「ランサムウェア」被害を警察に通報すべき“納得の理由”サイバー攻撃の被害者が通報したがらない理由【後編】

ランサムウェア攻撃などのサイバー攻撃を受けた企業には、法執行機関への報告をためらってしまう理由がある。それでも報告することには価値があると専門家は主張する。それはなぜなのか。

2022年03月10日 05時00分 公開
[Arielle WaldmanTechTarget]

 ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃などのサイバー攻撃による被害を受けた企業の中には、その事実を警察などの法執行機関に通報していないところがある。「一般的な犯罪なら通報するのが普通だが、サイバー攻撃の場合はそれ以上の動機付けが必要だ」と、法律事務所Baker McKenzieのパートナーで、顧客のインシデント対処に関与するスティーブン・レイノルズ氏は言う。

 法律事務所Wilson Sonsini Goodrich & Rosatiのプライバシーおよびサイバーセキュリティ担当パートナーであるベス・ジョージ氏は、「最近の米連邦政府による身代金の回収成功は、多くの企業にとって政府に通報する動機になる」と語る。

「ランサムウェア」被害を警察に通報する“これだけのメリット”

 企業は「法執行機関に協力することで生じるデメリットが、メリットを上回らないかどうかを心配しがちだ」とジョージ氏は説明する。ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)攻撃への対処をあらかじめ準備している企業の方が、準備なしでいきなりランサムウェア攻撃への対処をしなければならない企業よりも積極的に通報する傾向があるという。「大企業はインシデントが発生する前から法執行機関と協力関係を作っているのではないか」と同氏は推測する。

 ランサムウェア攻撃において、攻撃者は標的に暗号資産(仮想通貨)を支払わせることが一般的だ。この際、攻撃者は金銭の受け渡しに暗号資産取引業者を介するよう指示する場合がある。ランサムウェア攻撃の被害者による身代金支払いを助長しないようにする目的で、米財務省外国資産管理局(OFAC)は2021年、暗号資産取引業者SUEX OTCに制裁を科すことを発表した。SUEX OTCがランサムウェア攻撃など悪質な手段の金銭取引に関わっていたためだ。「ランサムウェア攻撃の被害者が、SUEX OTCのような制裁を受けた暗号資産取引業者に身代金を支払うと規制違反になるリスクがあることも、企業に報告を促す要因になる」とレイノルズ氏は考える。OFACのガイダンスは、身代金の支払いにおいて法執行機関に全面的に協力することは、企業にとってリスクの軽減につながると説明している。

 脅威インテリジェンスベンダーDigital Shadowsでサイバー脅威アナリストを務めるステファノ・デ・ブラージ氏は「ランサムウェア攻撃以外でも法執行機関への報告は重要だ」と語る。例えばサイバースパイ活動(インターネットやシステムで不正に情報を入手する活動)の影響を確かめるには、法執行機関との連携が欠かせない。

 同じ企業が繰り返し攻撃を受けることがある。セキュリティベンダーCybereasonは2021年4月、世界7カ国の企業に在籍するセキュリティ専門家1263人に対してアンケート調査を実施した。その結果によると、過去にランサムウェア攻撃を受けて身代金を支払ったことがある企業の80%が、再びランサムウェア攻撃を受けた。例えば物流会社Toll Holdingsは2020年に2回ランサムウェア攻撃を受けた。法執行機関と協力して広範な攻撃に備えることは、将来の攻撃に向けて企業のセキュリティ体制を強化することにもつながる。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

鬮ォ�エ�ス�ス�ス�ス�ス�ー鬯ィ�セ�ス�ケ�ス縺、ツ€鬩幢ス「隴取得�ス�ク陷エ�・�ス�。鬩幢ス「�ス�ァ�ス�ス�ス�、鬩幢ス「隴主�讓滂ソス�ス�ス�ス鬩幢ス「隴趣ス「�ス�ス�ス�シ鬩幢ス「隴乗��ス�サ�ス�」�ス�ス�ス�ス

製品資料 株式会社AGEST

経営上のリスクに備える、脆弱性診断の目的や実践方法

サイバー攻撃による被害は、金銭的な損失だけでなく、信用の失墜や業務継続への支障といった経営上のリスクに直結する。このようなリスクへの備えとして有効なのが、「脆弱性診断」だ。脆弱性診断の目的や実践方法について解説する。

製品資料 東京エレクトロン デバイス株式会社

高度なエンドポイントセキュリティを実現、EDRの課題を解消するアプローチとは

昨今、組織のネットワーク外に分散したエンドポイントが、攻撃者にとって格好の標的になっている。このような中でエンドポイント保護の新たな形として期待を寄せられているのがEDRだ。しかし、運用が難しいなどの課題も多い。

製品資料 東京エレクトロン デバイス株式会社

セキュリティ最適化の鍵が「エンドポイント」と「認証情報」の保護である理由

サイバー攻撃が激化する中、防御側は限られたリソースで対策することに苦慮している。こうした状況において組織が優先すべきは、エンドポイントと認証情報の保護であり、これらの有効な防御手段として注目されているのが、XDRとITDRだ。

製品資料 LRM株式会社

セキュリティ教育の“目標設定/運用/教育頻度”の課題を一掃する方法とは?

昨今、セキュリティ教育の重要性が高まっている。しかし、効果を正確に測ることが難しく、目標設定や運用に悩むケースも少なくない。本資料では、担当者の負担を軽減しながら、このような問題を解消する方法を紹介する。

製品資料 LRM株式会社

マンネリ化しやすく効果測定も難しいセキュリティ教育、どうすれば改善できる?

情報セキュリティ対策では、従業員の意識を高めるための“教育”が重要となる。しかしセキュリティ教育は、効果の測定が難しく、マンネリ化もしやすいなど課題が多い。効果的なセキュリティ教育を、負荷を抑えて実現するには何が必要か。

アイティメディアからのお知らせ

驛「譎冗函�趣スヲ驛「謨鳴€驛「譎「�ス�シ驛「�ァ�ス�ウ驛「譎「�ス�ウ驛「譎「�ソ�ス�趣スヲ驛「譎「�ソ�スPR

From Informa TechTarget

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ

「テレワークでネットが遅い」の帯域幅じゃない“真犯人”はこれだ
ネットワークの問題は「帯域幅を増やせば解決する」と考えてはいないだろうか。こうした誤解をしているIT担当者は珍しくない。ネットワークを快適に利用するために、持つべき視点とは。

「ランサムウェア」被害を警察に通報すべき“納得の理由”:サイバー攻撃の被害者が通報したがらない理由【後編】 - TechTargetジャパン セキュリティ 髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€鬮ォ�ェ陋滂ソス�ス�コ�ス�ス

TechTarget驛「�ァ�ス�ク驛「譎「�ス�」驛「譏懶スサ�」�趣スヲ 髫エ�ス�ス�ー鬨セ�ケ�つ€鬮ォ�ェ陋滂ソス�ス�コ�ス�ス

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...