なぜAI時代のストレージは“クラウド優勢”なのか?AI導入で見直すストレージ戦略【中編】

AIの実用化が進む中で、ストレージに求められる要件も変化しつつある。そうした中で、クラウドストレージの活用が広がっている背景とは。

2025年06月27日 05時00分 公開
[Stephen PritchardTechTarget]

 生成AI(AI:人工知能)の活用が広がる中で、企業が頭を悩ませているのが「どこにデータを置くべきか」という問題だ。オンプレミスとクラウドどちらの環境でストレージを運用するかは、AIシステム全体の性能に直結する。こうした中で、クラウドストレージを活用する動きが広がっているのはなぜなのか。

なぜAI時代のストレージは“クラウド優勢”なのか?

 一部の企業では、通常の運用時はオンプレミス環境を利用し、処理負荷のピーク時のみクラウドリソースを利用する「バースト」構成を採用している。この構成は、季節的要因やキャンペーンなどで一時的に処理量が増加するケースに有効だ。

 リソースを柔軟に活用したいというニーズは、生成AIの普及によってさらに高まっている。特に、大規模言語モデル(LLM)をはじめとするAIプロジェクトで扱うデータ量は飛躍的に増加しており、それに伴いスケーラビリティ(拡張性)とコスト効率を両立できるクラウドストレージは有力な選択肢となっている。

 こうした背景を受け、クラウドベンダー各社はAIワークロードに特化したストレージの開発に力を入れている。データ準備、AIモデルの学習、推論、アーカイブといった各フェーズにおいて求められる、容量、スループット、レイテンシなどの要件に応じて、ユーザー企業が最適な構成を柔軟に選べるものだ。

 Googleのクラウド部門Google Cloudの技術資料では、機械学習の各フェーズで求められるストレージ要件が異なる点を強調している。例えば、トレーニングフェーズでは、大容量データの転送に対応できる高スループットのストレージが重視される。一方、推論や微調整、アーカイブなどのフェーズでは、低レイテンシやコスト効率の高さが求められる。

 こうした設計思想は、Google Cloudのクラウドサービス群に限らず、「Microsoft Azure」「Amazon Web Services」(AWS)といった他の主要クラウドサービスにも共通する。IBMやOracleといったベンダーも、AIストレージ要件に対応するクラウドベースのストレージサービスを提供している。

 AIモデルが扱うデータの大半は非構造化データであり、その保存には「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)や「Azure Blob Storage」「Google Cloud Storage」などのオブジェクトストレージが適する。NetAppの「ONTAP」をはじめとするサードパーティー製ソフトウェアもハイパースケーラー各社から提供されており、クラウドとオンプレミス間のデータポータビリティ(可搬性)を高めることが可能だ。

 AIワークロードの中でも、特に推論フェーズの本番運用では、ストレージの選定難易度はさらに高まる。リアルタイムの処理性能が求められる場面では、転送プロトコル「NVMe」(Non-Volatile Memory Express)を採用したSSDといった高性能ストレージを階層的に組み合わせることが求められる。一方、初期データの取り込みやAIモデルの出力アーカイブといった用途では、HDDも引き続き活用されている。

 上述したストレージは特定のアプリケーションに依存しない汎用(はんよう)設計だが、ワークロードの特性に応じて性能やコストを調整でき、AI用途にも十分適用可能だ。近年では、AIワークロードに特化して設計されたクラウドストレージも登場しており、今後の主流となる可能性もある。


 次回は、次世代のAIストレージを支える技術について解説する。

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