自然素材や採光などの環境要素は、従業員の健康と生産性にどこまで寄与するのか。キーワードとなる「バイオフィリックデザイン」について説明する。
職場環境に植物や自然光を取り入れることは、従業員のウェルビーイング(身体的、精神的、社会的に良好な状態)に良い影響を与える可能性がある。ストレス軽減、帰属意識の向上、業務の生産性向上などの効果を期待して、「バイオフィリックデザイン」がオフィスデザインの専門家から注目を集めている。これは「人間は、緑あふれる自然を本能的に求める」という仮説を取り入れた空間デザインの手法だ。
複数の研究者が、自然素材や自然光のある労働環境が人間に与える影響を検証している。スタンフォード大学(Stanford University)土木環境工学科博士課程のイザベラ・ダグラス氏ら研究グループは2022年10月発行の学術誌『Building and Environment』224号に論文「Physical workplaces and human well-being: A mixed-methods study to quantify the effects of materials, windows, and representation on biobehavioral outcomes」を発表した。この論文では被験者413人を対象に、職場環境が個々の幸福感に与える影響を検証。その結果、自然素材と自然光のある環境でストレス誘発タスクに取り組んだ被験者は、帰属意識や自己効力感などが高まっていたという。人事部門にとって、この結果はオフィスデザインを見直すきっかけになる可能性がある。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(パンデミック)を機に、オフィス勤務とテレワークを組み合わせた働き方「ハイブリッドワーク」が広がった。パンデミック以前から従業員の働きやすさを考えたオフィスデザインに取り組んできた経営者もいるが、従業員をオフィスに呼び戻すためにオフィスデザインの改善に着手しようとする経営者もいる。
「職場での楽しみは人とのコミュニケーションだ」。不動産サービス会社Jones Lang LaSalle IPのWork Dynamics部門でアメリカ大陸担当CEOを務めるサンジャイ・リシ氏はこう語る。リシ氏は従業員が出社する目的を「同僚とコミュニケーションを取るため」だと考えている。
オフィスの管理やデザインを手掛ける企業の経営幹部として、リシ氏は「自宅やオフィス以外の場所で働いていると、自社への帰属意識は薄れがちだ」と考察する。同氏によると、近年はバイオフィリックデザインの要素を取り入れるオフィス設計が増えつつある。例えば天窓から自然光を取り入れたり、室内の壁を植物で覆ったり、噴水や池を配置したりして、従業員が自然とのつながりを感じられるようにする。
スタンフォード大学土木環境工学科博士課程のエバ・ビアンキ氏ら研究グループも、職場環境が従業員の動作や健康に与える影響を調査し、バイオフィリックデザインの重要性について指摘している。同研究グループが2023年11月に公開したプレプリント(査読前論文)「Effects of Architectural Interventions on Psychological, Cognitive, Social, and Pro-Environmental Aspects of Occupant Well-Being: Results from an Immersive Online Study」によると、写真や動画を使って被験者411人をさまざまな環境に没入させた結果、自然素材や採光などの建築的特徴のある環境ではウェルビーイングの指標に有意差が見られた。同論文はサンディエゴ州立大学(San Diego State University)のニール・クレピース氏らが2001年に発表した論文「The National Human Activity Pattern Survey (NHAPS): A Resource for Assessing Exposure to Environmental Pollutants」の「米国に暮らす大多数の人々は1日の約90%を屋内で過ごす」という結果を引用して、「だからこそ、建物は人の健康を左右する重要な役割を果たしている」と主張する。
後編は、「従業員が出社したくなるオフィスデザイン」の具体的な実践例について考察する。
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