オンプレミスか、クラウドか――AIの性能を引き出すストレージとは?AI導入で見直すストレージ戦略【前編】

AI導入が進む中で、ストレージに求められる要件は複雑化しており、「クラウドとオンプレミスどちらの環境で運用すべきか」に悩む企業は少なくない。それぞれの利点を比較しよう。

2025年06月20日 05時00分 公開
[Stephen PritchardTechTarget]

 AI(人工知能)技術の導入が進む中で、インフラに求められる要件は複雑化している。大規模言語モデル(LLM)をベースとするAIシステムは膨大量のデータを扱う必要があり、特に学習フェーズでは投入するデータ量がAIモデルの精度に影響する。推論フェーズでは十分なスループットと低レイテンシが求められ、処理の遅延はユーザー体験を大きく損なう要因となる。

 こうした要件に応える上で、重要な検討事項となるのが「オンプレミスストレージとクラウドストレージどちらを選ぶか」という点だ。本稿はそれぞれのメリットを整理する。

オンプレミスか、クラウドか AIの性能を引き出すストレージとは?

 ストレージに高い処理性能やアクセス速度、セキュリティを求める場合、オンプレミスストレージが依然として選ばれる傾向にある。これはAI用途においても同様だ。オンプレミスはクラウドストレージと比較して、AIモデルの要件に応じてストレージの種類や構成を最適化しやすい他、ネットワーク帯域の制約を受けにくいといった利点がある。

 AIモデルをデータソースの近くに配置できる点も実用的なメリットがある。一般的にエンタープライズアプリケーションでは、リレーショナルデータベース(RDB)がオンプレミスのブロックストレージ上で稼働しており、アプリケーションはそこから直接データを取得する構成となっている。

 AI処理が基幹システムの性能に与える影響にも配慮すべきだ。ERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客関係管理)などの業務システムがAIシステムのデータソースとなる場合、AI処理の負荷がこれらシステムの性能に悪影響を与えることは許容しがたい。セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスの観点からも、重要なデータはクラウドに移行せず、オンプレミスに保管すべきという意見も根強い。

 一方のクラウドは、優れたスケーラビリティ(拡張性)と、初期投資を抑えて導入できる点が大きなメリットだ。利用した分だけコストが発生するため、PoC(概念実証)や短期的なAIプロジェクトとの相性も良い。

 AIプロジェクトの内容によっては、データレイクやSaaS(Software as a Service)アプリケーションなど、そもそもデータがクラウド上に存在するケースもある。クラウドストレージは主にオブジェクトストレージで構成されており、LLMが扱う非構造化データとの親和性も高い。

 近年は、オンプレミス環境でオプジェクトストレージを構成可能なシステムが増えており、オンプレミスとクラウドのストレージを統合的に管理できる基盤が整いつつある。物理的な保管場所が異なるデータを、あたかも単一のストレージ空間で扱えるように見せる「グローバル名前空間」の実現も現実味を帯びてきた。

 こうしたアーキテクチャは、AIワークロードをオンプレミスとクラウドサービス間で柔軟に移動させたい、あるいは両者を併用するハイブリッドクラウド運用を志向する企業にとって重要なポイントとなる。


 次回は、クラウドストレージが有力視される理由を解説する。

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