リソースも料金も“スケールアウト”
クラウド版“パケ死”に注意 うっかりミスで高額請求
携帯電話のパケット通信で予期せぬ高額料金が請求される“パケ死”と同様の状況が、クラウドでも現実化しつつある。思い込みや単純ミスが、クラウドの料金を知らぬ間に押し上げる。
クラウドはプロビジョニング(リソース確保/割り当て)が容易で、料金体系も利用度に柔軟に対応している。ただし、インスタンス(実行する仮想マシン)の料金表に含まれないコストが発生する場合があるので、ワークロード(アプリケーションの実行や利用に必要な処理要素)をクラウドで展開する前に確認が必要だ。
クラウドを運用する際、インスタンスの初期設定以外に、ストレージやネットワーク、負荷分散、セキュリティ、冗長性、バックアップ、アプリケーション/サービス、OSのライセンスなどに費用が掛かる。一部のクラウドコスト、具体的には、リソース競合防止やストレージ容量、帯域幅、冗長性の確保のために必要なコストが驚くほど高額になることがある。
インスタンスのパフォーマンスとプロビジョニングのコスト
「うるさいお隣さん」に例えられるかもしれないが、他のユーザー企業とハードウェアを共有するクラウドでは、リソースの競合が発生するといった問題はよくあることだ。
「パブリッククラウドの世界では、共有ホストで『うるさいお隣さん』が予想以上にリソースを使っていたり、特定のホストからの応答が返ってこなくなったり、ホストを頻繁にリプレースする必要があるなど、容量を多めに用意しなければならない」と、ホスト型マーケティングソフトウェアベンダー、米HubSpotの最高情報責任者(CIO)ジム・オニール氏は語る。「予測可能なレベルのパフォーマンスを維持したいなら、必要な分よりも少し多めの容量を用意するための投資を惜しまないことだ」
米ITコンサルティング会社Cascadeoの創設者の1人ジャレッド・レイマー氏によると、過度なプロビジョニングは場合によっては必要だが、逆効果になる可能性もあるという。
「インスタンスやストレージプール、メモリ容量などの継続的な調査と適切なサイジングを怠ると、多額の費用が掛かることになる」とレイマー氏は語る。「ある企業では、物理環境から仮想環境への変換ツール『VMware vCenter Converter』を利用し、仮想マシンのイメージを米Amazon Web Services(AWS)のクラウドのインスタンスへ変換して運用を始めた。すると巨額の請求が届き、担当者は『なぜこんなことに?』と驚いた。インスタンスタイプを全て“Large”で作成していたことが原因だったが、正当な理由があってそのタイプを指定したわけではなかった」
「クラウドコストが跳ね上がるのは、初めてクラウドを利用するユーザー企業が、『社内インフラを丸ごとクラウドへ変換して展開しなければいけない』と思い込んでしまう場合だ」と話すのは、ITコンサルティング会社、米StrataScape Technologiesの取締役であるアンソニー・パガーノ氏だ。
「事業が停滞したら、いつでもクラウドの規模を縮小すればいい」とパガーノ氏は語る。「ただし、最初にとてもハイエンドなクラウドを導入してしまったら、後で規模を縮小できなくなることもある。上げ過ぎたバーを下げるにはベンダーとの再交渉が必要になり、それが見えないコストになる」
データストレージも忘れずに
「ストレージのパフォーマンスとリソースの競合は、以前からクラウドの問題とされてきた。改善策はあるが、無償ではない」。米人材派遣会社Robert Half Internationalの最高情報責任者(CIO)であるショーン・ペリー氏はこう語る。
特にAWSでは、ストレージサービス「Amazon Elastic Block Store(EBS)」向けに最適化されているインスタンスと、ボリュームごとに指定されたIOPS(I/O per Second:1秒間に処理できるI/O数)を利用できるように、ストレージオプションに機能が追加されている。
こうした機能のコストは、「一見取るに足らないが、使用する時間数や日数、バイト数を掛け合わせると、たちまち無視できない額になる」とペリー氏は語る。
例えば、Robert Half Internationalは2013年5月、AWSで稼働させているグループウェア「Microsoft SharePoint Server」のインスタンスへデータをロードする速度を把握するためにロードテストを実施。IOPSを指定できるオプション「Amazon EBS Provisioned IOPSボリューム」、ボリュームとの間で特定のスループットを確保するインスタンス「EBS-Optimizedインスタンス」を同時に利用した。
「請求書を見て、『何てこった』と皆でぼうぜんとした」と、ペリー氏はそのときのことを振り返る。同社のAWS利用に対する請求書の総額は約1万1000ドルにも上り、そのうち50%が、ペリー氏の部署だけが利用したProvisioned IOPSボリュームの使用料だった。
クラウドは従来のバックアップシステムに代わる“バックアップのコスト削減策”だと見なされることが多い。一方で、ストレージ関連のクラウドコンピューティングについては、具体的にはスナップショットのバックアップで課金対象期間内に何度もスナップショットをキャプチャーするため、費用が予想以上の額になって驚くユーザー企業も少なくない。
Cascadeoのレイマー氏によれば、バックアップを自動スナップショットの設定にし、不要になったデータセットを削除することを忘れるケースが多くみられるという。つまり、バックアップのデータ量は際限なく増えていることになる。
「そしてストレージ使用料金2万ドルの請求書が届き、『一体どういうことだ』と頭を抱えることになる」とレイマー氏は語る。「そのとき、クラウドには1万種類のバックアップが作られている。前の状態に戻して、データのクリーンアップをする必要がある。それが解決策だ」(同氏)
ディザスタリカバリ、モニタリング、ネットワーク帯域幅に関する注意点
「ディザスタリカバリのため、インスタンスに冗長性を持たせるためのコストも見落とされることが少なくない」と、Fortune 100に入る大規模企業のエンジニアリング部門の責任者が、匿名を条件に明かしてくれた。この会社が導入した新しいクラウドには、適切な冗長性と管理性を維持するだけでも、少なくとも12台から24台の仮想マシンが必要となった。
「クラウドを稼働させるための最低限のコストは必要で、そこにデータを維持するためのレプリケーションのコストが加わり、さらにモニタリングと管理、最適化も必要になる」と、同責任者は語る。
ネットワークの帯域幅にも注意が必要だ。AWSや米Rackspaceなどのベンダーはネットワーク帯域幅にも課金することを明言しているので、ユーザー企業はサーバやストレージと同様に、料金体系にも気を配る必要がある。
「以前利用していたデータセンターの設置場所に過度に依存している状況は、適切だとはいいにくい。また、バックエンドを常時呼び出しているのならば、その点に注意を払うべきだ」と、英蘭資本の学術出版大手Reed Elsevierのテクノロジー部門でアーキテクトを務めるマット・リピンスキー氏は指摘する。
一方、帯域幅のコストが明確ではない場合もあると、Cascadeoのレイマー氏は語る。
例えばAWSは、AWSクラウドとの専用線接続サービス「AWS Direct Connect」でも、外部へ向かうトラフィックの量を測定して課金する。ユーザー企業が通信事業者に固定量の回線料金を払っている場合、レイマー氏の言葉を借りれば「実質上はネットワークの費用を二重に支払っている」ことになる。
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