若手優位なイメージの強いスタートアップ市場だが、こうした「年齢の壁」はAI時代に取り払われつつあるという。シニア起業家に注目が集まるのはなぜなのか。
スタートアップ市場では「若手が有利」というイメージが根強く存在する。背景には、スピードや柔軟性、リスクテイクといった要素が重視される市場特有の性質がある。ただしそうした「年齢の壁」は取り払われつつある。
「スタートアップ市場におけるシニア人材の重要性はますます高まっている」。こう話すのは、50歳以上が起業したスタートアップへの投資に特化したベンチャーキャピタルBrilliant Mindsの創設者カテリーナ・ストロポニアティ氏だ。ストロポニアティ氏は、スタートアップ市場におけるシニア人材の強みについてどのように考えるのか。
ストロポニアティ氏 以前、別のファンドを運営していた際に、ピッチ(スタートアップが投資家に対して実施するプレゼンテーション)をする創業者の大半が35歳未満であることに気付いた。40代、ましてや50代を超える創業者は、たとえその分野の専門で実績があったとしても、控えめで自信がないように見受けられた。対照的に20代の創業者は、たとえ話に説得力がなくても、過剰とも言える自信を持っていた。この現象を目にして、なぜだろうと疑問を持つようになった。
50歳以上の創業者は、30歳の創業者と比べて、IPO(新規株式公開)到達など成功を収める確率が3倍高いとされている。それにもかかわらず、「起業は若い人がやるものだ」という世間のイメージから、自信を失うシニア起業家は少なくない。
現代の60歳は健康で活動的にもかかわらず、定年を迎えると半ば強制的に退職させられ、むしろそれが原因で健康状態や幸福度が低下する人もいる。古い退職制度の枠組みはもはや理にかなわなくなっており、再考する必要がある。もちろん、退職したい人にはその選択肢を用意すべきだが、就労や学習の意欲がある人向けに選択肢を用意することが重要だ。
ストロポニアティ氏 私自身はもともとエンジニアで、これまで主にディープテック(注1)やテクノロジー関連の企業に投資してきた。シニア人材に注目するようになったのは、100歳以上まで生きる人の大半が、進化や学習を続け、常に社会に貢献し続けているという事実に気付いたからだ。
※注1 科学や工学の最先端技術を活用し、深い専門知識や技術革新を伴う分野のこと。
ここで問題となるのは、社会が高齢化をどう捉えているかだ。一般的に、高齢化は「衰退」と見なされる。つまり、「年を取ると役に立たなくなる」という固定観念が根付いているのだ。これは大きな間違いだ。私は年齢を問わず個人の可能性を最大限引き出すことが重要だと考えており、そのための成長の原動力となる仕組みの創出を目指している。
これからわれわれを待ち受けるのは、人口構造の変化だ。人口の高齢化が進む中で、米国ではZ世代(1995年〜2009年に生まれた世代)と団塊世代(1947年〜1949年に生まれた世代)の人口がそれぞれ約7000万人と同数になる見込みだ。こうした状況下で、若者だけに注目するのはもはや現実的ではない。
後編は、AI技術の活用拡大と企業の関係や、シニア起業家が持つ強みを解説する。
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