「出社したくなるオフィス」を設計する上で、自然とのつながりを感じられる「バイオフィリックデザイン」は有効なアイデアだが、実現は容易ではない。手の届く範囲で工夫できる「帰属意識を高めるデザイン」とは。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)を経て日常に戻りつつある中、オフィス回帰を掲げる企業が現れ始めている。従業員に出社を促す目的でオフィスデザインの改善に取り組む経営層の中には、自然とのつながりを感じられる「バイオフィリックデザイン」に注目する者がいる。これは「人間は、緑あふれる自然を本能的に求める」という仮説を取り入れた空間デザインの手法だ。植物や自然光を取り入れた職場環境が従業員のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)に与える影響を研究した論文も幾つか登場している。
ただし、理想通りのオフィスを設計することは容易ではない。現実解となる「従業員が出社したくなるオフィスデザイン」とは。
スタンフォード大学(Stanford University)土木環境工学科博士課程のイザベラ・ダグラス氏ら研究グループは、2022年10月発行の学術誌『Building and Environment』224号に論文「Physical workplaces and human well-being: A mixed-methods study to quantify the effects of materials, windows, and representation on biobehavioral outcomes」を発表している。この論文は、職場環境に植物や自然光を取り入れると従業員のウェルビーイングに良い影響を与え、幸福感に寄与する可能性があることを示唆している。自然素材と自然光のある環境でストレス誘発タスクに取り組んだ被験者は、帰属意識や自己効力感などが高まっていたという。
この指摘は過去の研究結果とおおむね一致している。ハーバード大学(Harvard University)のジエ・イン氏ら研究グループが2018年3月発行の学術誌『Building and Environment』132号に発表した論文「Physiological and cognitive performance of exposure to biophilic indoor environment」によると、被験者が装着したウェアラブルセンサーのデータは、バイオフィリックなオフィスが、血圧の低下や短期記憶能力の改善に影響を及ぼすことを示していた。プリモルスカ大学アンドレイマルシッチ研究所(University of Primorska Andrej Marusic Institute)のディーン・リポバック氏らが2021年10月発行の学術誌『Indoor and Built Environment』に発表した論文「Effects of visual exposure to wood on human affective states, physiological arousal and cognitive performance: A systematic review of randomized trials」は、木材を使った内装やインテリアが人のストレスを軽減する可能性を示唆していた。
だが、バイオフィリックデザインの要素を取り入れることができる企業ばかりではない。
「デザインの視点を持って設計したオフィスはそれほど多くない」と語るのは、コンサルティング企業Deutserでプレジデント兼CEOを務めるブラッド・ドイツァー氏だ。同社は健全な企業文化の醸成に力を入れている。
バイオフィリックデザインの要素を取り入れることは難しくても、従業員の帰属意識を育み、従業員にとって意味のある要素を取り入れてオフィスをデザインすることは可能だとドイツァー氏は主張する。例えば卓球台を配置し、陣地を行き来するピンポン玉を「ビジネスにおいても、試行錯誤を繰り返せば行くべき所にたどり着く。そのためには絶え間ない意見交換が必要だ」というメッセージを従業員に示すための装置にするのだ。
他にもドイツァー氏は、サッカー場のハーフウエーラインを室内デザインに取り入れると、そのデザインが比喩として機能する可能性を例に挙げた。管理職が問題に対する公平なアプローチを探り、議論の妥協点を見つけたい場合、ハーフウエーラインのある部屋で会議を開くことで、メンバーにその意図が伝わる可能性がある。
「例えば小休止する場所として図書室を設置すれば、従業員が冷静になる時間を持つこともできる。オフィスデザインは帰属意識を高める。帰属意識は定着率を高め、業績も向上させる」(ドイツァー氏)
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