現実世界の設備やプロセスをデジタル空間で再現する「デジタルツイン」。製造業や都市開発だけではなく、身近な分野でも導入が進むデジタルツインの仕組みとメリットを解説する。
「デジタルツイン」とは、現実世界の物体やプロセスをデジタル空間で再現したものだ。デジタルツインが物理的な実体の代理として機能するためには、以下の3つの要素が全てそろっている必要がある。
これらの要素を備えたデジタルツインは、現実世界を再現したデータ以上の価値を提供する。デジタルツインを特徴付ける特性やシミュレーションとの違い、メリットなど、デジタルツインを理解する上で欠かせない概要を紹介する。
デジタルツインは一般的に、2D(2次元)または3D(3次元)の「CAD」(コンピュータ支援設計)画像と関連付けられる。ただし、視覚的な表現は必須ではない。デジタル表現やデジタルモデルであれば、データベース、方程式の集合、スプレッドシートなどで構成することも可能だ。
業界団体のDigital Twin Consortiumは、デジタルツインの基本定義に「特定の頻度と忠実度で同期する」という重要な要件を盛り込んだ。この定義は、デジタルツイン技術における以下の3つの観点を表している。
デジタルツインと物理的な実体を接続する物理的な接点としては、主に「IoT」(モノのインターネット)センサーを用いる。「機械学習」などの「人工知能」(AI)技術で強化された分析技術は、デジタルツインのデータ処理と分析において不可欠だ。
デジタルツインを構築するには、物理的な実体や現実世界の情報を詳細にデジタル化するために、膨大なデータの収集や3Dモデルの作成といった手間と工程が必要になる。この過程を「リアリティーキャプチャー」と呼ぶ。リアリティーキャプチャーでは通常、レーザースキャナーを使用して物理的な実体とその周辺空間にレーザー光を照射して、座標を測定する。スキャンデータは、対象物の形状を表す点群(3D空間内の点の集合)として集約される。
リアリティーキャプチャー技術は、レーザースキャナーからスマートフォン用ソフトウェア、ドローンにまで拡大しており、今後もデジタルツイン開発での活用範囲が広がる見込みだ。3D表現の作成と保存方法については、AI技術による革新が進んでいる。高度な機械学習を使用して2D画像から3D表現を生成する技術「NeRF」(Neural Radiance Fields)は、従来の3Dデータよりもデータ容量を大幅に圧縮できる。
デジタルツインは、没入型でインタラクティブなデジタル世界を実現する「仮想現実」(VR)などの技術を含む「メタバース」(仮想空間)の構成要素だ。「拡張現実」(AR)は、デジタルツインを実物に重ねて表示することで、現場の技術者に詳細な保守データを提供できる。VR画像のデータソースとしても活用できる可能性がある。
コンピュータシミュレーションなどの技術とデジタルツインの違いは、リアルタイムでデータを処理する能力だ。コンピュータシミュレーションは一度に1つのプロセスしかシミュレートできない。デジタルツインはセンサーとプロセッサ間で双方向にデータをリアルタイムで流すことができるため、複数のプロセスを同時にシミュレートできる。これによって、エンドユーザーは物理的な対象物の実際の環境や動作により近い形でデジタルツインを用いた実験が可能になる。
リアルタイムデータを複数プロセスで処理する機能によって、エンドユーザーは仮想空間で対象物やプロセスの状態を調査したり、ライブデータを照会したり、現実的な設定で仮想モデルの結果を観察したりできるようになる。一方、コンピュータシミュレーションには、対象物と接続した強固なネットワークや情報を整理するデータモデルが欠けている。
以下にデジタルツインを使う主なメリットを示す。
次回は、デジタルツインの課題と実践方法、展望を紹介する。
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