仮想空間がもたらす変革とは【中編】
航空機メーカーも使う「デジタルツイン」など“産業メタバース“の気になる実態
産業界で期待が寄せられる産業用メタバース。その活用が急がれる理由や将来動向を、「没入型ワークスペース」や「デジタルツイン」の活用事例と併せて解説する。
製造業をはじめとする産業界で、3次元(3D)仮想空間「メタバース」に期待が寄せられている。激化する市場競争、エネルギー価格の高騰、持続可能性(サステナビリティ)に対する危機意識といった要素を踏まえると、産業界には変革が必要だ。
産業技術の利用を推進するフィンランド国営企業VTT Technical Research Centre of Finland(VTT技術研究センター)でスマートマニュファクチャリングの責任者を務めるカロリーナ・サルミネン氏は、「産業界はネットワーク化や自動化の推進、品質の最適化を図る必要に迫られている」と語る。
特に製造業や建設業、物流業、保守運用といった労働集約型の業界において、高齢化が進む先進国では労働力不足が深刻化している。産業用メタバースを活用することで、アプリケーションやシステムの自律性強化、業務プロセスの仮想化、時間や場所に縛られない働き方を実現できる。
産業用メタバースの活用例1.没入型ワークスペース
産業用メタバースを用いる例の一つとして、サルミネン氏は「没入型ワークスペース」に注目する。没入型ワークスペースとは、従業員と、地理的に離れた場所のロボットやドローンをつなぐコラボレーション(協働)空間を指す。
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連載:仮想空間がもたらす変革とは
メーカーのメタバース活用事例
没入型ワークスペースでは、視覚や聴覚、触覚といった知覚要素を得ることができる。没入型ワークスペースは、製造業から商業市場、消費者市場へと段階的に普及する見込みだ。そのため先駆者は、後から参入する業界向けにガイドラインやベストプラクティスを策定する必要がある。
メタバースには、没入技術や「AR」(拡張現実)、「VR」(仮想現実)などの分野が存在する。分野ごとに、使用の目的や市場、用途だけでなく、セキュリティや物理的安全性の考慮事項も異なる。ゲーム用途と産業用途では法的要件が違うのも明白だ。通信機器ベンダーNokiaは、将来的に複数のメタバースを接続する「マルチバース」が誕生すると予測する。重要なのは、メタバースを相互接続して技術やデバイス、インタフェースを共有しても、その用途やビジネスモデルは異なるということだ。
産業用メタバースの活用例2.デジタルツイン
Nokiaでプラットフォーム部門のアプリケーションプログラムディレクターを務めるトゥーリ・アハバ氏は、産業用メタバースの用途の一つ「デジタルツイン」(現実の物体や物理現象をデータで再現したもの)に注目する。都市計画の作成から製造プロセスの反復処理まで、デジタルツインはさまざまな用途に使用され、既に幅広い業界に変革をもたらしている。
例えば、シンガポール政府が主体となって推進するプロジェクト「Virtual Singapore」は、政策決定や技術テストの支援を目的にシンガポールの都市をデジタルツインで再現する取り組みだ。航空機メーカーBoeingは、航空機の設計にデジタルツインの開発モデルを使用している。自動車メーカーBayerische Motoren Werke(BMW)は、ドイツのバイエルン州ババリアに生産工場を建設する前に、工場のデジタルツインを作成した。Nokiaも、物理世界だけでなくデジタル世界にも工場を持ち、運用を細部まで仮想化することに成功している。他にも、デジタルツインを用いて波止場にあるコンテナを追跡する港湾や、デジタルツインで航空機のエンジンや胴体を製造して、飛行シミュレーションを実施する航空宇宙企業の事例もある。
コスト削減や生産性向上、柔軟性の強化は、デジタルツインのメリットの一部に過ぎない。運用の監視や解析、直接的な管理を可能にすることで、近代経済の仕組みは大きく変わる。デジタルツインにおけるコミュニケーション機能やコラボレーション機能が強化されることで、シームレスな運用が実現し、没入型技術の利用が企業全体に広がると考えられる。
後編は、産業用メタバースを活用する際の課題を解説する。
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