとしては理想的なシステム形態だが、構築のための負荷が最も高く、構築に要する時間も最もかかる。自動車産業や製薬業、半導体産業など事業バリエーションが大きくない場合には適用可能であり、この形態の実現により最大のメリットを享受できる。
実際は、SAP ERPを導入する上で目指すべきグランドデザインは1〜3のハイブリッド型になると思われる。自社の業務(現在、将来)を見据えて、最も適切なグランドデザインを描き、トップマネジメント、営業、製造、会計、開発、人事など全領域のステークホルダーが同じ方向を目指すことが、SAP ERPの構築に当たって最初に行うべきことだ。
テクノロジー コンサルティング本部 SAPビジネスインテグレーショングループ プリンシパル
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