車体ではなく「デジタルツイン」がレースの勝敗を分ける――その開発の裏側EVレーシングカーの改良【中編】

電気自動車(EV)のレース「フォーミュラE」出場チームのエンジニアは、「デジタルツインが勝敗の鍵を握る」と話す。デジタルツインでどのように高速化を実現するのか。

2024年01月12日 08時00分 公開
[Dickon RossTechTarget]

関連キーワード

データ分析 | 仮想環境


 「電気自動車(EV)のフォーミュラ1(F1)」と呼ばれる自動車レース「ABB FIA Formula E World Championship」(以下、フォーミュラE)。フォーミュラEではレーシングカーのシャシー(車体の骨格)やエンジンの仕様が規則で定められており、高速化を目的としたソフトウェア分野のイノベーションが進みやすい。

 フォーミュラEの出場チームの一つJaguar TCS Racingでチームディレクターを務めるジェームズ・バークレー氏は、同チームはレースに出場するたびに新しいソースコードを用意しており、ソフトウェアの進化により車体は絶えず速くなっていると説明する。

レーシングカーを再現する「デジタルツイン」

 ソフトウェアのイノベーションを支援するのが、Jaguar TCS Racingの公式テクノロジーパートナーTata Consultancy Services(TCS)だ。TCSでバイスプレジデント兼シニアマネージングパートナーを務めるバルン・カプール氏は、データやクラウドコンピューティング、「デジタルツイン」(現実の物体や物理現象をデータで再現したもの)関連の領域を担当する。

 レース開始前から終了後までに、Jaguar TCS Racingは車体やコースに設置したセンサーから約3TBのデータを取得する。取得したデータは全てクラウドストレージにアップロードする。英国オックスフォードシャー州グローブの研究施設にあるシミュレーターにそのデータをダウンロードし、デジタルツインを作成する。デジタルツインは車体のシステムや挙動をできるだけ忠実に再現する。

 Jaguar TCS Racingの選手たちはレースに向けた練習期間、シミュレーターを操縦して次のレースに備える。シミュレーターはハンドルから座席、レース中に使用するエンジニアリングスタッフとの無線まで、本物のコックピットと同様に作られており、レーシングカー「I-Type 6」のデジタルツインを仮想空間で運転できる。

 エンジニアリングチームはシミュレーターが算出したデータに基づいて実車を走行し、そこから得たデータを用いてシミュレーターを調整。ハードウェアをどう動かすのが最適なのかを見極める。「デジタルツインの精度をいかに向上させるかが勝敗の鍵を握る」とカプール氏は説明する。


 後編は、公道を走るEVにフォーミュラEが与える影響を解説する。

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news125.jpg

D2C事業の約7割が失敗する理由 成功企業との差はどこに?
クニエがD2C事業の従事者を対象に実施した調査の結果によると、D2C事業が成功した企業は...

news088.png

企業のSNS活用実態 最も使われているのはX? Instagram?
企業はSNSをどのように活用しているのか。調査PRサービスを提供するPRIZMAが、最も使われ...

news055.jpg

日本のモバイルアプリトレンド2025 クロスデバイス戦略とMMMの重要性とは?
急速に進化するモバイルアプリ市場においてAIと機械学習の活用が本格化し、マーケティン...