スマートフォンやタブレットの企業利用に当たって対処すべき課題はセキュリティだけではない。CIOの関心の中心はむしろ「コスト」にある。
複数のユーザー企業のCIOが、モバイル端末の企業利用について私的に議論するために集まったとする。そこではどんなことが話し合われるだろうか?
スマートフォンやタブレットなど、一般消費者向けのIT製品を企業利用する動きは否応なく進んでいる。従業員がこうした製品を利用するのを止めるのは難しい。懸念材料として真っ先に挙げられるのはセキュリティだが、CIOたちの関心の中心はそれではない。むしろ大きいのはコストに対する懸念だ。
米調査会社Gartnerが最近開催したあるシンポジウムで、100人以上のCIOやITプロフェショナルが会合した。そのときの議題として最も白熱したのはコストだった。
多くのCIOが関心を示したのは、自己所有の端末を業務に持ち込む「BYOD(Bring Your Own Device)」のコストに関する問題だ。
バンダービルト大学のIT幹部は、「業務で利用する端末を大学職員が自前で購入するために、資金の提供を要求する職員からの圧力が日増しに高まっている」と話す。ある金融サービス企業のグローバルITを担当するCIOは、給与水準の低いアジア諸国でBYODを導入する際、どのようなポリシーを検討すべきかについて質問を投げかけた。
BYODについて具体的な財務評価を済ませているユーザー企業はあるだろうか? BYODを導入すれば、信頼性の高い企業向け端末を全社導入するのに比べて初期投資を抑えられるのは確かだ。だが私物端末をサポートするコストまで含めた場合、総額でどれくらいのコストになるかを明確に把握できているだろうか。
米調査会社Forrester Researchでエンタープライズモビリティを担当するアナリストのブラウンリー・トマス氏は、CIOたちの懸念がコストに集中するのは当然だと指摘する。同氏の見積もりでは、調査対象となった80社の企業の75%がモバイル関連コストを制御できていないという。「あまりにも寛容過ぎる既存のモバイルポリシーでは、従業員の行動様式を変えられないことは多くのCIOが理解している」(トマス氏)
トマス氏が担当するユーザー企業が最も頭を悩ませている問題は、国際データローミングのコストだという。エグゼクティブや従業員が3G通信機能を持つスマートフォンやタブレットを持って出張すると、そのコストはとんでもない額に跳ね上がる。「あるクライアントが米国からカナダにローミングしたとき、1回の出張で1人当たり5万ドルもの請求書が届いた。国際ローミングで月に2万7000ユーロを支出しているクライアントもいる」(トマス氏)
「エンタープライズモビリティに関するこうした痛みと混乱は、今後増大することはあっても縮小することはない」。そう警告するのは、Gartnerのシンポジウムで司会を務めた同社のアナリスト、ニック・ジョーンズ氏である。「モバイル端末の企業利用やBYODの導入は、始まったばかりだということを忘れてはならない」(ジョーンズ氏)
ボストンに本社のある金融サービス企業のCIOは最近、150人の従業員が利用する個人端末と社用端末に関するさまざまなコストを検証した。その結果、個人所有の端末を自由に使わせると、通信料金が非常に大きくなることが分かったという。「多大な通信料金を会社に押し付けようとする従業員も少なくない」と同CIOは明かす。
こうした状況を受け、同社は通信料金管理(TEM)ソリューションを導入して社内全体の通信料金プランを管理することに決定。BYODへの移行は選択しなかった。併せてモバイル端末管理(MDM)製品を導入し、会社支給のモバイル端末を管理する計画だ。ただしそのコストの大部分を従業員に負担させるという。「われわれは従業員に、『これはクールな新しい端末を利用するために、あなたが支払わなければならないコストだ』と説明している」。だが、これは本当に正しいアプローチなのだろうか?
後編は、モバイル端末の企業利用に関する米連邦航空局などのユーザー企業の見解を紹介。さらにモバイル端末からのMicrosoft製品の利用に当たってのライセンスコストの問題についても見ていく。
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