AI活用の場は、デジタルの世界だけでなく物理空間にまで広がっている。NVIDIAが発表した物理空間を理解する基盤モデル「NVIDIA Cosmos」は、AI市場にどのような影響をもたらすのか。
GPU(グラフィックス処理装置)などの半導体製品を手掛けるNVIDIAは2025年1月、米ラスベガスで開催された電子機器の年次イベント「Consumer Electronics Show 2025」(CES 2025)で、AI(人工知能)関連の新サービスを複数発表した。
その中でNVIDIAは、「これからはフィジカルAI(物理的な法則を理解し、それに基づいて物理空間で行動するAI)の時代になる」と強調。物理空間を理解できる基盤モデル「NVIDIA Cosmos」を紹介した。本稿は、NVIDIA Cosmosの詳細や、市場に与える影響について考察する。
NVIDIA Cosmosには、「Nano」「Super」「Ultra」の3つのバージョンが存在する。
NVIDIA Cosmosは、物理的な現象に特化した2000万時間の動画を学習データとして活用しており、人間の歩く動作や手の動き、物を操作する様子などを理解できる。NVIDIAの設立者でCEOのジェンスン・ファン氏は、「NVIDIA Cosmosの目的はコンテンツを生成することではなく、物理空間を理解することだ」と語る。
他にも、NVIDIA Cosmosの主要な特徴として以下のようなものがある。
「NVIDIA Cosmosは、これまでデジタル空間に閉じていた生成AIを、物理空間へと解放するものだ」。こう話すのは、調査会社TECHnalysis Researchの創業者兼アナリスト、ボブ・オドネル氏だ。従来、AI技術は主にデータ処理や画像生成など「デジタル領域の作業」に用いられてきた。それに対してNVIDIA Cosmosは、AIモデルによって物理的な動作を生成し、それを実世界で活用することを可能にする。
調査会社Gartnerでアナリストを務める チラグ・デカテ氏は、「NVIDIA Cosmosを活用することで、ロボットや自動運転車に組み込まれるAIモデルの構築や拡張を、より効率的にできるようになる」と話す。開発者は仮想世界を構築するためのツール群「NVIDIA Omniverse」で、NVIDIA Cosmosを使って大規模なデジタルツイン(現実の物体や現象をデータで再現する技術)の構築やシミュレーションを実施できる。
調査会社Futurum Groupのダン・ニューマンCEOは、NVIDIA CosmosとNVIDIA Omniverseの組み合わせにより、NVIDIAが新たな市場機会を獲得すると見込む。特に、自動運転やロボティクス、AI PC(AI処理用のプロセッサを搭載するPC)といった、これまでNVIDIAが大きな影響力を持たなかった分野において、その存在感を拡大する契機になるという。
「NVIDIAは、電気自動車(EV)メーカーのTeslaが手掛けるような人型ロボットの開発と実用化に必要な部品と技術を、全て提供できる立場にある」とニューマン氏は付け加える。NVIDIA Cosmosを活用することで、人型ロボットがより高度なコンピュータビジョン(画像処理を通じて対象の内容を認識し、理解する技術)を実現する他、より自律的に動作し、さらに簡単にトレーニングできるようになるという。
Gartnerのデカテ氏は、「NVIDIA Cosmosの用途は物理世界のシミュレーションや自動運転、ロボティクスなどの分野に限られているように見える」と指摘。同時に、「現状は適用範囲が限定的に思えるが、将来的にはAIが主要な産業分野に浸透する中で、ロボティクスが飛躍的に普及する可能性は高い」とも予測する。
次回は、より効率的なAI開発を支援するNVIDIAの新サービス群を解説する。
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