オンプレミスオブジェクトストレージという選択【前編】
新トレンドはオブジェクトストレージへの移行とオンプレミスへの回帰
ストレージ市場に新たなトレンドが生まれている。既に始まっているオブジェクトストレージへの移行に加え、クラウドからオンプレミスへの回帰が見られる。今何が起きているのか。
クラウドサービスを根底で支えているのがオブジェクトストレージだ。「Dropbox」や「Facebook」のファイルシステム、「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)もこれを基盤としており、オブジェクトストレージは世界最大のストレージシステムとも言える。
オブジェクト技術は巨大なパブリッククラウドを巡る課題、すなわちペタバイト規模のデータ量、高度に分散されたシステム、長期のデータ保存などの解決と関わっている。
オブジェクトストレージは、速度よりも柔軟性に定評がある。インターネット接続は単純に言って、ローカルのフラッシュはもちろん、HDDにさえもかなわない。
だが、オブジェクトストレージは主流に移行しつつあり、それに伴って企業のオンプレミスシステムに導入されるようになっている。
IHS Markitのアナリスト、デニス・ハーン氏によると、オンプレミスオブジェクトストレージへの関心は、保存すべきデータが増え続けている企業のニーズによって高まっている。その大部分は、モノのインターネット(IoT)や人工知能(AI)によって生成される大量のデータに起因する。だがオブジェクトストレージの用途はそれだけにとどまらない。
「拡張性の向上やどこからでも利用できるアクセス性だけでなく、ストレージ管理コストの引き下げや地理横断的なデータ保護の向上につながる」とハーン氏は解説する。
オンプレミスへの移行
クラウドベースのストレージシステムがオブジェクト技術を使っているのは、それが膨大な量の顧客データを保存でき、しかも顧客が求めるコストと安定性でそれを実現できる唯一の手段になりつつあるためだ。
例えばAmazon S3は99.999999999%の耐久性をうたっている。ハーン氏が指摘する通り、企業は今、コスト削減と耐久性強化のために、データとメタデータを分離するオブジェクトストレージの柔軟性を活用している。
当然ながら、オンプレミスのオブジェクトストレージをいち早く採用してきたのは、貴重なデータを超大量に保存している企業だった。
早くから採用に踏み切ったのはメディア組織が多い。南アフリカのメディアサービス企業MediaCloud NetworksはObject Matrix製品を使って、顧客がクラウドベースのワークフローにアクセスし、ビデオコンテンツの編集とアーカイブに利用できるようにしている。コンシューマーオンラインビデオサービス企業のDailymotionは「Scality RING」を使って本番用とバックアップ用のビデオ35億本(30PB)を処理している。同社は今ではプライマリーのストレージ技術としてオブジェクトストレージを使うようになった。
オブジェクトストレージを使う業界はメディアだけにとどまらない。英国ではTelent(telent Technology Services)が、ミッションクリティカルなデータサービスを防衛、運輸、司法などを含む業界に提供している。Telentが英国警察に提供するクラウドベースのデジタル証拠システムにはオブジェクトストレージが使われている。
今のところ、それらはストレージニーズの極端な事例かもしれない。だがIHS Markitの予想では、企業のデータ量は年間で33%増える見通しだ。しかも、企業はオンプレミスかクラウドベースのストレージかの二者択一をしているわけではない。IHS Markitのハーン氏によると、双方が拡大している。
技術的ハードル
オブジェクトストレージへの移行には課題もある。この技術をオンプレミスに移行すれば、クラウドストレージに関するレイテンシは縮小できるが、他の障壁は残る。
調査会社Freeform Dynamicsのブライアン・ベッツ氏は言う。「オンプレミスオブジェクトストレージの最大の問題は、既存アプリケーションのほとんどがファイルまたはブロックストレージを前提としていることにある。オブジェクトストレージの開発者はゲートウェイやNASタイプのエミュレーションでそうしたニーズに対応しようとしてきたが、限定的な成功しか収めていない」
「オブジェクトストレージがAmazon S3を中心に事実上の標準として融合し続ける中で、そしてクラウドのオブジェクトストレージを前提とした新しいアプリケーションが登場する中で、この状況は変わりつつある」。Amazon S3と相互運用できるアプリケーションであれば、社内でオブジェクトストレージを運用するのはずっと簡単になる。
メディア保存やアーカイブなどのアプリケーションは、オブジェクトストレージにいち早く対応してきた。そうしうたアプリケーションは、単純にデータ量の多さのためにブロックやファイルを超えたITアーキテクチャに目を向ける必要に迫られている。少なくともアーカイブに関しては、安定性に比べてパフォーマンスの重要性が低い。
