苦境Intelの新CEOを任された“半導体業界のベテラン”への期待と不安元取締役のリップブー・タン氏が就任

業績不振に陥っているIntelの新CEOに就任したリプブー・タン氏は長年、Cadence Design SystemsのCEOを務めた人物だ。同氏を評価するアナリストもいれば、ある懸念を示すアナリストもいる。

2025年03月26日 07時00分 公開
[Antone GonsalvesTechTarget]

 経営再建中の半導体ベンダーIntelの新CEOに、半導体業界の“ベテラン”であるリプブー・タン氏が2025年3月18日付で就任した。タン氏は長年、半導体開発ソフトウェアベンダーCadence Design SystemsのCEOを務めた人物だ。2024年12月に退任したパット・ゲルシンガー氏の後任を務める。

新CEOに寄せられる期待と不安

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 タン氏は、2025年12月にゲルシンガー氏の後任として就任した暫定共同CEOのデビッド・ジンズナー氏とミシェル・ジョンストン・ホルトハウス氏からCEOを引き継ぐ。ジンスナー氏はCFO(最高財務責任者)の職に戻り、ジョンストン・ホルトハウス氏はIntel Productsのトップにとどまる。

 暫定取締役会議長のフランク・イェーリー氏は、声明で次のように述べる。「タン氏は優れたリーダーだ。テクノロジー業界の専門知識に加え、ファウンドリー(半導体の受託製造)業界に人脈を持ち、株主価値を創造してきた実績を有する。まさにIntelが次期CEOに求めていた要素だ」

 同社によると、タン氏は「半導体とソフトウェアにおける20年以上の経験」を持っている。タン氏は2009~2021年までCadence Design SystemsのCEOを務め、在任中に同社の収益を拡大し、株価を上昇させた実績がある。

 タン氏は「Intelはさまざまな顧客基盤、堅固な製造基盤を持っている」と述べ、「将来に向けたIntelの取り組みを、さらに発展させることを楽しみにしている」と語った。

 ロイター通信の報道によると、タン氏は2024年、ゲルシンガー氏の下での事業戦略や官僚主義的な組織体制、リスク回避的な文化に不満を募らせ、Intelの取締役会を辞任した。タン氏はCEO就任と同時に取締役会に復帰する。

 コンサルティング企業J.Gold Associatesのプリンシパルアナリスト、ジャック・ゴールド氏は、製品設計と製造の両面から半導体業界を理解しているCEOを選んだ取締役会の判断を評価する。Intelのファウンドリー事業に興味を持つ潜在的な顧客企業を獲得するためには、タン氏のような経験を持つ人材が必要だとゴールド氏は指摘する。

 ゴールド氏によると、タン氏を選んだことは、取締役会が設計部門とファウンドリー事業を1つの会社として維持することに関心があることを示している。会社を分割する意向があれば、より財務経験の豊富な人物を選んだという。

 ゴールド氏は「Intelを立て直すにはさまざまな課題があるが、タン氏の任命はポジティブな出来事だ」と話す。同氏は「必要な変革を進める際に取締役会が干渉しないことを願う」と述べ、Intelの立て直しには「最大2年かかる」と指摘する。「忍耐が必要だ」とも付け加えた。

 他の半導体ベンダーがIntelの製造部門の買収を検討しているという報道もある。ファウンドリーのTSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)、半導体ベンダーBroadcomがIntelのファウンドリー事業に関心を示している。ロイター通信は、TSMCがIntelのファウンドリー事業を運営する合弁事業への出資について、NVIDIA、Advanced Micro Devices(AMD)、Broadcomに打診したと報じた。

 調査会社Forrester Researchのシニアアナリスト、アルビン・グエン氏は「Intelのファウンドリー事業の分離についてはさまざまな議論がなされている。タン氏がこうした議論を覆さないとは考えにくい」と述べる。

 グエン氏は、タン氏のCadence Design Systemsでの長期にわたるCEOの経験が、Intelの立て直しに役立つとは限らないと懸念を示す。「タン氏の経歴は物足りないわけでも印象的というわけでもない。Cadence Design Systemsでの経験と業界知識はプラスに働くが、1つの会社に長くとどまっていたということは、Intelで直面する困難に対する経験は持ち合わせていない可能性がある」(グエン氏)

 Intelの復活は容易ではない。同社は長年、スマートフォンとAI(人工知能)という2つのトレンドの中で、成功を収めることができなかった。2024年第2四半期(2024年4~6月)、Intelの半導体市場シェアは7.5%まで低下した。これは、Informa TechTargetの一部門であるアナリスト企業Omdiaが2002年に市場調査を開始して以来、最低水準となった。AMD、NVIDIAなどがIntelのシェアを奪っている。

 前任のゲルシンガー氏は長期的な立て直しを計画していたが、取締役会はゲルシンガー氏が望んだ大規模投資では、十分なペースでリターンを生まないと判断した。2024年単体で同社の株価は50%以上下落し、時価総額は30年ぶりの低水準となった。

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