「Apple Vision Pro」の売れ行きが伸び悩む要因は、約50万円という価格だ。Appleが廉価版を開発するといううわさもあるが、それでも苦戦を強いられる可能性がある。価格を下げても解決が難しい本質的な課題とは。
Appleのヘッドマウントディスプレイ(HMD)「Apple Vision Pro」の売れ行きが伸び悩んでいる。その要因は50万円超という価格だ。Appleが廉価版のデバイスを開発しているうわさもあるが、アナリストは同社の戦略が成功するかどうかに対して懐疑的な見方を示す。なぜ苦戦を強いられるのか。
Apple Vision Proは、目の動き、手のジェスチャー、音声で操作可能なデバイスだ。2024年2月の発売当初、一部のアナリストは、Apple Vision Proが企業による拡張現実(AR)技術や仮想現実(VR)技術の活用を促すと予測した。一方、アナリストがApple Vision Proを全面的に支持しなかった理由は、米国で1台当たり3499ドル(日本では約59万円)という価格にあった。この予測は市場で現実のものとなった。
IDCのアナリストであるジテシュ・ウブラニ氏は「AR/VR業界とAppleは、さまざまな企業がApple Vision Proを採用し、従業員のコラボレーションを変革すると期待していたが、その多くは実現しなかった」と述べる。ウブラニ氏は「特に大規模な導入となると、企業はApple Vision Proの価格を正当化するのが難しい」とも付け加える。
Appleは、Apple Vision Proをビデオ会議やコラボレーションのためのハイエンドツールとして売り込み、同社のクライアントデバイス「Mac」と連携できると説明していた。しかしウブラニ氏は「そうしたことは、既存の安価なデバイスや、別のPCとペアリングする必要のないデバイスでも実行できる」と指摘する。
人事領域のアナリストであるジョシュ・バーシン氏も、企業が数百〜数千台のデバイスを購入することを考えると、HMDの価格は高過ぎるという。バーシン氏は「従業員がHMDを破壊、紛失する恐れがある」と述べ、工業用途や小売用途には適していないと説明する。
アナリストは、MicrosoftのHMD「HoloLens 2」にも言及する。HoloLens 2は1台当たり3500ドル(日本では約42万円)のハイエンドな複合現実(MR)デバイスだ。しかし普及には至らず、MicrosoftはHoloLens 2の生産を終了する方針だ。
調査会社Forrester ResearchのアナリストであるJ.P.ガウンダー氏は「教育や企業研修などの用途の大半は、Meta PlatformsのVRデバイスで十分に済ませられる」と述べる。Meta Platformsが販売する「Meta Quest 3S」の価格は約300ドル(日本では約5万円)からで、Apple Visio Proの10分の1以下だ。
Appleが廉価版のデバイスを開発しているという未確認の情報もある。しかしAppleがデバイスの価格を抑えたとしても、Meta Quest 3Sなどの比較的安価なHMDと競合する可能性は否定できない。
ガウンダー氏は、「AppleはMicrosoftのHoloLens 2から学ぶべきだった」と述べる。同氏は「Appleは高品質なデバイスなら支持を得られると考えていたが、価格と機能に見合ったニッチな市場が存在しなかった」と指摘する。
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