実際のところ、データ量以外の理由でオブジェクト技術を必要とするアプリケーションはほとんど存在しない。
「オブジェクトストレージを必要とする(ワークロードは)ほとんど存在しない」と語るのは、ストレージ付加価値リセラーTectradeの技術販売責任者イアン・リチャードソン氏。「オブジェクトストレージは一般的に、500TBから1PB以上の規模が求められる場合に有効な選択肢だ。この分野は他のシステムが限界に達しているか、製品ファミリーの最上級モデルを使う必要に迫られている」
そこにまで達すると、複雑さや互換性の限界よりもオブジェクト技術の利点が勝るようになる。だがハイブリッドストレージに目を向ける組織、あるいは少なくともワークロードやデータをクラウドから出し入れできる能力に目を向ける組織が増える中で、オンプレミスオブジェクトストレージは合理的になっている。
「ソフトウェア定義ストレージの『下敷き』としてのオブジェクトストレージが受け入れられるようになっている。その大部分はファイルやブロックの形態で消費される」とFreeform Dynamicsのベッツ氏は解説する。
「例えばCephコミュニティーの内部から、CephFSやRBDの話が出ている(訳注)。だが当然ながら商用ベンダーもそれをやっており、ゲートウェイやエミュレーションに頼るのではなく、ネイティブなフロントエンドファイルやブロックアクセスをオブジェクトストアに追加している」(ベッツ氏)
訳注:Cephは分散ストレージソフトウェア。CephFSはオブジェクトベースの分散ファイルシステム。RBD(RADOS Block Device)はCephのオブジェクトをブロックデバイスとして提供する機能。
このやり方であれば、オンプレミスであれオフプレミスであれ、オブジェクト技術は単なるもう一つのストレージツールになる。
後編(Computer Weekly日本語版 12月4日号掲載予定)では、オブジェクトストレージの主要サプライヤーとその製品、そしてオブジェクトストレージの事例を紹介する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Computer Weekly日本語版
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社フィックスターズ] 組み込みデバイスへのAI実装で開発速度と品質を両立する方法 -
製品レビュー
[株式会社セールスフォース・ジャパン] 実画面を見れば納得 営業・設計・開発を「AI×CRM」でつなぐとこうなる -
比較資料
[アイティメディア広告企画] ERP導入ガイド:「OBIC7」「SMILE V 2nd Edition」「Oracle NetSuite」を比較 -
市場調査・トレンド
[アイティメディア株式会社] AI Overviews時代のB2Bマーケ! 成長企業が選ぶ戦略とは? -
市場調査・トレンド
[アイティメディア株式会社] なぜあの施策は失敗したのか? B2Bマーケ施策を成功させる3つの鉄則
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
2
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
3
「アップグレードできないJava」をどう守る IBMとRed HatがAIで400件超修正
-
4
NVIDIA「一強体制」の終わりか データセンターを襲う“電力の壁”
-
5
「パスワード使い回し8割」の衝撃 なぜ“パスキー移行”が必要か
-
6
「GitLab」に最高深刻度の脆弱性 2014年以降の全版に影響を及ぼす恐れ
-
7
IBM iのブラックボックス化を打破 資産継承と進化を実現する「IBM Bob」の実力
-
8
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
-
9
PHP2Shellの「事前の情報流出」でパニックに パッチ公開を巡る“混乱劇”
-
10
次期AI PC向けプロセッサの有力候補「Snapdragon X」 期待と不安の声の真相は
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
3
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
4
SCS評価制度時代の「SASE選定」ガイド
-
5
顧客対応自動化の要点:RAGとデータ連携で“業務で使える生成AI”にする方法
-
6
マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身
-
7
「EDR」選定ガイド:比較・検討フェーズで整理すべきポイントを解説
-
8
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
9
なぜAIは組織で定着しないのか? 全社展開を阻む「3つの壁」と突破のヒント
-
10
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー